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『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

インタビュー・テキスト
藤原ちから
撮影:越間有紀子
2012/10/12

30代前半で新しいフェスティバルのディレクターとして抜擢されて

―市村作知雄さんとの出会いは?

相馬:フランスから一時帰国した際にBunkamuraのカフェで初めて会って、いきなり「じゃあ、うち来れば」と。ただ当時は私、半年くらい経ったらフランスに帰ろうと思ってたんです(笑)。それが結局もう10年になりますね……。市村は当時からずっと「あと数年したらフェスティバルのディレクターは30代の人間にする」と宣言していたので、まあその通りになりました。海外のフェスティバルだと30代前半でディレクターになるのは珍しい話ではないし、私も心の準備はできていたというか。

『たった一人の中庭』ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKs(『F/T12』)
『たった一人の中庭』ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKs(『F/T12』)

―そしていよいよ『F/T』が発足します。

相馬:ヨーロッパではどんな小さな町にも劇場があって、そこに行けば同時代の世界の表現に触れられる。その豊かさを日本でも当たり前のものとして享受できたら、という思いはありました。

『1月8日、君はどこにいたのか?』アミール・レザ・コヘスタニ(『F/T12』)©Mohammadreza Soltani
『1月8日、君はどこにいたのか?』メヘル・シアター・グループ(『F/T12』)©Mohammadreza Soltani

―新しい観客層を意識する、ということはありましたか?

相馬:強くありましたね。自分の過去を振り返ってみて、ああいう演劇を食わず嫌いしている若者でも観に行けるフェスティバルでありたいと。だから最初の『F/T09』はグラフィック的にもあんまり人を警戒させないようにと、可愛いピンク色のガーリーなロゴにしたんですけど……、あれは犯罪的に中身と違ったという噂です(笑)。最初はとにかくフェスティバルを日本に定着させることを目標にしつつ、今までの日本の演劇界にはなかったような、強い、新しい価値観を提示したかった。

『F/T12』パンフレット

―『F/T09春』『F/T09秋』のテーマはそれぞれ「あたらしいリアルへ」と「リアルは進化する」。そして『F/T10』は「演劇を脱ぐ」でした。

相馬:私はテーマやコンセプトを「全てを串刺すもの」としては考えていなくて、むしろ複数の多様な価値観に基づく作品群から浮かび上がる「輪郭」だと捉えています。ですからそれは、あくまでフェスティバルという混沌とした宇宙で、お客さんにひとつの「星座の読み方」を提案するようなものです。作品という星々の間に、あるラインを見出すのはお客さん自身の作業だと思っています。もちろんこちらで強く提案してきたラインとしては、広い意味でのポストドラマ演劇の流れがあります。海外からの代表的な作品でいうと、ロメオ・カステルッチやリミニ・プロトコルなどが挙げられます。リミニは招聘のみならず日本バージョンの作品を制作して日本の文脈や風景に落とし込むことによって、ドキュメンタリー演劇のあらたな潮流を、強いインパクトと共に紹介できたと思います。日本でも、高山明さんが主宰するPort Bが、演劇にまつわる既存の概念や制度を確信犯的に問い直す作業を継続しています。また飴屋法水さんが演劇に戻ってきてくれたことも大きかった。飴屋さんの作品には、リアルなものとフィクショナルなものが常に50|50で拮抗する演劇ならではの力が宿っていて、これまで演劇に足を運ばなかった層のお客さんにも、演劇の魅力を強烈に印象づけてくれたと思います。

『Cargo Tokyo-Yokohama』リミニ・プロトコル(『F/T09秋』) ©Jun Ishikawa
『Cargo Tokyo-Yokohama』リミニ・プロトコル(『F/T09秋』)
©Jun Ishikawa

「問題は『何を描くか?』ではなく『どう描くか?』」

―『F/T』をディレクションするにあたって、日本の演劇シーンへの不満や、批判的な視点というのはありました?

相馬:内容に関して、ひとつのラインだけを擁護するのはフェスティバルとして先細ってしまう危険性があると思うので、なるべく多様性をキープしていきたい。私は作家が何を描いても良いと思っているんです。それが半径3mのミクロな恋愛の話であっても、世界規模の普遍的な話であっても。問題は「何を描くか?」ではなく、それを「どう描くか?」。そうした「how」の部分にこそ、それぞれの作家性が強く出ると思いますし、本当の意味での政治性が宿る。そしてその政治性は、単に舞台の上だけで完結するものなく、舞台と観客の関係性や、作品の形式や構想そのものにも影響を与えるものになるはずです。

『夢の城』ポツドール(『F/T12』)
『夢の城』ポツドール(『F/T12』)

―昨年の『F/T11』のテーマは「私たちは何を語ることができるのか?」でした。やはり大地震の影響はあまりにも大きかったと感じます。

相馬:私にとって、この震災と向き合わずにフェスティバルをやるという選択肢はありませんでした。今のこの時代や現実に応答すること、それが私が信じている演劇、あるいは芸術という行為なので、震災という目の前の現実に愚直に応答するしかなかった。それはたぶん作り手たちも共有してくれている感覚だったと思います。実際蓋を開けてみれば、新作を依頼していた全ての日本のアーティストが、直接的か間接的は別として、震災に応答する作品を発表してくれました。海外から招いたロメオ・カステルッチも、飴屋さんとの共振を経て、夢の島であのようなレクイエム的な作品を作ってくれました。また日本の作家でも、例えば岡崎藝術座の神里雄大さんは、移民問題を戯画的に描くことで今の日本の微妙な空気感に警鐘を鳴らしました。これは震災を経由しなかったら生まれなかった作品だと思います。

『レッドと黒の膨張する半球体』岡崎藝術座(『F/T11』)©富貴塚悠太
『レッドと黒の膨張する半球体』岡崎藝術座(『F/T11』)©富貴塚悠太

―岡崎藝術座は今回、韓国で稽古をしたりしていて、発想や視野が世界規模にスケールアップしつつあるのを感じます。ちなみに招聘作品を選ぶ際の基準は何だと思いますか?

相馬:世の中に素晴らしい作品はたくさんあるので、『F/T』で上演するものは単に「素晴らしい」というだけではありません。作品にどんな「問い」が貫かれているか。またその「問い」が、『F/T』のテーマとなる問いと呼応するかどうか。今回で言うと、震災後の変わってしまった現実をどうやって掴み直していったらいいのかということです。これは去年からずっと継続している問いですが、この現実の巨大さに対してまだまだ道半ばだと感じます。

『ツァイトゲーバー』村川拓也(『F/T11』)©富田了平
『ツァイトゲーバー』村川拓也(『F/T11』)©富田了平

―しかもその現実自体、何も終わってないという。

相馬:そうなんです。だからその問いを続けていくしかない。そこで浮かんできたキーワードが「ことば」だったんです。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー12(F/T12)』

2012年10月27日(土)〜11月25日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
東京都 目黒 The 8th Gallery(CLASKA 8F)
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

相馬千秋

1975年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、フランスのリヨン第二大学院にてアートマネジメントおよび文化政策を専攻。2002年よりアートネットワーク・ジャパン(ANJ)勤務。『東京国際芸術祭』「中東シリーズ04-07」を企画・制作。06年には横浜に急な坂スタジオを設立、10年までディレクターを努める。『東京国際芸術祭2008』ディレクターを経て、『フェスティバル/トーキョー』のプログラム・ディレクターに就任。

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