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お手軽なものに対して狼煙を上げたい 木ノ下歌舞伎インタビュー

お手軽なものに対して狼煙を上げたい 木ノ下歌舞伎インタビュー

インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:豊島望

最近の日本は、世論が1つの方向に流れがちなのが、すごく気持ち悪い。そういう状況にものを言える作品はないだろうかと話をしていて、『東海道四谷怪談』が挙がったんです。

―『フェスティバル/トーキョー13』(以下『F/T』)で上演される『東海道四谷怪談―通し上演―』(以下『四谷怪談』)では、演出を杉原邦生さんが担当されています。フリーの演出家やディレクターとして活躍しながら、木ノ下歌舞伎のメンバーとしても演出されている方ですが、今作で、杉原さんを演出に選ばれた理由は何でしょうか?

木ノ下:今回、『四谷怪談』を全幕ほぼ通しで6時間近くかけて上演するのですが、木ノ下歌舞伎が何か新しいことにチャレンジするときは、邦生さんと一緒にやることが多いですね。これまで何作品も一緒にやってきて、その中で構築してきた信頼関係やノウハウもある。だから、やっぱり邦生さんとのタッグが1番作品に斬り込んでいけるし、1番大胆に実験できるんです。

稽古の様子(右:演出家の杉原邦生)
稽古の様子(右:演出家の杉原邦生)

―杉原さんは、明るくお祭り好きという作風の演出家ですよね。

木ノ下:今回、僕が「いいな」と思ったのは、『四谷怪談』って、話の内容や雰囲気がわりと暗い。対して、杉原邦生の作風はポップで祝祭的だと言われている。だから、一見組み合わせとしてはミスマッチなんです。でも、邦生さんの演出は単純に「楽しい、ハッピー」だけじゃなくて、ちゃんとその中に、戯曲や同時代への鋭い批評性も持ち合わせているし、人間や社会のもっと深いものを描こうとしているように僕は感じていて。それが『四谷怪談』と合わさることでより如実に出てくるんじゃないかと。

―逆に「怖い、暗い」というイメージの『四谷怪談』にも、それだけではない発見があるかもしれませんね。

木ノ下:そうです、そうです。

―そもそも、通しで約6時間という上演形態を選んだ理由は?

木ノ下:それも邦生さんとの話から出てきたことなんですけど、お互い最近の日本に危機感を感じてまして……。たとえば世論がわりと1つの方向に流れがちな気がしているんです。「アベノミクスだ!」となったら、些細な経済のニュースでみんなが一喜一憂するとか、「オリンピックが決まった!」となればみんなで飛びつくとか。「原発はどうなったんだろう?」ということは二の次で、ある種、上っ面な感じでバッと全体がなびいてしまうのがすごく気持ち悪い。で、そういう状況にものを言える演目はないだろうか、って話をしていて『四谷怪談』が挙がってきたんです。

木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎)

―『東海道四谷怪談』は、『忠臣蔵』のパロディーというか、スピンオフですよね。

木ノ下:そうなんです。「敵討ちが美談だ、正義だ」という世論が大勢を占める中、それとはまったく違う生き方をする人々の話を提示した作品です。だから登場人物は、いろんな価値観を持っています。家族が大事と言う人もいれば、いや敵討ちだと言う人もいるし、出世が大事だと言う人もいれば、敵討ちを利用して個人的な欲望を満たそうとする人もいる。いろんな価値観の人々が入り乱れて、価値観が違うからぶつかってしまう。そこで悲劇が起こるんですけど、多様な価値観を提示した上で「で、あなたはどうですか?」とお客さんに問いかける感じがあるような気が僕はすごくしていまして。

―ええ。

木ノ下:多様な価値観があることや、大勢の世論とは違うレベルで生きている人々がきちんと描かれている作品ということで、今こういうものを上演する、それも、お岩さんと伊右衛門の愛憎劇ではなく、ちゃんと群衆劇として描くことで、現代に対して物申せるんじゃないかと思ったんです。そのためには結果的に、やっぱり6時間は必要なんですね(笑)。

「伝統芸能は国の宝だから重要」なんて乱暴なロジックはもはや通用しないのだから、もっと具体的、かつ伝統芸能に興味のない人にも届くような、自分の言葉と実感を持たなければいけない。

―伝統芸能というと、何となく保守的な香りがしてしまいますが、お話を聞いていると、木ノ下さんたちがされていることはその真逆で、ものすごくラディカルですよね(笑)。

木ノ下:話は少しそれますが、去年の大阪市の文楽補助金問題もショックを受けました。補助金が削られるかどうかは別として、行政の長からいきなりおかしなロジックが突き付けられましたよね。

―大阪市長の橋下徹さんが、「文楽はわかりにくい、昔のままのやり方で工夫がない」と一刀両断した件ですね。

木ノ下:同時に、それに対する賛否の意見を聞いていて「このままでは伝統芸能は危ない」と本気で思いました。市長の主張に対して古典芸能がどんな可能性を持っているのかをきちんと反論できる人が少なかった。「伝統芸能は国の宝なのだから重要」なんていう乱暴なロジックはもはや通用しないのだから、もっと具体的、かつ伝統芸能に興味のない人にも届くような、自分の言葉と実感を持って反論しなきゃいけないのに……。私たち現代人がいかに「伝統」というものについて日々考えていなかったかということが見事に露呈しましたし、現代における古典への期待というか、認識はそこまで下がってしまったんだと……。

京都×横浜プロジェクト2012『義経千本桜』より「鮓屋」の場面 2012年7月京都芸術劇場 春秋座 ©清水俊洋
京都×横浜プロジェクト2012『義経千本桜』より「鮓屋」の場面 2012年7月京都芸術劇場 春秋座 ©清水俊洋

―文楽もその他の伝統芸能も、古典という「繭」に守られ慣れていて、時代の流れや、多様な視点に対応する言葉を磨いてこなかったのかもしれません。

木ノ下:そういうことも含めて、最終的に古典を支えて守っていくのは僕たちなんだって。そういう気がしました。

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イベント情報

フェスティバル/トーキョー13 木ノ下歌舞伎
『東海道四谷怪談―通し上演―』

2013年11月21日(木)〜11月24日(日)全4公演
会場:東京都 東池袋 あうるすぽっと
時間:14:00〜、24日のみ11:00〜(受付開始は開演の1時間前、開場は開演の30分前)
料金:一般前売3,500円 幕見券1,500円
※幕見券は11月1日から発売

『フェスティバル/トーキョー13』

2013年11月9日(土)〜12月8日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
ほか
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

木ノ下裕一(きのした ゆういち)

1985年和歌山市生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時にその日から独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学び、古典演目上演の演出や監修を自らが行う団体・木ノ下歌舞伎を旗揚げ。2010年度から3か年継続プロジェクトとして『京都×横浜プロジェクト』を実施し2012年7月には『義経千本桜』の通し上演を成功させるなど、意欲的に活動を展開している。主な演出作品に2009年『伊達娘恋緋鹿子』(『F/T09』秋「演劇/大学09秋」)など。その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。

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