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なぜ劇団・地点がスゴイといわれるのか? 三浦基×佐々木敦対談

なぜ劇団・地点がスゴイといわれるのか? 三浦基×佐々木敦対談

インタビュー・テキスト
九龍ジョー
撮影:西田香織

地点の役者が人から羨ましがられるようなギャランティーと名誉を獲得して初めて、「日本に現代演劇がある」ということになる。(三浦)

三浦:そういう意味では、3月にKAAT神奈川芸術劇場で太宰治の作品を2本やるっていうのは一番ごまかしがきかない。

佐々木:太宰自体はこの国では圧倒的マジョリティなわけですからね(笑)。

三浦:これが面白くなかったら相当やばいぞ……って(笑)。

佐々木:『トカトントンと』は1年ぶりの再演です。間に『光のない。』などがあったことで、なんらかのバージョンアップがあったりするんでしょうか。

『トカトントンと』KAAT神奈川芸術劇場 2012年 撮影:青木司
『トカトントンと』KAAT神奈川芸術劇場 2012年 撮影:青木司

三浦:どこかしらいじったりはするでしょうね。僕の場合、稽古で即興的に変えてしまうので、そのことで逆に自分たちが変化したということが見えてくると思います。また、前回は震災以降の状況と「戦後」って言葉がたまたま合致しちゃって意識せざるをえない側面があった。そこも変わってくるでしょう。いや、しかし「玉音放送」って面白いですよ。そもそも天皇制っていうシステム自体が演劇的ですから。だって役者がいくら「朕です」って言ったところで、朕はこの世に1人しかいないんだから、「お前は朕じゃない」ってなりますよね。これぐらい発語の根拠が不安定なシステムもないですよ。そういった虚無感は、太宰の『トカトントン』という原作の持っている雰囲気にも上手くリンクしていると思います。

三浦基

佐々木:同時に、やはり太宰の小説を原作とした新作『駈込ミ訴ヘ』もつくるわけですが、このチョイスの理由についても伺えますか。

三浦:太宰の小説って発語を前提として書いた小説とそうでないものに分かれると思うんです。で、例えば『斜陽』のようなベストセラーでも、いいところはたいてい手紙の部分だったりする。つまり太宰は「語りの作家」なんです。『駈込み訴え』も一人語りの小説なので、一人芝居として読んでもいいんじゃないか。これが選んだ理由の1つです。もう1つは『トカトントンと』の中で日本の天皇制が問題になっているとしたら、『駈込ミ訴ヘ』のほうはキリスト教を、ということで売りになるんじゃないかと(笑)。当然、西洋近代の成り立ちがキリスト教を起源にしているということも前提にあるわけですけれども。ただ、いざ稽古をしてみて気付いてしまったんですけど、太宰ってべつにキリスト教のことなんてなにも考えていなかったんですよ……(笑)。いちおう聖書は勉強したようで引用も出てくるんですけど、キリストに関してはなにも言ってない。

佐々木:掘ってみてもなにも出てこなかったわけですね(笑)。

佐々木敦

三浦:なので、もう少し愛の問題や、聖書の中のエピソードについて、太宰を経由して考えるという方向で行こうかな、と。つまり根本的な「わたし」と「あなた」というか。あなたっていうのは、イエスのことなんですけど、そのイエスに対して『駈込ミ訴ヘ』では「ひどい! 私が殺してあげる」なんていう阿部定状態になっているわけですね。そういう一対一というテーマを地点の集団性で掘っていけたらと思っています。イェリネクの場合は「わたしたち」という世界観が前提となっていたけど、太宰は「わたし」と「あなた」なんですよね。簡単に「わたしたち」とは言わない。その「わたし」と「あなた」っていう問題をきっちり処理するしかない、という意味では、やっぱりキリスト教がテーマだと言ってもいいのかもしれない。

佐々木:また、『トカトントンと』と『駈込ミ訴ヘ』の2本を同時に上演することで、天皇制×キリスト教っていう掛け合わせから新たに見えてくるものもあるかもしれないですね。でも、考えたらイェリネクもそうですし、以前やったアントナン・アルトー(フランスの俳優・詩人・小説家・演劇家)にしてもそうですけど、全部「一人称」なんですよね。しかも、三浦基が彼らのテクストを演出すると、一見モノローグのように見えつつ、その中にいくつものペルソナが入ってきてだんだんポリローグ(複数の声)になっていき、でもやっぱり1つの声かもしれないっていう往復運動がある。地点の舞台ではその往復運動を舞台上で実際に役者がやってのけるわけで、これはすごいことだと思います。ちなみに三浦さんは、いままで太田省吾(劇作家・演出家)にしろ、アルトーにしろ、イェリネクにしろ、作品単位というよりは作家そのものの持つ声とも徹底的に向かい合って取り組んできたと思うんですけど、これから中長期的にこの人に取り組んでみたいっていう人はいますか?

三浦:……それなんですけど、医者は患者を選ばないんですよ(笑)。そこが劇作家とちがうところでもあって。

佐々木:患者がくるかどうかっていう(笑)。

『トカトントンと』KAAT神奈川芸術劇場 2012年 撮影:青木司
『トカトントンと』KAAT神奈川芸術劇場 2012年 撮影:青木司

三浦:ただね、待ってるだけで安泰です、ってやっていると、「こないだシェイクスピアで上手くいったから、シリーズにしたらどうだろう」なんて方向にすぐ陥ってしまう。世界中の演出家がこのワナにはまるわけです。物語の権化になって、権威化して、台本通りにやってるだけじゃん、ってなりかねない。そこを警戒しながら、ギリシャ悲劇にしても、シェイクスピアにしても、メスを入れていきたいなっていうふうには思っています。あと、以前『CHITENの近現代語』という作品で憲法を扱ったりしましたが、今度は『CHITENの近未来語』というタイトルでSFモノとかもやってみようかなって。そうやってあと2〜3年は患者がいるということにしておいて、それ以外でも僕ができることをどんどんやっていかないと。具体的には、プロデューサーや公共劇場など、つまりはシステム自体を刺激すること。これも重要な仕事です。

佐々木:日本だけの文脈の問題じゃないですからね。

三浦:具体的に作品を上演するということもあるけど、それと同じぐらい舞台芸術の環境を整えていくということにも力を注がないと。人はそれを「政治屋」って呼ぶんですけどね(笑)。

佐々木:でも、大事なことですから。

三浦:そうなんです。地点の5人の役者が人から羨ましがられるようなギャランティーと名誉を獲得して初めて、「日本に現代演劇がある」ということになるわけです。そういう環境づくりを作品づくりと同時にやっていかないと、演劇の未来がないですから。

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イベント情報

地点
『駈込ミ訴ヘ』

2013年3月7日(木)〜3月26日(火)全9公演
※3月7日はプレビュー公演
休演日:3月11日〜3月19日、3月22日、3月24日
会場:神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

原作:太宰治
演出・構成:三浦基
出演:
安部聡子
石田大
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
青戸知
美術:山本理顕(建築家)
照明:大石真一郎
音響:徳久礼子
衣裳:堂本教子(KYOKO88%)
舞台監督:山口英峰
プロダクションマネージャー:山本園子
技術監督:堀内真人

料金:
一般3,500円
シルバー(65歳以上、要身分証明書)3,000円
U24(24歳以下、要年齢証明書、枚数限定)1,750円
高校生以下1,000円(要生徒手帳、枚数限定)
2演目セット券6,000円(枚数限定)
※3月7日のプレビュー公演のみ 一般2,000円 U24(24歳以下、要年齢証明書、枚数限定)1,000円

地点
『トカトントンと』

2013年3月15日(金)〜3月24日(日)全6公演
休演日:3月20日〜3月23日
会場:神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

原作:太宰治
演出・構成:三浦基
出演:
安部聡子
石田大
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
庸雅
美術:山本理顕(建築家)
照明:大石真一郎
音響:徳久礼子
衣裳:堂本教子(KYOKO88%)
舞台監督:山口英峰
プロダクションマネージャー:山本園子
技術監督:堀内真人

料金:
一般3,500円
シルバー(65歳以上、要身分証明書)3,000円
U24(24歳以下、要年齢証明書、枚数限定)1,750円
高校生以下1,000円(要生徒手帳、枚数限定)
2演目セット券6,000円(枚数限定)

プロフィール

三浦基

973年福岡生まれ。地点代表。演出家。桐朋学園大学演劇科・専攻科卒。99年より文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに2年間滞在する。2001年帰国、地点の活動を本格化。05年、京都に活動拠点を移転。07年よりチェーホフ四大戯曲をすべて舞台化する「地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演」に取り組み、第三作『桜の園』にて文化庁芸術祭新人賞受賞。11年度京都市芸術新人賞受賞、他受賞多数。著書に『おもしろければOKか?現代演劇考』(五柳書院)。

佐々木敦

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌『エクス・ポ』編集発行人。『批評時空間』『未知との遭遇』『即興の解体/懐胎』『「批評」とは何か?』『ニッポンの思想』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。2013年度より早稲田大学文学学術院教授。

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