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櫛野展正(鞆の津ミュージアム)×堀内奈穂子(AIT)対談

櫛野展正(鞆の津ミュージアム)×堀内奈穂子(AIT)対談

インタビュー・テキスト
ヤマザキムツミ
撮影:高見知香

勉強になったのは、「展覧会のときアーティストに謝礼をいくら払ったらいいんですか?」とか、具体的な話が聞けたこと(笑)。(櫛野)

―櫛野さんは鞆の津ミュージアムのキュレーターでありながら、福祉施設の職員でもあるとのことですが、どういった経緯で現在のお仕事に?

櫛野:僕は大学で教育学部を出たので、中学校の教員免許を持っているのですが、卒業してからは、家の近所にある知的障がい者の福祉施設に就職したんです。

―ということは、先生志望だったんですか?

櫛野:そうですね。特別支援学校という、知的障がい者の方が通う学校の先生になりたいと思っていたんですけど、たまたまその時期に採用試験がなくて。だから2年前までは、バリバリに福祉施設の職員でしたね。

―CINRA.NETでも注目を集めた『極限芸術~死刑囚の表現~』展など、今や各方面から注目される展覧会の企画を一人でされているわけですが、アートの勉強を始められたのはいつ頃からなんですか?

櫛野:2年前、つい最近です(笑)。働いている福祉施設が旧家の蔵をリノベーションして鞆の津ミュージアムを運営することになり、そこへ配属が決まったのが開館の前年で、当時は職員が自分一人でした。それでミュージアムのハード面だけじゃなくソフト面も充実させようということで、キュレーター養成が必要だろうと、美術館の立ち上げにも関わっている日本財団の支援で「MAD」に通わせていただきました。堀内さんにもいろいろ教えてもらいましたね。

櫛野展正

―当時は先生と生徒だったんですね(笑)。櫛野さんの場合、どちらかというと「アートの仕事をやろう!」というよりも、必要に迫られてという感じだったのかと。

櫛野:そうですね(笑)。そもそもまったくアートの知識がなかったので、MADには1年ほど通わせていただきました。勉強になったのは、それまでアート関係者も周りにいなかったので、「展覧会のときアーティストに謝礼をいくら払ったらいいんですか?」とか、具体的な話が聞けたこと(笑)。あと、作品をセレクトする際の価値判断を、多少美術史を学んだことで、言葉で説明できるようになれたのも良かったです。昨年開催した『極限芸術』展も、展覧会企画を考える授業で出したアイデアが、実際にカタチになったものなんですよ。

―そうだったんですね! でも、お二人とも、もともとアートの勉強をされていたわけではなく、別の分野から始められたというのは面白いと思いました。また同じアートの仕事でも、堀内さんはわりと現代アートの本流に近い感じで、櫛野さんはアウトサイダーからの現代アートという。

櫛野:邪道ですね(笑)。

堀内:いや、むしろ面白いですよ(笑)。

堀内奈穂子

アートの世界にいると、常に固定観念を疑うことや違和感を持つ思考が生まれるし、さまざまな「問い」が与えられ続けるので、そういうところが今までの仕事とは違う点かなと思います。(堀内)

―以前のお仕事からアートのお仕事をされるようになって、変わったことなどはありますか?

堀内:アートの世界にいると、ルーティンワークはほぼ無くて、自分で工夫しながら創造していくことが求められます。常に、さまざまな「問い」が与えられ続けますし、今までは当たり前だと思って見過ごしていたことに違和感を持つようにもなってきます。特にアーティストの活動や考えに触れていると、今まで自分が思っていたこととまったく違う方向へ導かれていくこともあり、その一つひとつの発見や差異こそが面白い部分だと思います。そういうところが一般企業で働いていたときとは違う点かなと思います。

櫛野:僕の場合は、なんと言うか……、知的障がい者の方って、食事介助やトイレ介助などが必要ですし、わりと受け身な生活になってしまうんです。それで、もっと彼らが自己主張できる機会はないかと考えたときに、その手段として「アート」が使えるんじゃないかと思いました。だから、仕事としてあまり違いを感じていないですね。もともとが福祉だし、「アート」というよりも「人」を扱う仕事をやり続けているという意識なんです。鞆の津ミュージアムの企画展示も、アート作品というよりも人類学的というか、人を紹介しているようなものなので、そこはずっと一貫していると思っています。

―支援の一環として作品を作るだけでなく、それを展示したいと思われたのはなぜだったんでしょうか?

櫛野:障がいのある人に絵を描いてもらったところ、僕らが考えているような価値基準や常識からかけ離れたものすごい表現をする人が何人もいて、とても驚かされたんです。そういった作品を観ていると、いろんな「境界」を揺らす力があるんじゃないかと思いましたし、調べてみたら、「現代アート」や「アールブリュット」(正規の美術教育を受けず、独学によって生まれた美術表現のこと)と呼ばれているものにも類似している。これはどうにか世に出して観てもらいたいなと。だったら、僕がパイプ役になるしかないと思ったんですね。

櫛野展正

―実際、鞆の津ミュージアムはいわゆる「アールブリュット」と言われるアート作品を展示されているわけですが、反応はいかがですか?

櫛野:『極限芸術』展は、犯罪心理学や哲学なども扱ったディープな内容でしたが、それでもいわゆる「生死」を扱った展覧会なので、カップルや家族連れなど、かなり幅広い人たちが観にきてくれました。珍しい作品を観たというだけでなく、たとえば死刑制度の是非を考えるきっかけにもなったら嬉しいですね。ただ一方で、アールブリュットを提唱したジャン・デュビュフェという画家との闘いを僕は常に意識していて。

―デュビュフェと同じことをやっているわけではない?

櫛野:「正規の美術教育を受けている人 / いない人」という概念自体、今では通用しないと思うんです。あと、たとえばアールブリュットの展覧会をやろうとなったとき、キャッチコピーに「純真無垢」とか「魂の」といった言葉が使われがちですが、作家本人たちはそんなこと一言も言っていない。そこに違和感を感じるし、そういう問題も含めてもっと掘り起こしていきたいという思いがあるんです。だから、一見突飛な企画展ばかりに見えるかもしれませんが、わりと真剣に社会の問題を考えていて、展覧会を通じてみんなに問題意識を提示していこうと思ってやっています。

堀内:櫛野さんのご活動は、アールブリュットという概念だけではなく、まさにアートの領域そのものを広げていますよね。現代アートの世界でも、一昨年の『ドクメンタ13』(ドイツで5年に一度行なわれている大型の現代美術グループ展)や、昨年の『第55回ヴェネチアビエンナーレ』において、アートとみなされていなかったものを一緒に並列して展示することで、アートの概念そのものや歴史、知識をもう一回捉え直すというような提案がされていました。その中にはまさにアールブリュットと言われる作品も入っていましたし、霊媒とか精神世界で描いたような作品もありました。キュレーションの世界でも、アートの領域や表現を捉え直してみたり、ものの中にある考えや態度をより丁寧に眺めてみるという動きが、広がってきているんじゃないかなと思います。

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イベント情報

『MAD2014相談会』

2014年4月3日(木)、5月16日(金)、6月20日(金)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:00~20:30(要予約、定員30名、詳細はウェブサイトを確認)
料金:参加無料

AIT | MAD » 無料体験レクチャー/相談会

イベント情報

『ヤンキー人類学』展

2014年4月26日(土)~7月21日(月・祝)
会場:広島県 福山 鞆の津ミュージアム
時間:10:00~17:00
出展作家:
伊藤輝政
梶正顕
丸尾龍一
相田みつを
前田島純
夢想漣えさし
ちっご共道組合
みやび小倉本店
休館日:月、火曜(祝祭日は開館、翌日休館)(4月28日、4月29日、5月5日、5月6日、7月21日は開館、4月30日、5月1日、5月7日、5月8日は振替休館)
料金:一般1,000円
※小学生以下・障がい者の方は無料

『相田一人トークイベント』
2014年5月11日(日)17:00~19:00
会場:広島県 福山 鞆こども園
出演:相田一人
定員:100名
料金:1,500円

『都築響一×上野友行トークイベント』
2014年5月25日(日)17:00~19:00
会場:広島県 福山 鞆こども園
出演:
都築響一
上野友行
定員:100名
料金:2,000

『茂木健一郎トークイベント』
会場:広島県 福山 鞆こども園
出演:茂木健一郎
定員:100名
料金:1,500円
※日程未定

『斎藤環トークイベント』
2014年6月15日(日)15:00~17:00
会場:広島県 福山 鞆こども園
出演:斎藤環
定員:100名
料金:1,500円

プロフィール

櫛野展正(くしの のぶまさ)

2012年5月、広島県福山市鞆の浦で築150年の蔵を改修しオープンした「鞆の津ミュージアム」でキュレーター他を担当。死刑囚の描いた絵画や社会の周縁で表現を続けている人たちに焦点を当て、挑戦的な企画を打ち出し続けている。企画した展覧会に『ようこそ鞆へ! 遊ぼうよパラダイス』(2013)、『極限芸術~死刑囚の表現~』(2013)、『リサイクルリサイタル-幸せ時間の共有-』(2012)、『LOVE LOVE SHOW』(2012)などがある。

堀内奈穂子(ほりうち なおこ)

エジンバラ・カレッジ・オブ・アート現代美術論修士課程修了。スコットランド国会議事堂やジャズバーなど、エジンバラにて展覧会を企画。『ドクメンタ12』のマガジンズプロジェクト『メトロノーム11号ー何をなすべきか? 東京』(2006)では、アシスタントキュレーターを務めた。AITでは、展覧会やワークショップ、トークの企画のほか、教育プログラムにてレクチャーを行う。『Home Again」展(2012 / 原美術館)アソシエイトキュレーター、『アーカスプロジェクト』(2013)ゲストキュレーター。

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