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『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

インタビュー・テキスト
藤原ちから
撮影:越間有紀子
2012/10/12

「アジアのアクチュアルな状況に対して、持続的に、骨太のことをやりたい。急務だと思うんです」

―若いアーティストたちが飛躍していく場として位置づけられた「『F/T』公募プログラム」も、昨年からアジアへと門戸が開放されました。一方で相馬さん自身も、特に最近は「東アジア」という枠組みを視野に入れて発言されていますよね?

相馬:そもそも今の舞台芸術の中心、つまりルールと制度とお金のイニシアティブはヨーロッパにある。それに対して私たちはアジアの端っこで勝手にガラパゴス的に自生してきたんだなということを『F/T』を何回かやっていくうちに改めて実感しました。私はそのガラパゴス的な豊かさをとても肯定しているし、だからこそユニークでローカルなものがヨーロッパでも高く評価されてきているのだと思います。でも、そのヨーロッパに作品を供給することで評価されるという現状に甘んじるのは、文化帝国主義を無批判に受け入れるようなもの。もっとこの東京、日本、アジアという、自分たちの足元から生まれてくる豊かなものを、自分たちの文脈の中で、自分たちのイニシアティブや意思によって同時代的に共有していかなくてはと。その時に、「自分たち」というのが東京や日本だけで完結するのではなく、アジア、特に東アジアという文化圏で共有していくことが、今後特に重要なのではないかと。これから時間をかけて、アジア独自のプラットフォームを作るのが私の次の大きな目標です。公募プログラムに「『F/T』アワード」というコンペを作ったのも、賞を決める過程の議論をアジア圏内で共有することで、アジアの演劇シーンの共通言語を構築していこうと考えたからです。私たちは今あまりにも批評の面で交換をしなさすぎているから。

『狂人日記』 新青年芸術劇団 (『F/T12』公募プログラム)©Xia Maotian
『狂人日記』 新青年芸術劇団 (『F/T12』公募プログラム)©Xia Maotian

―文脈を知らないですからね、お互いに。

相馬:そうなんです。だからまずはそれぞれのローカルな作品を東京で上演してもらって、その文脈を徐々に共有していければと。実は『F/T』とは別に、東アジア4か国(韓国、中国、台湾、日本)のアーティストや批評家を招いたレジデンスのプロジェクトを始めることになっているんです。こんな最悪な政治的状況になるとは全然知らずに1年ほど前から計画していたのですが。

―しかし人の移動が起きるのが、フェスティバルや様々なプロジェクトの魅力ですよね。人種が混ざるし、人材も育っていく。

相馬:ほんとに。私、もっともっと大胆かつ集中的にアジアのことをやりたいんですよ。例えば東京にも、アジアとアートに特化した交流拠点とかあってもいいと思うんですね。でも現状ではそれはおろかアートを媒介にした対話の場さえ十分にないじゃないですか。アジアのこういうアクチュアルな状況に対して、持続的に、骨太のことをやりたい。急務だと思うんです。でも今は、お金も制度も全くついてこないので、大変歯がゆい思いをしています。

『バラバラな生体のバイオナレーション!』シアタースタジオ・インドネシア(『F/T12』公募プログラム)© Afrizal Malna
『バラバラな生体のバイオナレーション!』シアタースタジオ・インドネシア(『F/T12』公募プログラム)© Afrizal Malna

「斜に構えたり、ポーズをとったり、表面的にポップなだけでは、この危うい現実に対抗していけないと思う」

―今は、隣人を意識せざるをえない土壌ができている、とも言えそうです。

相馬:こういう時にこそ、芸術の力が問われると思うんです。芸術は具体的に何かの役に立ったり問題を解決したりするものではないけれど、その想像力によって、時代や国境を超えて、ある厳しい現実に対抗できるものだと私は信じています。それが、アートという名の下にちょっと斜に構えてみたり、ポーズをとったり、表面的にポップだったりするだけでは、震災や領土問題も含めたこの危うい現実に対抗していけないのではないかと思います。

―混沌とした時代状況の中で、芸術家の存在はより重要なものとして立ち現れてきそうですね。

相馬:そう。芸術家同士の交流は、必ずこういう急進的な動きに対して、別の動きをするものです。みんなが右と言った時にも左を向けるのがアート。私はそういう声を挙げていくべきだと思っています。たとえ100対1でも。

『ゲイ・ロメオ』ダニエル・コック・ディスコダニー(『F/T12』公募プログラム)©Sven Hagolani
『ゲイ・ロメオ』ダニエル・コック・ディスコダニー(『F/T12』公募プログラム)
©Sven Hagolani

―継続する時間の中で蓄積されていくこともある気がします。

相馬:フェスティバルは年に一度の場ですから、それと並走する形で常に持続する運動をどう作っていけるか。東アジアのレジデンスや批評のプラットフォームだけでなく、ゆくゆくは新たなメディアも作りたいと思っています。日本で一番大きな舞台芸術フェスをやらせてもらっている身として、あらかじめ要請された枠を超えて、常に時代や社会に応答した新しい提案をしていくのは、自分の重要な責務だと思っています。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー12(F/T12)』

2012年10月27日(土)〜11月25日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
東京都 目黒 The 8th Gallery(CLASKA 8F)
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

相馬千秋

1975年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、フランスのリヨン第二大学院にてアートマネジメントおよび文化政策を専攻。2002年よりアートネットワーク・ジャパン(ANJ)勤務。『東京国際芸術祭』「中東シリーズ04-07」を企画・制作。06年には横浜に急な坂スタジオを設立、10年までディレクターを努める。『東京国際芸術祭2008』ディレクターを経て、『フェスティバル/トーキョー』のプログラム・ディレクターに就任。

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