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お手軽なものに対して狼煙を上げたい 木ノ下歌舞伎インタビュー

お手軽なものに対して狼煙を上げたい 木ノ下歌舞伎インタビュー

インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:豊島望

僕たちは歌舞伎を受け継ごうと思ってやっているわけじゃない。正しくは「現代劇を作っている」というスタンスでやっています。だから完全に部外者だと認識しているんですね。

―伝統芸能の世界は厳然と世襲制が残っていたり、一部の人たちが受け継いでいくものという流れがありますよね。でも木ノ下さんは完全にアウトサイダーという立場から取り組まれています。たとえば、興行会社に就職するなど、内側に入って活動しようと思ったことはなかったんですか?

木ノ下:べつに僕たちは伝統劇としての「歌舞伎」を受け継ごうと思ってやっているわけじゃないんです。「歌舞伎を作っている人」と紹介されたりもするんですけど、正しくは「歌舞伎をもとにした現代劇を作っている」というスタンスでやっています。だから完全に部外者だと認識しているんですね。

―実際の木ノ下歌舞伎を拝見すると、現代劇だということはよくわかります。

木ノ下:ただ、じゃあなぜここにいるのかってことなんですけど。いつかは、歌舞伎俳優で歌舞伎を上演、演出してみたいという夢はあります。だけど今は、古典や伝統芸能と現代を繋げるツールが圧倒的に足りていないと思うんです。過去を振り返ってみれば、そういうのってけっこうあったんですよ。

京都×横浜プロジェクト2010『勧進帳』 2010年5月アトリエ劇研 ©東直子
京都×横浜プロジェクト2010『勧進帳』 2010年5月アトリエ劇研 ©東直子

―今よりも、もっと古典芸能が近い位置にあったということでしょうか?

木ノ下:そうだと思います。たとえば、若者の中で歌舞伎が一般常識ではなくなり始めた戦後まもなくに、戸板康二(演劇・歌舞伎評論家)が「外国人に歌舞伎を説明するには、どういう語り口があるのか?」という切り口で入門書を書いていたり、安藤鶴夫(小説家、評論家)が、タレントみたいにラジオやテレビに出演して、古典芸能を普及しようとしたり、そういうアクの強い名物水先案内人がたくさんいた。そういう人がいるときは、新しい観客層を引っ張り込もうと手を変え品を変え工夫していたから、古典芸能も元気だったんですよね。

―ええ。

木ノ下:でも今は、そういう人、そういう場所がほとんどなくなっている。相当貧弱になってしまっている気がします。そこで何か自分たちにできることはないかと思って、現代劇と歌舞伎の中間に位置するような劇団を作ったということなんです。木ノ下歌舞伎を観にきてくれたお客さんが、その後、本物の歌舞伎を観に行ってくれたら嬉しいし、逆に歌舞伎通のお客さんがたとえば杉原演出の現代劇を観に行くとかね。双方向に行き来できるようなトンネルになれれば、と思っているんです。

木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎)

―木ノ下歌舞伎が、トンネルのような役割だけじゃなく、歌舞伎自体にも影響を与えられたら、というのはありますか?

木ノ下:ゆくゆくはそうなっていきたいです。しかしながら、これから僕らが歌舞伎俳優さんと接点持っていったとして、そこで「新しい歌舞伎を作りましょう」となることだけが、歌舞伎に影響を与えることなのか? という問題はあると思う。それは一見近道かもしれませんが、お客さんの側から変えていく方法だってある気がするんですよね。

―たとえば?

木ノ下:木ノ下歌舞伎を観てくれた歌舞伎のお客さんが、現行歌舞伎と比べてみることで、本来歌舞伎が持っているポテンシャルに気づくことだってあるかもしれない。公演以外にもトークイベントをやるとか、フリーペーパーを発行するとか、微々たることですけどそういうことでお客さんを育てていく、って言うと偉そうだけど、一緒に巻き込んでいく。お客さんの側から変わっていけば歌舞伎も変わると思うんですよね。草の根運動なんですけど、そういうことも重要な気がしています。

京都×横浜プロジェクト2012『義経千本桜』より「鮓屋」の場面 2012年7月京都芸術劇場 春秋座 ©清水俊洋
京都×横浜プロジェクト2012『義経千本桜』より「鮓屋」の場面 2012年7月京都芸術劇場 春秋座 ©清水俊洋

あの祝祭的な劇場空間に入っていくと、何か巨大な仏壇の中に自分が入ってくみたいな感じになって、ゾッとするぐらい興奮するんです。

―木ノ下さんがここまで惹き込まれた歌舞伎の魅力とは何なんでしょうか?

木ノ下:それ、言えたほうがいいですよね……。でも「なぜビーフシチューが好きなんですか?」「美味しいから」というレベルの話で、もう理屈じゃないんです。それでも、あえて言葉にするならば、まず非常に演出が新鮮。現代演劇では絶対にあり得ないような演出が歌舞伎の中にはたくさんあるわけです。大体、「黒衣(くろご)って何?」でしょう?(笑) あれが成立しちゃうって、やっぱりすごい。

―あの人たちは「私達はお客さんから見えていません」という前提で作業していますけど、はっきり見えていますからね(笑)。

木ノ下:はい、前に歌舞伎座で隣に座っていた外国人が黒衣を見て「忍者! 忍者!」って興奮してましたから、無理もないなと(笑)。あとは歌舞伎座や京都南座のような劇場空間の魅力です。明治以降、様式はすっかり西洋的な大劇場に変わってしまったとはいえ、まだ芝居小屋の面影があちこちに残っていますよね。あの祝祭的な空間に入っていくこと自体が、他には例えられない高揚感があって格別なんです。そこからもう演劇が始まっている。京都南座では年末に顔見世興行というのがあるんですけど、入口の上に「招き」という、役者の名前を書いた大きな木の看板がバーッと並ぶんですね。その看板を見上げながら入っていくと、「招き」が位牌のようにも見えるんですよ。だって襲名制だからその名前には死んでいる人間も含まれているでしょう? 何か巨大な仏壇の中に自分が入ってくみたいな感じになって、ゾッとするぐらい興奮するんです。そういうことも含めて、あの超ヘンテコな演劇がリアルに見えてくるためのさまざまなムード作りがあり、見えるもの、見えないものも含めていくつかの門をくぐって客席に辿り着くっていう、その感じもよくできてるし、大好きですね。

舞踊公演『三番叟/娘道成寺』より「三番叟」 2012年2月横浜にぎわい座 のげシャーレ ©鈴木竜一朗
舞踊公演『三番叟/娘道成寺』より「三番叟」 2012年2月横浜にぎわい座 のげシャーレ ©鈴木竜一朗

お手軽にわかるものが良いという雰囲気がはびこっている気がしますが、僕はそういうのが嫌いなんです。長い時間だからこそ表現できることは絶対にあると思います。

―最後にもう一度、今回『F/T』で上演される『四谷怪談』の6時間という上演時間についてお聞きします。私は個人的に、演劇でも映画でも、長時間の作品を一度は観るべきだと思っています。ポータビリティー化がこれだけ進んだ現代では、早送りも巻き戻しもできず、同じ場所に黙って座り続けていなければいけない体験って滅多にないですよね。逆に言えば、その強制力は演劇というメディアの誇るべき点だと考えます。もちろん作品が面白いという前提つきですが。それでも6時間という大作はなかなかお目にかかれないので、木ノ下さんたちの決断にはエールを送りたいです。

木ノ下:ありがとうございます。頑張ります(笑)。現代では何に限らず、お手軽にわかるものが良いという漠然とした雰囲気がはびこっている気がしていて、僕はそういうのが嫌いなんです。古典芸能は観ていくほどに面白さが増していくものですし、観る側がどのぐらい準備してるかによっても全然見え方が変わってくるわけで、手間がかかるんです。でも、その手間が楽しい。現代では、そういう楽しさがどんどん排除されているような気がします。長い時間だからこそ表現できることは絶対にありますし、劇場で芝居を観ること自体が娯楽になれば、それはそれで成立すると思います。そのへんが今の日本ではうまくいっていない感じがしますね。

―最近始まったことではありませんが、テレビのテロップなんかもそうですよね。簡単にまとめてわかりやすく「ここで笑ってください」と方向付けをしてしまう。

木ノ下:僕、少し前に入院していたんですけど、病室にテレビがあって10年ぶりくらいにじっくり観たんです。そうしたら、いちいちムカつくんですよ(笑)。ワイドショーを観てもバラエティーを観ても、その瞬間だけ面白ければいい、笑えればいいみたいな感じでしょ? 「今日すぐ使える情報、明日すぐ行ける店」みたいな、とにかく「すぐ、すぐ」って。新聞を読んだら、瞬間視聴率ランキング上位20位以内に教養番組が一切入っていない。「じっくり」とか「ゆったり」がどんどん追いやられている。忸怩たる思いがありましたね。

―そこに狼煙を上げるための6時間上演でもあるんでしょうか(笑)。

木ノ下:そうそう、反対声明を上げるための6時間ですよ(笑)。ぜひ観にいらしてくださいね。

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イベント情報

フェスティバル/トーキョー13 木ノ下歌舞伎
『東海道四谷怪談―通し上演―』

2013年11月21日(木)〜11月24日(日)全4公演
会場:東京都 東池袋 あうるすぽっと
時間:14:00〜、24日のみ11:00〜(受付開始は開演の1時間前、開場は開演の30分前)
料金:一般前売3,500円 幕見券1,500円
※幕見券は11月1日から発売

『フェスティバル/トーキョー13』

2013年11月9日(土)〜12月8日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 池袋 池袋西口公園
ほか
※実施プログラムはオフィシャルサイト参照

プロフィール

木ノ下裕一(きのした ゆういち)

1985年和歌山市生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時にその日から独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学び、古典演目上演の演出や監修を自らが行う団体・木ノ下歌舞伎を旗揚げ。2010年度から3か年継続プロジェクトとして『京都×横浜プロジェクト』を実施し2012年7月には『義経千本桜』の通し上演を成功させるなど、意欲的に活動を展開している。主な演出作品に2009年『伊達娘恋緋鹿子』(『F/T09』秋「演劇/大学09秋」)など。その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。

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