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幸せを掴むための覚悟 ネイチャーフォトグラファー・山形豪

幸せを掴むための覚悟 ネイチャーフォトグラファー・山形豪

インタビュー・テキスト
阿部美香
撮影:高見知香
2013/11/22
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人間の身体はよくできたもので、住む環境にすぐに対応してしまう。

―都会の生活に慣れきった私のような人でも、そういった自然に対する皮膚感覚は取り戻せるものなんでしょうか?

山形:感覚の鋭さは人によるので何とも言えませんが……。自然観というのは理屈で学べるものじゃないと思うんです。子供の頃に泥まみれになって虫を捕ったり、ときには虫や小動物をもて遊んで、命の儚さを思い知ったり、そういった原体験があって初めて身につくものじゃないですか。でも、都会と大自然を行き来することで起こる身体の変化は、誰にでも感じられると思います。都会では雑音や匂いが強すぎて、人間はある程度五感をシャットダウンしないと、まともには生きていけないんです。人間の身体はよくできたもので、住む環境にすぐに対応してしまう。

コロニーに集まるケープカツオドリ ランバーツベイ/南アフリカ ©山形豪
コロニーに集まるケープカツオドリ ランバーツベイ/南アフリカ ©山形豪

―それは、たしかに自覚があります。

山形:でも、アフリカの大自然に触れると、嗅覚や聴覚は確実に研ぎ澄まされます。アフリカ帰りの飛行機で成田上空に差し掛かると、急にスモッグの匂いが感じられたり、アフリカでミュージックプレイヤーを鳴らすと、日本と同じ音量では頭痛がするほど大きく感じられたり……。アフリカでは夜、ライオンやハイエナの鳴き声を聴きながら、それが何メートル先にいるのかを判断しなければならない世界。だから、全ての感覚を研ぎ澄ませられるように、身体が勝手に対応していくんですね。その代わり東京に戻った瞬間、それらは全部シャットダウンされる。そうしないと逆に頭がおかしくなってしまうんでしょうね。

―そんなに変わってしまうものなんですね。

山形:おそらくそれは僕だけじゃなく、旅行者の方でも一緒です。もともと持っている身体能力が、大自然の中で元に戻っていくんだと思いますよ。

インパラを食べるヒョウ マシャトゥ動物保護区/ボツワナ ©山形豪
インパラを食べるヒョウ マシャトゥ動物保護区/ボツワナ ©山形豪

僕はとにかくアフリカの大自然の中にいることが一番幸せです。あの世界が無くならないで欲しいという願いがある。

―アフリカの人たちにとっての自然とは、また日本人の感覚とは全然違うものですか?

山形:あちらは完全にサバイバルの域に達していますよね。たとえば、今でも遊牧を続けているマサイ族にとってのライオンは、自分たちの財産である牛を食べてしまう存在。畑を耕している人たちにとって、1頭の象は畑を全滅させてしまう危険な存在です。我々の「野生動物を守ろう」というイメージとは完全にギャップがあります。

―象やライオンは、必ずしも守るべきものだけではないんですね。

山形:さらに我々と彼らの中間には、アフリカの都市部に暮らし、西洋教育を受け、スーツを着てサファリ産業に従事しているアフリカ人もいます。彼らにとっての象やライオンは資源なんですね。そこに象がいれば、外国人観光客がやってきてお金を落としてくれる。もう1つの自然観がそこにあるんですよ。そういった何層もの複雑な構造を背景にして、僕らのような外国人がサファリに行き、象やライオンに感動しているんです。

獲物を食べたばかりのリカオン サビサビ動物保護区/南アフリカ ©山形豪
獲物を食べたばかりのリカオン サビサビ動物保護区/南アフリカ ©山形豪

―「アフリカの自然」と一言で言っても、いくつもの矛盾を抱えているんですね。

山形:その状態が良いか悪いかというのは、非常に難しい問題だと思います。アフリカでは爆発的な人口増加が起きていて、農業を営む人間、牧畜を営む人間、野生動物の3者が完全に共存することが、もはや維持できなくなっている。昔なら、遊牧民のエリアにライオンは近づかず、野生の象は畑に近づかなくても生活できていましたが、今は3者を共存させられる広さの土地がもうありません。畑に囲まれて生きるしかない象は、どこかの畑を荒らして食べ物を調達するしかないし、畑の所有者はゾウを殺したいと考える。ましてや象牙は外国人に高く売れる。いくら汗水たらして農業をやっても、象牙1本分のお金すら手に入らないのですから、なおさらですよね。

―となると、アフリカの自然環境を守るためには人間を排除しなければならない?

山形:少なくとも、僕が撮影に訪れている自然公園の中に人間は住んでいません。何故なら、もともとそこで暮らしていた人たちを追い出しているから……。残念ながらそうするしかないんです。でも、観光産業の視点から言えば、そういう図式は見せたくない。我々外国人が感動にうち震えるサバンナは、動物たちが暮らす大自然でなければならないんです。「実はここにはたくさんの人が住んでいたけど、全部追い出したんです」とは言えないですよね(苦笑)。

日向ぼっこをするミーアキャットの家族 カラハリトランスフロンティアパーク/南アフリカ ©山形豪
日向ぼっこをするミーアキャットの家族 カラハリトランスフロンティアパーク/南アフリカ ©山形豪

―今伺ったお話でいえば、旅行者にとってもアフリカの人たちにとっても、大自然や野生動物に向き合うことは、かなりアンビバレンツな状況になってしまっていると考えられますね。

山形:そうなんです。……でも、僕はとにかくアフリカの大自然の中にいることが一番幸せです。あの世界が無くならないで欲しいという願いがある。あそこでずっと写真を撮り続けたいんです。

―ネイチャーフォトグラファーというのは、山形さんのような強い情熱と意志がなければ、なかなか続けられないお仕事なのかも知れませんね。そして、そんな山形さんの写真が、東京・六本木のフジフイルム スクエアで開催されている『生(ライフ)〜写真がとらえる野性〜』展で拝見できるそうですね。

山形:今回の展覧会に声を掛けていただき、本当にありがたいと思っています。「生(ライフ)」がテーマとのことだったので、アフリカに生息するほ乳動物を中心に、イギリスで撮った海鳥、インドで撮った動物写真なども展示させてもらっています。見どころは……僕の写真だとシマウマですね。高さ2メートル以上もあるプリントに焼きましたので、かなりの迫力を感じていただけると思います(笑)。他のフォトグラファーさんも、海中写真で有名な鍵井靖章さんだったり、アラスカからアフリカまでを股にかける前川貴行さんだったり、北極圏の写真が得意な松本紀生さんだったりと、バラエティーに富んだ内容が楽しめると思います。同じアフリカの動物写真でも撮る人によってテイストは全然違いますし、写真にはフォトグラファーのキャラクターがどうしても出ますから、そこも楽しんでいただきたいですね。

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イベント情報

『FUJIFILM SQUARE 企画写真展「生(ライフ)〜写真がとらえる野性〜」』

2013年11月15日(金)〜12月4日(水)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン・ウェスト フジフイルム スクエア
時間:10:00〜19:00(入館は18:50まで)
出展作家:
鍵井靖章
前川貴行
松本紀生
山形豪
料金:無料

『写真でとらえる野性』トークショー
2013年11月30日(土)14:00〜15:30(開場13:30)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン・ウェスト フジフイルム スクエア2F
出演:
鍵井靖章
前川貴行
松本紀生
山形豪
定員:150名(要事前予約)
料金:無料

プロフィール

山形豪(やまがた ごう)

1974年、群馬県高崎市生まれ。少年時代を中米のグアテマラや西アフリカのブルキナファソ、トーゴといった国々で過ごす。1993年国際基督教大学高校を卒業後、タンザニアへ渡り、現地のインターナショナルスクールでIB(インターナショナル・バカロレア)を履修する傍ら自然写真を撮り始める。1995年イギリス、イーストアングリア大学開発学部入学。在学中も休みを利用して何度も東アフリカを訪れる。1998年大学を卒業し帰国。フリーの写真家として活動を始める。2000年以降、頻繁にアフリカ南部を訪れ、野生動物や風景、人々の写真を撮り続けながら、サファリのガイドとしても活動中。近年ではインド亜大陸にもフィールドを広げている。日本自然科学写真協会(SSP)会員。2005年『エプソンカラーイメージングコンテスト』ヒューマンライフフォト部門グランプリ受賞。

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