インタビュー

メディアミックスの時代? 「感傷ベクトル」の戸惑いと新たな一歩

メディアミックスの時代? 「感傷ベクトル」の戸惑いと新たな一歩

インタビュー・テキスト
金子厚武

今の音楽シーンのトレンドはずばり、「音楽が音楽だけでは存在しなくなった」ということだろう。ボカロPであり、小説家でもあるじんの『カゲロウプロジェクト』がその代表例と言えるが、音楽と小説、さらにはアニメや漫画などがトータルでひとつの世界観を生み出し、若い世代を中心に大きな支持を獲得している。そしてそれは、YouTubeおよびニコニコ動画が普及し、音楽と映像が不可分になったときからの、当然の帰結とも言えよう。同人サークルとしてスタートし、ウェブで連載していた漫画を単行本として、そして各話に連動していた楽曲をアルバムとして発表した『シアロア』で2012年にメジャーデビューした感傷ベクトルもまた、そんな時代の寵児であった。しかし、目立った動きがなかったこの2年間は、「音楽が音楽だけでは存在しない」という価値観が、ものすごい勢いで一般化して行ったことに対しての戸惑いの期間だったのである。

思索のときを経て完成したファーストシングル『エンリルと13月の少年』は、言ってみれば、感傷ベクトルの真のデビュー作だと言っていいだろう。漫画家でもある田口囁一は5月から別冊少年マガジンで『フジキュー!!!』の連載を開始し、脚本を担当する春川三咲は現在ライトノベルを執筆中。お互いがそれぞれの分野で本格的に活躍した上で、同時に感傷ベクトルとしての表現も見出していこうとする、本作はその第一歩なのである。高校時代からのバンドコンプレックスを引きずりながらも、それでも自分たちなりの方法を追求し、新たなスタートに立った現在の心境について、田口と春川にじっくりと語ってもらった。

ニコ動にはホントつい最近まで全く触れないまま来てしまっていて、どっちかっていうと、とっつきにくいというか、盛り上がってるのが怖くて。「お前らクラスじゃそんなんじゃなかったじゃん…」って、より日陰からの目線で(笑)。(田口)

―感傷ベクトルは、田口くんが描いていたバンド漫画に出てくる曲を実際に音源化して、コミケで売るために、もともと一緒にバンドをやっていた春川くんに声をかけたのがスタートだそうですね。そういう発想って、既に周りに同じようなことをしていた人がいたわけですか?

田口:いや、その頃は全然いなかったと思いますね。

―何年ぐらいの話ですか?

田口:2007年末とか08年アタマぐらいだと思います。ニコ動とか出てきて、「定着してきたかな?」ぐらい。

春川:“メルト”(supercellのryoがニコニコ動画に“メルト”をアップしたのが2007年12月7日。その後1年で300万回以上再生された)がどうのこうのっていう時期ですね。

―だとすると、漫画に出てくる曲を実際に音源化するっていう発想はどこから出てきたんですか?

田口:わりと自然な流れだったんです。その頃ちょうどDTMを始めて、自分たちで音源を完成まで作れるようになったんで、作れるなら作ってしまおうみたいな感じだったと思います。

感傷ベクトル
感傷ベクトル

―春川くんはそのアイデアを聞いてどう思った?

春川:「ふーん」ぐらいです(笑)。別に不思議な感覚は一切なく、いつもの延長で遊びに誘われたぐらいの気持ちで、曲作って、「どうすんのこれ?」「コミケで売る」「そうなんだ」ぐらい。

―だとすると、先見の明があったと言えそうですよね。今ってメディアミックス的なことが一般化して、二足のわらじを履いているミュージシャンもすごく増えたし。

田口:そうですよね。それは最近すごく感じます。


―そういうメディアミックスって、やっぱりニコ動発なイメージが強いんだけど、当時はそこと強い接点があったわけでもなかったんですか?

田口:強い接点どころか、一切接点はなかったです。ニコ動にはホントつい最近まで全く触れないまま来てしまっていて、どっちかっていうと、とっつきにくいというか、盛り上がってるのが怖くて(笑)。

春川:現実世界では教室の隅っこにいるような人たちが、ネット上ではすごい盛り上がってる。

田口:「お前らクラスじゃそんなんじゃなかったじゃん…」って、より日陰からの目線で(笑)。

春川:僕らニコ動にすら乗っかれなかったんです。

田口:仲間だと思ってた人たちが盛り上がってるのを見て、引いちゃったような側なんです。

―でも、バンドをやってたぐらいだから、どちらかというと日向だったんじゃないですか?

2人:いやぁ~(笑)。

―そんなことはないと(笑)。

田口:対バンは全員敵だと思ってたんで、全然バンド友達もいなくて、黙々とブッキングに出て、黙って帰るみたいな。

春川:黙々とノルマだけ支払ってました(笑)。

田口:とりあえず、青春パンクへの恨みつらみがそこで培われましたね。メンバーの彼女らしき女子たちが、客席の最前列で頭振ってるみたいなバンドがいっぱいいたんで。

春川:ライブ終わったら、「物販よろしくお願いします!」って、女の子たちが騒いでて……。

田口:「いつか見返してやる」って思いながら、バンド活動してました(笑)。

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リリース情報

感傷ベクトル<br>
『エンリルと13月の少年』初回限定盤(CD+小説)</h4>
<p>2014年5月14日(水)発売<br>
価格:1,512円(税込)
感傷ベクトル
『エンリルと13月の少年』初回限定盤(CD+小説)

2014年5月14日(水)発売
価格:1,512円(税込)

2014年5月14日(水)発売
価格:1,512円(税込)
VIZL-661

1. エンリルと13月の少年
2. ドレミとソラミミ
3. 42219
4. フラワードロップ
※春川美咲の書き下ろし短編小説『flowerDrop』封入

感傷ベクトル<br>
『エンリルと13月の少年』通常盤(CD)
感傷ベクトル
『エンリルと13月の少年』通常盤(CD)

2014年5月14日(水)発売
価格:1,296円(税込)
VICL-36904

1. エンリルと13月の少年
2. ドレミとソラミミ
3. 42219
4. フラワードロップ

プロフィール

感傷ベクトル(かんしょうべくとる)

ボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲、作画を担当する田口囁一(タグチショウイチ)と、ベースと脚本を担当する春川三咲(ハルカワミサキ)によるユニット。音楽と漫画の2面性で世界観を作り上げることから、ハイブリッドロックサークルを掲げ、インターネットをベースに展開。自在にセルフメディアミックスで表現する様は、まさにデジタルネイティブ世代の申し子と言える。その一方で、「僕は友達が少ない+」を「ジャンプSQ.19」で連載するなど、プロの漫画家でもあり、2014年5月9日発売号より田口囁一は、別冊少年マガジンにて新連載漫画「フジキュー!!!」を開始させる。

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