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物質と動物と人間をつなぐもの 勅使川原三郎インタビュー

物質と動物と人間をつなぐもの 勅使川原三郎インタビュー

インタビュー・テキスト
桂真菜
撮影:西田香織

サーカスで働いた経験が、独創的な発想の源

―勅使川原さんの舞台では様々な実験が行われます。特に動物たちを舞台に上げて一緒に踊った『green(raj packet)ラジ・パケ』(2002初演、新国立劇場)には驚きました。宮澤賢治の「あらゆる動物、植物、鉱物、人類は同じなんだ」という言葉を思い出しました。また今回『F/T12』で上演される『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』も賢治の作品から触発されていますよね。ひょっとして「三郎」という名前も、賢治の童話『風の又三郎』から来ているのですか?

勅使川原:宮澤賢治を初めて知ったのは、幼い日にラジオで聴いた、童話『注文の多い料理店』でした。とても怖かったのをおぼえています。でも実は「三郎」は、昔サーカスでアルバイトをしていたときにつけてもらった呼び名なんです。

『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』 ©小川峻毅 ©Shunki Ogawa
『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』 ©小川峻毅 ©Shunki Ogawa

―サーカスで? サーカス芸人だったんですか?

勅使川原:芸人というか、道化師。バレエを始める直前かな、20歳の冬に1か月半ほど、道化師のアルバイトをしました。イタリアの伝統的な仮面劇であるコメディア・デラルテや、フェデリコ・フェリーニ監督の映画『道化師』に興味をもっていた頃です。大きなテントを張って、団員たちは共同生活。僕は実家から通っていましたが、自分が育った環境とは全く違う価値観で暮らす人たちに圧倒されました。

―サーカスって、まったくの異世界ではないでしょうか?

勅使川原:そうです。親の立場が子どもに影響するし、世間の建前が通用しない。たとえば、芸ができなくて掃除しか出来ない18歳の母親の乳児が亡くなったときより、象使いの妻の女性の芸を支えていたアシカが死んだときのほうが、団員のみんなが悲しむ。アシカはセレモニーで送られ、乳児には特に何もなし。そこでは動物は単なるペットじゃないし、人の下とも限らない、逆に人の子が静かに亡くなっていく。独特の社会制度が根づいている。一座で最高のスターは70歳近いおばあちゃん。華やかな若い芸人より人気があって、公演の最後に空中ブランコに乗って和装で足袋を履いて登場するんです。

勅使川原三郎

―そのサーカスの経験は、勅使川原さんにとって、大きな影響を与えているのではありませんか?

勅使川原:20歳前後の多感な時期に、ダンスのようなアート的なものだけでなく、人間の生(なま)の姿に触れたショックは貴重な経験だった。どんな綺麗な姿をしていても、人間の皮膚の下にはドロドロした内臓や血液があって、神経が狂ってしまったら変な行動に走るし、ウイルスに伝染したら病気になってしまう。そんなギリギリで保たれている人間という生き物の本性を思いきり実感できたおかげで、自分の作品ではそんな現実からあえて跳躍して物質と関わったり、次元を変えていくことに積極的になったのかもしれません。

―80年代後半に拝見した勅使川原さんの舞台は、ガラスの破片を身体中にまとって、ガラス片を敷き詰めた舞台の上で踊っていました。髪も真っ白で、歩く彫刻のような、生身の人間と物質の間に立つ不思議な感覚……。詩のような、でも生き人形のような、不気味で怖い、でも美しいという、言葉では形容のできない存在で、どうしてこんなふうになれたのかなと思っていたら、今サーカスでの日々を伺い少し納得しました。

勅使川原:舞台での表現行為に向かうとき、本音剥き出しの人間との距離感をどこかで測っている。いわゆるモダンダンスの型や流行にはまらないで、ガラスに触れたり、鳥や動物と舞台を共有するのも、サーカスの影響があるのかもしれません。人の生き方には幅広い可能性があると知ったから、周囲に合わせず自分が求める道を探求できたともいえますね。

―勅使川原さんの作品の特徴として、感情未満の「何か」を喚起する力と同時に、物語性の排除がありますよね。大きくいえば感情や情緒はあるんだろうけど、あえてそこには訴えない。それはストーリーで笑わせたり、泣かせたりというのは、「よし」としていらっしゃらないからですか?

勅使川原:そうです。ダンスと物語性は離したほうがいいと思っています。ダンスという身体表現に一番適しているのは何かという、生意気ですけど自分なりの説ですね。そこに焦点を合わせるところから始めようと思っているので、これがダンスなんだ、そのものこそがダンスなんだ、ということを示せたらと思っています。僕がまず今やるべきことはそれだろうと。それ以上のことはまだできないです。

勅使川原三郎

―先鋭的でスタイリッシュなイメージのあるコンテンポラリーの空間に、匂いのするような動物が存在する作品を提示するのも勇敢な挑戦だと思うんです。批判を恐れないで、常に新しい表現を発明しようとする、そのモチベーションは、どこから湧いてくるのでしょうか。

勅使川原:難しい質問ですね……。たとえば誰でも、あきらめたこと、捨てなければならなかったこと、あるいはどうしてもこれは逃せないんだ、手放せないんだっていうこと、いろいろな思いがあると思うんです。戦争で傷ついた方々、災難にあった方々。変な言い方ですけど、生きていたばかりに、そこで笑顔を見せなきゃいけない人たち……。自分を律してある態度をとって、前に踏み出さなければいけない精神というか、ダンスに接するとき、僕はそういう先人たちの思いや営みが、走馬灯のようにばばーっと頭に浮かぶんです。そしてそれは何かから、あるいは誰かからいつの間にか受け継いだものなのかもしれない。もし、そうであれば、ダンスというのは、実は自分がやろうとしているものではない。つまり自己表現ではないんじゃないだろうか。という疑問に行き着くんです。

―自分を超えた、大きな力……?

勅使川原:ええ。たとえば赤ちゃんが、「うえーん」って泣きながら動くのって、自分で動いているのかなって。胎内で動くのはお母さんと繋がっているから動いているんじゃないか。きっと生まれてからも、繋がれて動いている、あるいは何かと繋がろうとしているんじゃないだろうかと思うんです。

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イベント情報

『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』

2012年11月23日(金・祝)17:00
2012年11月24日(土)17:00
2012年11月25日(日)15:00
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 プレイハウス(中ホール)
演出・振付・美術・照明:勅使川原三郎
出演:
勅使川原三郎
佐東利穂子
ジイフ
鰐川枝里
加見理一
山本奈々
林誠太郎
加藤梨花
料金:
一般 前売4,500円 当日5,000円
学生 3,000円 高校生以下1,000円(前売・当日共通、当日受付にて要学生証提示)
※11月24日はポストパフォーマンストーク有り

イベント情報

『フェスティバル/トーキョー12(F/T12)』

2012年10月27日(土)〜11月25日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
東京都 目黒 The 8th Gallery(CLASKA 8F)
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

勅使川原三郎

クラシックバレエを学んだ後、1981年より独自の創作活動を開始。1985年、宮田佳と共にKARASを結成し、既存のダンスの枠組みではとらえられない新しい表現を追及。類まれな造形感覚を持って舞台美術、照明デザイン、衣装、音楽構成も自ら手掛ける。光・音・空気・身体によって空間を質的に変化させ創造される、かつてない独創的な舞台作品は、ダンス界にとどまらず、あらゆるアートシーンに衝撃を与えるとともに高く評価され、国内のみならず欧米他、諸外国の主要なフェスティバルおよび劇場の招きにより多数の公演を行う。またダンス教育に関しても独自の理念をもち、KARAS創設以前より常に継続してワークショップを行い、現在に至るまで国内外で若手ダンサーの育成に力を注いでいる。

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