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鍛え抜かれた身体の価値 舞踊団Noism 金森穣インタビュー

鍛え抜かれた身体の価値 舞踊団Noism 金森穣インタビュー

インタビュー・テキスト
乗越たかお
撮影:高見知香
2013/05/14
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10周年のお祝いをしようという声もあるんですが、まだ祝うほどの何かを成し遂げたとも思ってはいないんですよ。

―ここからは、Noism1の新作公演『ZAZA 〜 祈りと欲望の間に』について伺いたいのですが、今公演は3つの新作を組み合わせた、3部構成になっていますね。複数の作品を同時に作り上げていくことは、かなり大変だと思うのですが。

金森:そうですね(笑)。初めは3部構成にするつもりはなかったんですよ。全く違う作品を1本作るつもりで、台本も完成していたんです。だけど、あらためて見直してみると、どうもこれまで自分がやってきたことの延長線でしかないように思えてきたんです。いつも「これが最後になるかもしれない」という決意を持って作品を作るのですが、本当にこれでいいのか? という疑問が残ってしまったんですね。

―手慣れた手法で作品を量産するアーティストもいますが、あえて挑戦し続ける道を選んだわけですね。

金森:そして、全く新しい挑戦を色々考えているうちに、「時」「性」「欲」という3つのテーマが出てきたんです。そしてこのあいだ気がついたんですが、不思議なことに、自分は4年に1度、必ず3部構成の作品を作っているんですよ(笑)。2005年の『black ice』、2009年の『ZONE〜稲妻 陽炎 水の月』、そして2013年の『ZAZA 〜 祈りと欲望の間に』。結果的にだけど、すべて3部作なんですよね。

見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信
見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信

―アーティストとして本能的に「今の自分が本当にやるべきこと」を欲するリズムがあるのかもしれませんね(笑)。

金森:手慣れた作品を作ってしまうことを想像すると、そこで自分が終わってしまいそうで怖いんですよ。自分にはまだまだ未知なる領域があると思いたいし、自分で自分に驚きたい。容易に想像できる成功よりも、様々な方法論を試して、大失敗もしたい。そこで初めて自分が今手にしているもの、そして今の自分に何が足りないのかがわかってくると思うんです。

―3作品をまとめた全体のタイトルは『ZAZA 〜 祈りと欲望の間に』ですが、「祈り」や「間(はざま)」が全体に通底している重要なテーマなのでしょうか。

金森:今は社会そのものが複雑で、白とも黒とも言い切れない「間」みたいなものだけど、そこを乗り越えていきたいという思いがあります。「祈りと欲望の間」という言葉ですが、たとえば3.11以前から、原発に関する議論はずっと続いていますよね。平和や博愛を願う気持ちというのは、ある種の「祈り」だと言えるでしょう。しかし、一方で今、子どもを育てている母親にとっては「原発のない、子どもが安全に暮らせる社会」というのは、祈りではないんです。「この子のためなら何でもする」という母親のリアルな感情は、もはや欲望と呼ぶほかはない強いものですよね。

―「祈りは皆のためにあるけれど、欲望は個人的なものだ」と、ネガティブに対比されることも多いと思いますが、その間には幅があるわけですね。

金森:ある臨界点を超えた瞬間、水が凍り始めるように、欲望が祈りに転化する臨界点があると思うんです。それを掴んで表現したいと思っています。

―第1部の『A・N・D・A・N・T・E』は時間がテーマですね。

金森:自分が感じる内的な時間、出来事が流れている外的な時間、そして舞踊芸術が提示してくるイリュージョンとしての時間……様々な時間への考察です。J・S・バッハのヴァイオリン協奏曲“Andante”という約5分の曲を20分に引き伸ばして踊る試みなんです。

―先ほどあった「非日常的な舞踏の動き」にもつながってきますね。そして曲の長さを変えるから、タイトルのアルファベットの間にドットが入っているわけですか!?

金森:はい。江戸時代に生まれた邦楽に長唄ってあるじゃないですか。あの言葉を長く引き延ばした謡い方って、現代人の耳にはひと連なりの言葉として認識しにくいけれど、昔の人は歌であると同時に言葉としても認識できていたと思う。つまり、今と昔では生活する人々が体感している時間の速度が全然違う。それはバッハがこの曲を作曲したときに感じていたアンダンテ、ようするに「歩くような速さ」と、現代人の感じる「歩くような速さ」は違うということです。『A・N・D・A・N・T・E』では、そんな時間感覚のブレを探っていこうと思っています。

―第2部の『囚われの女王』では、Noismの要となるダンサーであり、副芸術監督でもある井関佐和子のソロ作品となっていますね。

金森:テーマは「性(別)」で、シベリウスの曲を使っています。フィンランドの民族解放がテーマになっているバラッドで、登場人物は女王と番人と若い男と英雄、つまり女性1人と男性3人ですが、踊るのは井関佐和子1人。今1つの円熟期を迎えつつある彼女にとって、身体的にも技術的にも新しいことに挑戦してもらえたらと、1人で4役を演じる作品になりました(笑)。性別を超えた表現として、彼女自身の壁を突き破り、自らの限界を解放するくらいのソロ作品にしたいですね。

―そして第3部が全体タイトルでもある『ZAZA』。この作品では、イギリスのロック・ニューウェーブバンド「THE THE」の曲を使われていますが、タイトルはこのバンド名から取ったんですか?

金森:実は全く逆なんです(笑)。まず「ザザ」という、濁りのある2つの音の響きが好きで、タイトルに決めたのが最初です。ただタイトルって、誰がどんな意味を関連付けするかわからないので、一応ネットで調べてみると「THE THE」という80年代のロックバンドが引っかかってきた。聴いてみるとすごくいい。背景を調べると、結構社会的な発言もしていて、さらにいい(笑)。今は映画のサントラだけを作っているそうなんですが、直近に音楽を担当した2本の映画は、宇宙飛行士の話と連続殺人鬼の話なんです。それはまさに人間の欲望の極右と極左じゃないですか。そこで自分の中にインスピレーションがグッと湧いてくるわけですよ。

―なるほど。しかも第3部『ZAZA』のテーマは「欲」です。

金森:はい。これまでの自分は、自分の欲望を実現するために舞踊家たちに振り付けていたわけですが、この作品ではメンバーからアンケートを取って、彼らの欲望、彼らが舞台上で何をやりたいかを書いてもらったんです。つまり舞踊家の欲望を実現するために演出、そして振付できないかということです。もちろん「そういう手法全体を含めて金森穣の欲望だろう」と言われればそうですが、彼らの欲望を演出することで、祈りに転化できないかと考えています。

見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信
見世物小屋シリーズ第3弾 Noism1『Nameless Voice〜水の庭、砂の家』(2012年)撮影:篠山紀信

―アンケートに書く「やりたいこと」は、本当に何でもいいんですか?

金森:もちろん。中には「それ本当にできるの!?」ということを書いてくるメンバーもいます(笑)。そんなときは「じゃあちょっとやってみてよ」とやらせてみるんです。すると恥ずかしくてできない。あるいは本人は自信満々だけど、客観的に見たら恥ずかしい……。ある意味残酷だけど、願望と現実、自分自身の能力と直面する機会にもなりますからね。

―そのドキュメンタリー映像が見られたら面白いでしょうね。たとえば、ネットの世界では欲望を際限なく拡大することが可能で、言葉だけならいくらでも発信することができる。でもほとんどの人は、「拡大した欲望を実現できない自分」という現実とは直面しないまま、平穏無事に毎日を過ごせてしまうわけですから。

金森:そうですね。発言することと、それを自分で実行することは、また全然違うし、だから社会ってややこしいんですよね。自分にできることだけを欲し、発言していればいいのかもしれないけれど、人間には想像力がある。そしてそこにこそ大いなる可能性があるわけだから、想像力は誰も否定できない。法律でも規制できない。だから我々は社会という欲望の海原の中で自分を見失うわけですよ。本当に厄介ですよね(笑)。舞台上に展開される舞踊家たちの渦巻く欲望が、どのような形で演出されて作品となり、果たして祈りへと転化できたのか。ぜひ色んな人たちに見てほしいですね。

―本当に楽しみにしています。ところでNoismは来年4月で10周年を迎えるそうですが、ここまでは長かったですか? 短かったですか?

金森:あっという間でしたね。10周年のお祝いをしようという声もあるんですが、まだ祝うほどの何かを成し遂げたとも思ってはいないんですよ。他の劇場でNoismのようなレジデンシャルカンパニーが誕生したわけでもないですし、日本の劇場文化環境は何も変わっていない。今ここでもしNoismがなくなってしまったら、「あー、Noismって何年から何年まで劇場文化! とか言ってやっていたやつでしょ?」で終わってしまう。それを考えたら、とても祝える気持ちにはなれません。何祝うの? みたいな(苦笑)。

―いや、そこは逆に盛大に祝いましょうよ。そうしたら「ああ、あいつら頑張っているな。じゃあうちの街にも!」ってなるかもしれないじゃないですか。

金森:そうなるなら、祝ってもいいですかね(笑)。

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イベント情報

『ZAZA 〜 祈りと欲望の間に』

演出・振付:金森穣
出演:Noism1
第1部『A・N・D・A・N・T・E』
音楽:J.S. Bach『ヴァイオリン協奏曲 第1番 第2楽章 Andante』
第2部『囚われの女王』
音楽:J. Sibelius『囚われの女王』
第3部『ZAZA』
音楽:soundtrack by THE THE『MOONBUG』&『TONY』より抜粋
椅子・机:須長檀

新潟公演
2013年5月24日(金)〜5月26日(日)全3回公演
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
料金:一般5,000円 学生2,500円
※各公演後にアフタートーク有り
5月24日出演:堂本教子(衣裳デザイナー)
5月25日出演:須長檀(家具デザイナー)
5月26日出演:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家)

神奈川公演
2013年5月31日(金)〜6月2日(日)全3回公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場・ホール
料金:5,500円
※各公演後にアフタートーク有り
5月31日出演:宮前義之(ISSEY MIYAKEデザイナー)
6月1日出演:松永大司(映画監督)
6月2日出演:成田久(アーティスト&資生堂アートディレクター)

静岡公演
2013年7月20日(土)、7月21日(日)全2回公演
会場:静岡県 静岡芸術劇場
料金:一般大人4,000円 大学生・専門学校生2,000円 高校生以下1,000円 ほか
※各公演後にアフタートーク有り

プロフィール

金森穣

演出振付家・舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督。Noism芸術監督。20世紀のダンスに革命を起こしたモーリス・ベジャールが創設した芸術学校ルードラ・ベジャール・ローザンヌを卒業後、世界的に有名なイリ・キリアンのネザーランド・ダンス・シアター、国立リヨンオペラ座バレエ団などで活躍し、帰国。04年に日本初の劇場専属ダンスカンパニー・Noismを立ち上げる。海外バレエ団や新国立劇場バレエ団への振付け、サイトウ・キネン・フェスでのオペラ演出など、国内外で幅広く活躍している。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか、受賞歴多数。

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