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物質と動物と人間をつなぐもの 勅使川原三郎インタビュー

物質と動物と人間をつなぐもの 勅使川原三郎インタビュー

インタビュー・テキスト
桂真菜
撮影:西田香織

自分の欠点を知ることが、成長するチャンス

―1985年に結成した勅使川原さんのグループ「KARAS」の活動についてもお伺いしたいのですが、結成後、勅使川原さんはダンス以外の分野にも刺激を与えてきましたね。

勅使川原:80年代には、まだコンテンポラリーダンスという分野は、日本ではそれほど知られていませんでした。バレエ以外には「モダンダンス」と「舞踏」しかなかった。感じたことを身体で表現するためには、いずれかの組織に属して、登竜門を通らなくてはならない時代だったんです。またモダンダンスの公演には、モダンダンスに関わる人しか観に来ないといった、狭い範囲でダンスが捉えられていました。ところが、KARASの最初の公演には、美術や音楽などに興味を持っているお客さんがたくさん来てくれました。従来のダンスのお客さんじゃない人が喜んでくださった。その全てが、初めて勅使川原三郎を観る人たちで、ダンスを観るのも初めてという人も多かった。それからファッション関係者や、映像やメディア関係者を含め、幅広い観客が公演に集まるようになりました。まもなくKARASは海外公演に招かれるようになり、国際フェスティバルに参加する機会が増えました。

―コンテンポラリーダンスの枠を拡げる、ユニークな活動を展開した背景には、何か事情があったのでしょうか?

勅使川原:90年代から2000年にかけて、コンテンポラリーダンスのあり方に危惧を感じるようになりました。80年代以降、芸術の各ジャンルの垣根を越えた交流が盛んになってきたのに、コンテンポラリーダンス界は閉鎖的で、かつてのモダンダンスの状況を見るようでした。新しいダンスのお客さんを作り出さないと、これから先に繋がっていけない。そして表現者は表現する楽しむ気分の先に、苦しみや混乱を乗り越えるだけの強さを持たなきゃいけないと思います。「もうコンテンポラリーダンスはダメですね」なんて言う人がいるけれど、もともとダメだったんです。一過性のブームはすぐ衰退して観客も去ってしまいます。僕は表現者として作品を作り続けることが、自分のメッセージだと思っています。

勅使川原三郎 ©今野裕一
勅使川原三郎 ©今野裕一

―今回『F/T』に参加するのは3回目(2回目は朗読)ですが、『F/T』というエッジのきいた、アートの可能性をひらくようなフェスティバルについてどう見ていますか?

勅使川原:世界各地の舞台フェスティバルには多様な形態があるから、それぞれどういうコンセプトで運営しているかということは気になります。そんな中で、観客に過剰なサービスをせず、新しい表現を共有しようとする『F/T』の姿勢には希望があるように感じています。観客は作品に積極的に関わろうとすれば、その価値を自分たちで作ることができる。僕らがヨーロッパで仕事を続けているのは、作品に対して芸術としての価値を自分で見定めたいという観客が大勢いるからです。何を自分が良いと思っているか、それを知り、考えることは自己表現でもあるんです。

―確かに作品を鑑賞し、考えることも創造に近いかもしれません。『F/T12』で上演する『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』について紹介していただけますか。

勅使川原:「DAH-DAH-SKO-DAH-DAH」とは、宮澤賢治の詩『原体剣舞連(はらたいけんばいれん)』からの引用ですが、この剣舞は岩手県江刺地方に伝わる民俗芸能で、亡くなった人に捧げる鎮魂の踊りです。「ダーダースコダーダー」という擬音は、舞とともに打つ太鼓のリズム以外にも、いろいろなものを表しています。たとえば、風、足を踏み鳴らす音、心臓の鼓動……。死んだ人には、もはや上下も、年齢差もない。生きている者は、ギッタギッタして血だらけで騒ぐ。死者と生者が交感する剣舞をめぐる描写の先に「打つも果てるもひとつのいのち」と生命について賢治は記しています。すると、詩の最後に置かれた「DAH-DAH-SKO-DAH-DAH」からは、死んだ人があの世に行って仏さんになるだけじゃない気配が伝わってくるんです。足を踏みならす音や、激しくこすれる音が想起されるでしょう。言語の世界としての言葉より、空間でぶつかりあってる音としての言葉、まさにダンスそのものなんです。

―最近は、大学やワークショップでダンスを伝える機会も増えました。若い世代にダンスを通して教えたい大切なことはありますか?

勅使川原:教えるというよりは、違う世代の知らない人と出会って、僕が伝えられるのはこういうことなんだな、と自分が見つけるつもりでやっています。よく言っているのは、本当の自分の中の欠点から目を離すな、ということです。「苦手だな、避けたいな」と思うときこそがチャンスなんです。たとえば、身体が硬いから駄目だと感じるときがチャンス。そのおかげで身体を柔らかくしようと工夫をするから、それがその人の特徴になる。身体が硬いとか柔らかいとかは単なるその人の特徴のほんの一部です。得意不得意、好き嫌いを超える視野や興味が大事だと思います。劣っていると感じる部分も隠さないで、無防備になればいいんです。自分が上手に見えるように構えていると、決して本当の自分とは出会えませんから。

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イベント情報

『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』

2012年11月23日(金・祝)17:00
2012年11月24日(土)17:00
2012年11月25日(日)15:00
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 プレイハウス(中ホール)
演出・振付・美術・照明:勅使川原三郎
出演:
勅使川原三郎
佐東利穂子
ジイフ
鰐川枝里
加見理一
山本奈々
林誠太郎
加藤梨花
料金:
一般 前売4,500円 当日5,000円
学生 3,000円 高校生以下1,000円(前売・当日共通、当日受付にて要学生証提示)
※11月24日はポストパフォーマンストーク有り

イベント情報

『フェスティバル/トーキョー12(F/T12)』

2012年10月27日(土)〜11月25日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
東京都 目黒 The 8th Gallery(CLASKA 8F)
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

勅使川原三郎

クラシックバレエを学んだ後、1981年より独自の創作活動を開始。1985年、宮田佳と共にKARASを結成し、既存のダンスの枠組みではとらえられない新しい表現を追及。類まれな造形感覚を持って舞台美術、照明デザイン、衣装、音楽構成も自ら手掛ける。光・音・空気・身体によって空間を質的に変化させ創造される、かつてない独創的な舞台作品は、ダンス界にとどまらず、あらゆるアートシーンに衝撃を与えるとともに高く評価され、国内のみならず欧米他、諸外国の主要なフェスティバルおよび劇場の招きにより多数の公演を行う。またダンス教育に関しても独自の理念をもち、KARAS創設以前より常に継続してワークショップを行い、現在に至るまで国内外で若手ダンサーの育成に力を注いでいる。

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