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僕が異端児であり続ける理由 芸術家・柿沼康二インタビュー

僕が異端児であり続ける理由 芸術家・柿沼康二インタビュー

インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:佐々木鋼平
2013/12/09

僕の表現に幅があるとしたら、三人の師から学んだこと、そこから生まれた自分という4つの要素があると思います。

―今展覧会では、いわゆる伝統を受け継ぐような作品から、高さ7.5m、幅12mを超える抽象画のような超大作、さらに「月」という一字を600字以上書き並べることで時間の積層を感じさせる展示室など、多彩な作品に溢れています。これらはそれぞれ、個性の異なる師匠たちから学ばれたこととも関係しているのでしょうか?

柿沼:父は大きな筆で図太く土臭い作品を書いていて、手島先生は「文字そのものの意味を直截的表現する芸術家」といった作風。上松先生は真逆で「臨書の虫」というあだ名がつくほどの職人肌でした。僕の表現に幅があるとしたら、三人の師から学んだこと、そこから生まれた自分という4つの要素があると思います。

『649の月』(2013年)
『649の月』(2013年)

―さらに柿沼さんの作品には、書の世界以外の出会いから生まれた作品もたくさんありますね。岡本太郎の思想を独自解釈した『ぱーっ!』の他にも、『万葉集』の詩からUnderworldの名曲“Two Months Off”のフレーズまで、古今東西の「ことば」を使って書を書かれています。

柿沼:『ぱーっ!』は、「芸術は爆発だ」で知られる岡本太郎さんの芸術観を自分なりに捉え直したものです。彼の言っていた「爆発」というのは、派手に「ドカーン!」というよりも、宇宙との共振であったり、真空の世界のようなものなんじゃないかと思うところがあって。カール・ハイド(Underworld)は、フランツ・クラインを敬愛するファインアーティストでもあり、YouTubeの私の映像を見て、一緒に何かしようと連絡が来て交流が始まり、それが『You bring light in…』につながりました。でも、好きな言葉だから簡単に書けるというわけでもありません。最初はどこか不自然だったり、どうも筆が嫌がっていると感じたり。それでも何度も何度も書いていく中で、やがて目をつぶっていても書ける! という段階が来るんです。そうなって初めて、作品の中に貫通力みたいなものが宿るような気がします。

『ぱーっ』(2011年)
『ぱーっ』(2011年)

いろんなものと混ざり合うから生きた表現になる。そう見ればどんなコミュニケーションも面白くなってくる。それは「積極的に生きる」ということにもつながるんじゃないか。

―表現は、まったくの「個」から生まれるものでもないと思いますが、既存の文字を使って表現する「書」には、その点でも特有さがありそうです。

柿沼:そう、そこが面白い。「模倣と創造」というテーマにも関わる話ですね。両者は一見、相反するように見える。でも、たとえば王羲之(中国の書聖)や、空海の古典をどれだけ頑張って真似てみても、まったく同じものを書くことはできない。じゃあ、「なぜそれでも臨書をするのか?」と言えば、模倣と創造は、実は表裏一体だからなんです。

―たとえば、「空海はきっとこう考えていたのでは?」という独自の解釈も、自分の表現につながっていくのでしょうか?

柿沼:動きが形を作るということも含め、そうやって彼らに近づこうともがき、あがいて工夫する。その点で模倣は創造の故郷とも言えるし、吸い込みながら同時に吐き出しているとも言えます。コラボレーションという言葉が簡単に使われすぎていて、あまり好きじゃないんですが、いろんなものと混ざり合い、受け取り合うからこそ、表現は生きたものになる。そういう視点で見れば音楽や絵画、たとえば今この取材のようなコミュニケーションも全部面白くなってきます。それは「積極的に生きる」ということにも、つながるんじゃないかと思うんですね。

『You bring light in…』(2013年)
『You bring light in…』(2013年)

今はまず「生きること・人間であること」、次に「芸術」、その次が「書」という優先順位になった。だから仮に「こんなのはもう『書』じゃないよ」って言われたとしても全然痛くない。

―ここで、そもそものお話を聞いてしまいますが、もともと記録や伝達に使われてきた文字が、なぜ書という「表現」になったのでしょう?

柿沼:確かに、文字自体はただのシンボルですからね。ただ、書が工芸と似ていると思うのは「用美一体」という点。意思を伝達するための文字だけど、字を書く行為において心や気持ち、そして美を問われる文化もある。日本では遅くとも江戸時代、読み書きそろばんの寺子屋ができた頃には、既に文字を書く教養が求められていた。たとえば「偉い人」は、書く字もそれっぽいものじゃなきゃいけなかったと思うんですよ(笑)。単に読めるとか綺麗とかじゃなくて、その人に相応しい、しっかりした字というか。

―「伝わりさえすればいいじゃん」ではなく。

柿沼:そういう割り切りは、日本人の気質や美意識に合わなかったんでしょうね。僕はアカデミックに明確な論拠では語れませんが、そこには日本人の几帳面さ、真面目さとかも関わっているのではと感じます。さらに書の表現には、何も書かれていない紙の空間との関わりや、音楽的な時間性、淡墨のにじみによる偶発性の呼び込みなど、技術においても奥行きがあります。

『行行』(2013年)
『行行』(2013年)

―柿沼さんは、「書は芸術たるか、己は芸術家たるか」というテーマをずっとお持ちだそうですね。たとえば明治時代から「書は美術ならず」論争(画家の小山正太郎による同名論に岡倉天心が反撥した)みたいなものがあり、柿沼さんは、書で表現し続ける1人の人間としてこの問いに向き合っているように感じます。

柿沼:もちろん書が好きだから、この手法を用いて表現をやってきました。若い頃の自分にとっては、それこそ「書」こそが最重要で、2番目が生きていくこと、3番目が芸術なるもの。そういう順列だった気がします。それがいろんな経験を経た結果、今はまず「生きること・人間であること」、次に「芸術」、その次が「書」という優先順位になった。だから仮に「こんなのはもう『書』じゃないよ」って言われたとしても全然痛くない。問題はそれが自分の腹から出たがっている表現かどうかであって、それは絶対だと思うんです。頼まれて作るのではなく、本人がそれを吐き出さないと生きた心地がしないというのがアートだと僕は思っています。

―今はそこに、充実した形で取り組めている?

柿沼:はい。それは「自分が自分になっている」ということだけど、そう思えるのは一瞬で、次の瞬間には逃げていきます。でもその尻尾を一度見てしまったら、それを捕まえたくてしょうがない。芸術家とは、そういう感覚を追い求めて表現していく人なんだと思います。まあこれも「言うは易く……」で、裏を返せば、アートと共に死んでいくなんて道を選ぶのは、世捨て人なのかもしれません(笑)。だけど、それも「自分で決めたこと」だと言える勇気は、人一倍持っているつもりです。

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イベント情報

『柿沼康二 書の道 “ぱーっ”』

2013年11月23日(土)〜2014年3月2日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展覧会ゾーン
時間:10:00〜18:00(金・土曜は20:00まで、1月2日と3日は17:00まで)
休館日:月曜(休日の場合その直後の平日。2月10日は開場)、12月29日(日)〜2014年1月1日(水)
料金:一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上800円

書籍情報

『柿沼康二 書の道 “ぱーっ”』

2014年1月2日発売
価格:3,150円(税込)
発行:株式会社マイブックサービス

プロフィール

柿沼康二(かきぬま こうじ)

書家 / アーティスト。1970年栃木県生まれ。東京学芸大学教育学部芸術科書道専攻卒業。プリンストン大学客員書家(2006-2007年)。「書はアートたるか、己はアーティストたるか」の命題に挑戦し続け、伝統的な書の技術と前衛的な精神による独自のスタイルは、書という概念を超越し「書を現代アートまで昇華させた」と国内外で高い評価を得る。NHK大河ドラマ『風林火山』、北野武監督映画『アキレスと亀』等の題字の他、伝統書から特大筆によるダイナミックな超大作、トランスワークと称される新表現まで、その作風の幅は広く、これまでメトロポリタン美術館、ワシントンDCケネディセンター、フィラデルフィア美術館、ロンドン・カウンティーホール、KODO(鼓童)アースセレブレーションなどでパフォーマンスが披露され好評を博している。

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