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鈴木惣一朗と直枝政広、部室のような音楽談義

鈴木惣一朗と直枝政広、部室のような音楽談義

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:田中一人

キャロル・キングとかあの辺の人たちは、たぶんピアノの横に作詞家がいて、一緒に歌いながら作ってるんですよ。次はそれをやんないとダメだよね。(直枝)

―さきほど細野さんの名前が挙がりましたが、アルバムのラストは細野さんと鈴木慶一さんのボーカルによる“とんかつの唄”が収録されていますね。

直枝:このプロジェクトの話が出たときに、すでに惣一朗君のノートブックの中に二人に歌ってもらうっていうテーマがあったんです。最初は僕たちで曲を作って歌ってもらおうって話をしてたんですけど、作業の途中でふとこの曲のアイデアが降りてきて。川島雄三の『喜劇 とんかつ一代』って大好きな映画があるんですけど、その主題歌で、森繁久彌が歌ってるこの曲が大好きだったんです。細野さんは今もとんかつが大好きらしくて、そう言えば慶一さんも夜中に「肉食った」っていうツイートをよくしてて……みんなタフだよね(笑)。それで、じゃあこの曲につなげたら面白いんじゃないかって、ほとんど直感ですね。

鈴木:このアルバムを作ることに構えるかどうかっていうか、「すごいマニアックなアルバムを作るって思われるだろうな」とか、「すごい音響を作らないといけないのかな」とか、そういうのはやめて、シンプルにしたいっていうのがまず最初にあって、そういう中で、遊びで話してるようなことを実現しちゃうのも面白いねって。アルバムはその前の“曇天 夕闇 フェリー”でほとんど終わってるんだけど、『アビイ・ロード』にも“Her Majesty”っていう短い曲がついてたりするし。

直枝:このアルバムの色彩っていうのがすごく重要で、それは「1959」っていう数字から来てる。曲はイメージを二人で交換しながら詞先で作っていったんです。決まりとしては、二人でキーワードを投げ合って、それをどちらかがまとめていくんだけど、名義としてはSoggy Cheeriosっていう作家名だっていう。

鈴木:「レノン=マッカートニー」みたいな、どっちが作ったかわかんないっていう……よく聴くとわかるんだけど。

直枝:僕は今までこういう作り方をしたことがなかったんで、すごく新鮮でした。彼はわりとノベルティっぽく、おちゃらけていろんなキーワードをくれるんだけど、それを僕はシビアに歌詞に書いたりして、例えば、“ロックンロールが空から降ってきた日”だと、<空から紅白の餅が降ってきた>とか、彼が投げかけた「お餅」っていうキーワードを、僕は歌にしてゆく。逆に、僕がイメージを投げた東京湾のフェリーの風景とか、そういうどんよりした空気を彼に投げると、“曇天 夕闇 フェリー”みたいな世界が出来上がる。曲がどんどん思ってたのと違った方向に進んでいく、そのやり取りがすごく面白くて。

鈴木:今はみんなプロダクションが込み入ってるから、曲先になってて、ラララでデモテープを作るのが多いんですけど、そういうデモテープはバツなんです。曲として認めない。詞を後につけると、曲が細くなるんですよ。ビートルズをいっぱい聴いてきたから、詞が最初からついてるって素晴らしいなって感心しちゃうの。しかも譜面もなかったから、みんな頭に入ってて、その状態でセッションしてるから、ビートルズの曲は太くなってるんですよね。

―なるほど。

鈴木:でも、今の人はほとんど曲先で、ラララで歌って、後で言葉尻を合わせていくような感じでしょ? 例えば“ずっとずっと”なんかは、<ずっとずっとずっとずっと>っていうのを考えてたら、直枝君にシャッフルとかブギーみたいなことを言われて、そういう曲になっていった。最初にブギーを作って、そこに<ずっとずっとずっとずっと>ってはめても、あんまり面白くない。

―言葉のリズムがシャッフルのリズムを連れてきたわけですね。

鈴木:そうそう、だからさっきの歌謡曲の話もそうだけど、阿久悠さんとか松本隆さんは詞先なんですよね。中村八大・永六輔もそうだし。

直枝:キャロル・キングとかあの辺の人たちは、たぶんピアノの横に作詞家がいて、一緒に歌いながら作ってるんですよ。次はそれをやんないとダメだよね。『イシュタール』って映画知ってる? ダスティン・ホフマンとウォーレン・ベイティが主演で、二人組の作詞作曲家コンビがドタバタの状況に持ってかれちゃうって話で、その曲作りのシーンは全部それ。当時の作家チームはみんなそんな感じで作ってるから、グルーヴがひとつなのよ。

鈴木:それ一緒に生活しなきゃいけないんじゃない? 次は寝起きも共にしないとか(笑)。

左:鈴木惣一朗、右:直枝政広

1枚のアルバムを作ることの意味とか、そこに込められた想いとかをいっぱい聴いてきて、その温度っていうのかな、それが人を感動させるはずだし、そういうアルバムにはなったと思う。(鈴木)

―途中でアルバムとしての色彩と「1959」という数字の関係という話がありましたが、やはりノスタルジックというか、少年性を感じさせるような色彩の作品になっていますよね。

直枝:54年間っていうすっごい長い物語を見てるような感覚がありますね。奥の方から引っ張り出してきた景色とか、匂いみたいなものとか、お互いのものが合わさってますね。

鈴木:寄る年波なんで、いろんなことを忘れていったりするんだけど、でも大事なことは覚えてて、その大事なことっていうのは感覚だったり、そのときの空気の匂いとかで、そういう部分で曲ってできるんですよね。音楽業界に入ってからは、めんどくさいことがいっぱい待ってましたけど、そこまではわりとすくすく育ってたはずだし、友達とレコード屋行ったり、音楽やるのがホントに楽しかったから、それを今またもう一度直枝君とやり直してるみたいな感じで。

直枝:ホントこの30年くらいはね、思い出したくないこといっぱいあるよ(笑)。でも、書くべき空白があるとすると、そこに浮かんでくるのはとっても和やかな空気とか、楽しかったときの温度とか、作品ってどうしてもそういうものをくみ上げてくるものなんだなって。

―でも、「ただ楽しかった」というだけではなく、どこかくぐもったムードも漂っていますよね。

直枝:全体の重いムードっていうのは、二人でミーティングをしてるときから実はあって、やっぱり震災のことは必ずあるんですよね。海沿いに住んでる友達は「海の色が変わった」って言ってるし、音楽の響きだって絶対変わるんですよ。そこは避けられないところで、さまざまな思いが交差して、独特なトーンが生まれてくる。ミーティングしながらそんな話はずっとしてました。

鈴木:直接的な震災ソングを書くのはやめようって言ってて、今直枝君が言ったように、それは僕らの中に根付いてるっていうか、あえて言わなくても出てくるものだろうし、ふざけてるように見えて実はすごくシリアスだったりするのは、きっとそういうことだと思う。

直枝:“百八つの窓”っていうのは、54と54で108、煩悩の数ってことなんだけど、それはイコール永遠に続いていくんだって意味にも取れる数字で、「人生はずっと続いていく」っていうメッセージに聴こえたんだよね。とてもヘビーなテーマ性を、実は詞のやり取りでやってたんだなって。

鈴木:1枚のアルバムを作ることの意味とか、そこに込められた想いとかをいっぱい聴いてきて、その温度っていうのかな、それが人を感動させるはずだし、そういうアルバムにはなったと思う。今って、そういうアルバムがすごく少ないけど。

直枝:大事なのは知識とかテクニックじゃないんだよね。

鈴木:ビートルズにあれだけアルバムがあって、でも僕はホワイトアルバムが気になって、「なんで白いのかな? 仲悪いのかな?」とか思ったら、実際仲が悪かったり、あのサイケデリックカルチャーが終わって真っ白になっていく感じっていうのは、後追いでも「わかるなあ」って思った。それはファッションとかカルチャーともリンクしてるもので、それが1枚のアルバムに込められてて、僕も直枝君もそういうものを何度も何度も聴いてきた。このアルバムも深く深く根付くものになって欲しかったし、なったと思う。アートワークも含めて、舐めるように聴けば、中に濃いものが入ってるアルバムだと思いますね。

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リリース情報

Soggy Cheerios<br>
『1959』(CD)
Soggy Cheerios
『1959』(CD)

2013年7月17日発売
価格:2,730円(税込)
P-VINE RECORDS / PCD-26054

1. ロックンロールが空から降ってきた日
2. 明日も
3. かぜよふけ うみよなけ
4. 知らない町
5. 百八つの窓
6. きみがいない
7. 19時59分
8. ずっとずっと
9. ぼくはイノシシ
10. 曇天 夕闇 フェリー
11. とんかつの唄

プロフィール

{鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループWORLD STANDARDを結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。95年、ロングセラーの音楽書籍『モンド・ミュージック』で、ラウンジ・ミュージック・ブームの火付け役として注目を浴び、97年から5年の歳月をかけた「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスから絶賛される。近年では、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはな等、多くのアーティストをプロデュースする一方、2011年夏、自身の音楽レーベル[Stella]を立ち上げた。

直枝政広(なおえまさひろ)

1959年生まれ。1983年カーネーション結成。1984年にオムニバス『陽気な若き博物館員たち』(水族館/徳間ジャパン)でソロ・デビュー。同年、カーネーションがシングル「夜の煙突」(ナゴム・レコード)でレコード・デビュー。以後、カーネーションは数度のメンバーチェンジを経ながら数多くの傑作アルバムをリリース。2000年には直枝政広としての初ソロ・アルバム『HOPKINS CREEK』を発表。同時に鈴井貴之初監督作品『man-hole』のサウンドトラックも手がける。2007年に初の著作となる『宇宙の柳、たましいの下着』を上梓。2013年、結成30周年を迎えるカーネーションと並行し、ソロライヴでの活動や執筆等、精力的に活動中。

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