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心地の良い暮らしについて考える 建築家・中村好文インタビュー

心地の良い暮らしについて考える 建築家・中村好文インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望

「人ってなんだろう? 人の暮らしってなんだろう?」ってことを考えるのが建築家の仕事だと思うんです。ステータスシンボルとしての住宅にはあまり興味がない。

―中村さんの仕事には個人住宅が多いですね。『小屋から家へ』でも、山荘のような、建築が多数掲載されています。

中村:たまたまあの本はそういう小さな住宅を集めた本だからですが、大きい住宅を設計するのって、やっぱり難しいんです。

―それはなぜですか?

中村:住宅は大きくなっていくと住宅としての純度は下がっていくような気がしています。もちろん大邸宅でも名作はありますが、世界中を回って名作と呼ばれる住宅をたくさん見てきましたけど、「いいなあ」と思える住宅は規模の小さいものが多いです。結局、「人の暮らし」と「住まい」が背中合わせになっているような家に僕は惹かれるんだと思います。「食う寝るところ」という感じがしないと、建築の純度が下がる気がする。韓国の民俗村みたいなところに行くと、小さな農家なんかは面白いんですけど、両班(やんぱん=貴族階級)の邸宅になるとなんか面白くなくなっちゃう。住宅が自分の富や地位を誇示するための手段や道具になってしまっている感じがする。

『Peak Hut』2012年 長野県北佐久郡 ©雨宮秀也
『Peak Hut』2012年 長野県北佐久郡 ©雨宮秀也

―たしかに贅肉的な建築ですね。

中村:たとえば山奥で1人で生きていかなきゃいけないとして、雨露をしのぐためにとりあえず覆いを作るとか、そうやってだんだん住まいの原型ができてくる。そういうのが面白い。結局のところ「人ってなんだろう? 人の暮らしってなんだろう?」ってことを考えるのが住宅建築家の仕事だと思うんです。ステータスシンボルとしての住宅にはあまり興味がない。僕は、世の中に良くあるその種の住宅を「二世帯住宅」をもじって「見せたい住宅」と呼んでいるんです(笑)。

―あはは、なるほど(笑)。

中村:もちろん必要があって大きくなるのはいいけど、やっぱり自分が設計する家は「見せたい住宅」よりは「住みたい住宅」にしたいのです。

『Jin Hut』2012年 北海道虻田郡真狩村 ©雨宮秀也
『Jin Hut』2012年 北海道虻田郡真狩村 ©雨宮秀也

―そういった発想が、中村さんの言う「小屋」には凝縮しているのだと思います。実際に家というより小屋という表現がぴったりな建築を手がけていますが、家と小屋の境界線はあるのでしょうか。

中村:それは僕もよくわからないんです。小屋の定義はすごく難しい。犬小屋だって小屋だし、水車小屋だって小屋だから。でも、僕はそこに人の暮らしが入ってきて、肉体だけではなく「心の棲まう場所」という感じがするのがいいと思っています。

―神戸にある『Luna Hut』はどうでしょう。風景を眺めるための場所で、中に入るともたれかかることのできる衝立てと、ベッドのようなスペースがあるだけですね。

中村:山の上からの月の眺めがあまりに見事で作ったので『Luna Hut』という名前をつけましたけど、ある意味では風景を眺めながら、自分自身の心象風景に向き合うための場所、つまり、あの小屋は一種の教会(チャペル)を目指したんです。

『Luna Hut』2012年 兵庫県神戸市 ©雨宮秀也
『Luna Hut』2012年 兵庫県神戸市 ©雨宮秀也

―そこにいることで、何かに気づけるような。

中村:「自分と出会う」というのでもいいですけどね。まずそれが原点にあって、食べたり飲んだり寝たりっていうことが加わると、生活を通じて自分と向き合うようになる。小屋のそういう部分に惹かれるんだと思います。さっきの本(『小屋から家へ』)で、理想とする7つの小屋を挙げているけれど、全部、精神性の感じられる場所ですよね。

―森の中で自給自足の生活をしたヘンリー・デイヴィッド・ソローの小屋や、彫刻家の高村光太郎が晩年住んだ庵は有名ですね。面白かったのは、詩人の立原道造が構想した『ヒアシンスハウス』。立原は、24歳で亡くなってしまったので実現はしなかったのですが、台所も風呂もない家で、本当にシンプルです。

中村:若かったし、入院中に見舞いに来てくれた人に「5月の風をゼリーにして持ってきてください」と言うぐらいのロマンティストですから、生活感はあまりなかったんでしょうね(笑)。でも、一人暮らしを前提に考えるのはいいと思う。結婚して共同生活するようになると、どうしても相手を気遣うようになりますよね。気持ちが外を向くようになり、自分自身と真正面から向き合う感じはなくなります。

中村好文

―他人同士の生活ですからね。徐々に慣れていくとはいっても、気の遣い方に慣れていくようなところがあります。

中村:話は変わりますが、僕は住まいに料理ができなければ困るので絶対に台所が欲しい。やっぱり「食う寝るところに住むところ」という言葉は、僕の目指すところを端的に表していると思います。最近、海外に行くときは極力アパートメントホテルに泊まることにしているんです。料理もできるし、その街に暮らしている感じが実際に味わえるから。生活者の視点になって、この街でゴミはどういうふうに分別して捨てるんだろうとか、生活レベルで見た街の作られ方が気になり出す。住宅を設計している人間だから、そういうことに常に意識がいってないとね。

家具や生活用品を作るのも、住宅を作るのも、「暮らしを作る」ための道具を設計しているという意味では同じなんです。

―あと中村さんの経歴で興味深かったのは、大学を卒業して1度就職された後、職業訓練校の木工科で家具製作の勉強をされていますよね。その後に勤められた吉村順三設計事務所でも家具製作のアシスタントをされていたそうですが、それはなぜですか?

中村:学生の頃から住宅設計と家具をデザインをライフワークにしようと思っていたんです。住宅と家具の設計の2つを自分の仕事の両輪にしたかった。

―建築と家具製作を分けていないということですか?

中村:分けていません。どちらも「暮らしための道具」ですから、僕にとっては同じことなんです。大きくなると住宅になり、小さくなれば家具になる、っていう発想です。生活雑貨でも、市販品で気に入ったものがなければデザインして作るんです。最近、この「ゴマすり」を作ったんですけど、すごく調子がいいんですよ。こうやっていると(と、言っておもむろにゴマをすり始める)、手の動きが本当に「ゴマすり」しているように見えるところもちょっといいでしょ?(笑)

『ゴマすり』

『ゴマすり』
『ゴマすり』

―手をこすりあわせて(笑)。これいいですね。売っているんですか?

中村:金沢21世紀美術館の隣にある「モノトヒト」という生活工芸を扱うスペースに3か月間限定で「好文堂」という店をオープンさせてもらったんですが、そこで販売しています。使った人はみんな便利だと言ってくれていて、うちでも使っているし。ほら、もうこんなにすれた(笑)。こういうのを作るのも、住宅を設計するのも同じことなんですよね。

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イベント情報

『中村好文 小屋においでよ!』

2014年4月26日(土)~8月31日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 長期インスタレーションルーム、光庭
時間:10:00~18:00(金・土曜は20:00まで)
休場日:月曜(休日の場合は翌平日、ただし7月21日、8月11日は開場)
料金:無料

『Hanem Hut』内部公開
展覧会会期中の土・日曜14:00~18:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 光庭
料金:無料(要予約、当日13:00より予約受付)

つのだたかし
『小屋に捧げるリュートの夕べ』

2014年5月31日(土)19:00~20:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 光庭(雨天の場合は館内別会場)
料金:無料

『職人衆、Hanem Hutを語る』
2014年6月14日(土)14:00~16:00(開場13:45)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 レクチャーホール
定員:先着80名(予約不要)
料金:無料

中村好文×皆川明対談
『小屋から学ぶこと』

2014年8月2日(土)14:00~16:00(開場13:45)
会場:石川県 金沢21世紀美術館 シアター21
定員:180名
料金:1,000円

プロフィール

中村好文(なかむら よしふみ)

1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。宍道建築設計事務所勤務の後、都立品川職業訓練所木工科で家具製作を学ぶ。吉村順三設計事務所に勤めた後、1981年にレミングハウス設立。日本大学生産工学部建築工学科教授。1987年『三谷さんの家』で『第1回 吉岡賞』受賞、1993年『一連の住宅作品』で『第18回 吉田五十八賞「特別賞」』受賞。主な作品は、『ReiI Hut』(栃木県、2001年)、『伊丹十三記念館』(愛媛県、2007年)、『明月谷の家』(神奈川県、2007年)など。著書も多く、『住宅巡礼』『住宅読本』『意中の建築 上・下巻』(新潮社)、『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』(TOTO出版)などがある。

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