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鈴木惣一朗と直枝政広、部室のような音楽談義

鈴木惣一朗と直枝政広、部室のような音楽談義

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:田中一人

STEVE MILLER BANDとジェイムス・ブレイクが交差してる人が横にいるっていうことが、僕にとってはスリリングで、サムシングニューっていうかね。(鈴木)

―今回のアルバム制作が対談をきっかけとしているように、お二人共に評論家としての側面も持っていらっしゃいますが、CDが売れなくなって、レコードショップが減っていく一方で、ネットでのリスニングが一般的になるなど、音楽を取り巻く環境が大きく変化している現状をどのように見ていらっしゃいますか?

鈴木:今は凪(なぎ)の時代というか、例えば1990年代だったら、クラブカルチャーが台頭するちょっと前、ワールドミュージックの頃とかがちょっと凪だったと思う。だから今は何を聴いてもいいし、この先もしかしたら大きなムーブメントは出てこないかもしれないけど、好きなものを聴けばいいわけ。この間中古レコード屋に直枝君と一緒に行って、彼はまだ『サージェント・ペパーズ』を買おうとするのね。

直枝:何枚でも欲しいからね。

鈴木:このさあ、「何枚でも欲しいからね」って爽やかに言えるのがすごいでしょ(笑)。

直枝:棚からレコードを取り出したら、「直枝君、それはもういいから」って押し込められたんだけど、また別の日に一人で行ってそれ眺めたからね(笑)。

鈴木:また大きなムーブメントが来たらいいなとは思うんだけど、来ないなら来ないでも楽しいわけ。例えば映画でも、3Dには飽きちゃって、逆に2Dじゃないと見ないってお客さんも増えてる。もう新しいものは求めてないっていうか、ドナルド・フェイゲンがこの前「イノベーションじゃなくてトラディション」ってインタビューで言ってて、「そうだなあ」と思って。

―革新よりも伝統だと。

鈴木:彼はそのインタビューでデューク・エリントンが今どれだけ新鮮に聴こえるかっていうことを言ってて、つまり、大事なのは個人の聴き方、接し方っていうのかな。例えば、直枝君は昨日STEVE MILLER BANDの話をしていて、今STEVE MILLER BANDのことを言う人ってあんまりいないと思うんだけど、直枝君にSTEVE MILLER BANDがどういう風に聴こえてるかっていうことは、僕にとってすごく新鮮なことで。

直枝:今回のアルバムに入ってる“ロックンロールが空から降ってきた日”っていうのは、俺にとってはラジオで聴いたSTEVE MILLER BANDの“Quicksilver Girl”なんだよ。そういうことがずっとどこかに引っかかってて、それを忘れたくない。ドナルド・フェイゲンがデューク・エリントンを今語ることと同じように、タイミングっていうのがあるから、いつも確認作業はするわけです。

―なるほど。

直枝:アナログ盤の匂いとかさ、あるわけよ。そういうものが失われていくってことを、僕は素直に悲しみたいし、絶対あきらめない。その喜びを誰もが感じなくなったとしても、何とかして俺だけは感じたいと思ってる。そのためにステレオを修理して、昔のケーブルをつないだりとか、そういう発想がなかったら面白くないよね。音楽が生まれてきた歴史っていうのがあるんだから、それに準じた機材を探して、直して、聴けばいいんだから。流れに乗っちゃ面白くないなって、僕は思う。

鈴木:こう言ってるけど、直枝君はジェイムス・ブレイクを見に行ったりもしてて、STEVE MILLER BANDとジェイムス・ブレイクが交差してる人が横にいるっていうことが、僕にとってはスリリングで、サムシングニューっていうかね。新しい新しくないは関係ないところで、直枝君の状態が僕には面白いし、僕も同じようにポール・マッカートニーとジェイムス・ブレイクを聴くわけで、そういうところから何かが生まれるかもしれない。ニューウェイブとか、大きなムーブメントからも音楽は生まれるけど、こういう人間関係の中からも、新しいものが生まれるんだっていうのは気づいたことかな。

左:鈴木惣一朗、右:直枝政広

直枝:すぐにその場で理解できる作品なんてないんだよ。何十年もかかるものもある。理解なんて簡単にできないから、30〜40年かかって当たり前。そこがやっと入口ってぐらい音楽は大変なものだから、それを簡単に扱っちゃいけないって僕は思うな。

鈴木:クラシックは300年ぐらいの歴史があって、300年前のものでもまだ発見がある。ロックはたかだか50年なのに、リマスターとかリイシューが出るとわかったような気になっちゃって、「『レコード・コレクターズ』も特集を考えるのも大変だろうな」みたいになっちゃう。でも、まだまだ始まったばかりかもしれないし、直枝君はそれを実践してると思う。細野さんは最近TRAFFIC(1967〜74年に活躍したイギリスのロックバンド)のことをすごく言ってて、TRAFFICなんて僕は無視してきたぐらいなんだけど……。

直枝:面白いよ!

鈴木:どう聴いても面白くないんだけど……面白い、あれ?

直枝:面白いから! よし、これからすぐレコード店行こう! 全部買おう!

―(笑)。

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リリース情報

Soggy Cheerios<br>
『1959』(CD)
Soggy Cheerios
『1959』(CD)

2013年7月17日発売
価格:2,730円(税込)
P-VINE RECORDS / PCD-26054

1. ロックンロールが空から降ってきた日
2. 明日も
3. かぜよふけ うみよなけ
4. 知らない町
5. 百八つの窓
6. きみがいない
7. 19時59分
8. ずっとずっと
9. ぼくはイノシシ
10. 曇天 夕闇 フェリー
11. とんかつの唄

プロフィール

{鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループWORLD STANDARDを結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。95年、ロングセラーの音楽書籍『モンド・ミュージック』で、ラウンジ・ミュージック・ブームの火付け役として注目を浴び、97年から5年の歳月をかけた「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスから絶賛される。近年では、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはな等、多くのアーティストをプロデュースする一方、2011年夏、自身の音楽レーベル[Stella]を立ち上げた。

直枝政広(なおえまさひろ)

1959年生まれ。1983年カーネーション結成。1984年にオムニバス『陽気な若き博物館員たち』(水族館/徳間ジャパン)でソロ・デビュー。同年、カーネーションがシングル「夜の煙突」(ナゴム・レコード)でレコード・デビュー。以後、カーネーションは数度のメンバーチェンジを経ながら数多くの傑作アルバムをリリース。2000年には直枝政広としての初ソロ・アルバム『HOPKINS CREEK』を発表。同時に鈴井貴之初監督作品『man-hole』のサウンドトラックも手がける。2007年に初の著作となる『宇宙の柳、たましいの下着』を上梓。2013年、結成30周年を迎えるカーネーションと並行し、ソロライヴでの活動や執筆等、精力的に活動中。

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