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旅人・たかのてるこが語る、窮地で発揮される人間の本質とは?

旅人・たかのてるこが語る、窮地で発揮される人間の本質とは?

インタビュー・テキスト
阿部美香
撮影:豊島望

「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」と問われ、「そこにエベレストがあるから(Because it's there.)」と答えたのは、1920年代に活躍し、エベレストに散った登山家ジョージ・マロリーだが、その言葉を心から実感できる映画がある。『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』だ。ヒマラヤ高峰の中でも、最も難関といわれるアンナプルナ南壁の登頂に挑み、志半ばにして高山病に罹って生死を彷徨ったスペイン人登山家・イナキの救助のため、世界中から決死の覚悟で集まった登山家たちの姿を貴重な証言と共に綴るドキュメンタリーである。

全編にあふれ出るのは、登山家たちの証言に幾度となく登場する、山を登ることで感じられる生命の息吹。そんな『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』に共感したのが、世界中を感性の赴くままに一人旅で巡る旅人・エッセイストのたかのてるこだ。「初めての国を旅するときは、毎回、死を意識するぐらいめちゃめちゃ緊張するんですが、だからこそ、生きている実感を得られる」と語るたかのに、自身の旅の経験を踏まえながら『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』に寄せる想いを聞いた。

5人に2人は命を落とすキラー・マウンテン(死の山)、人はなぜ山に登るのか?

まずは『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』がどんな映画なのかをご紹介しよう。登山家にとっては憧れの地でもあるヒマラヤ高峰。その中でも、最も危険で困難な氷壁と呼ばれているのが、別名「キラー・マウンテン(死の山)」の異名を持つ、アンナプルナ南壁だ。登山者の5人に2人が命を落とすというこの難関に挑んだスペイン人のベテラン登山家、イナキ・オチョア・デ・オルツァ。彼は2008年5月、ルーマニア人の歯科医であり登山家であるホリア・コリバサヌと、工業エンジニアでありロシアの高度登山の第一人者、アレクセイ・ポロトフと共に8001mの登頂を目指していた。しかしイナキは、頂上を目前にした標高7400mのキャンプ地で高山病に襲われ、生死の狭間を彷徨う。イナキの異変を感じてSOSを発する同行者のホリア。その報を受けたのは、世界10か国の12人の登山家たち。悪天候にも襲われ、自らの死をも覚悟しなければならない危険な場所へ、山が育んだ友情の名の下に命がけの救出活動が始まる……。

『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』 ©2012 Arena Comunicacion SL
『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』 ©2012 Arena Comunicacion SL

本作では、イナキの救出活動の全貌が、12人の登山家たちの日常を追いながら、彼らの言葉で証言されていく。なんともシリアスなこの『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』の感想をたかのに問うと、まず「何もかもに驚いた」と言葉を発した。

たかの:映画に登場するみなさんが、専業の登山家ではなく、他に仕事を持ちながら山を登っている人たちであることに、まず驚きました。自分が今まで知らない世界を知ることができるのがドキュメンタリーの醍醐味ですよね。日常生活の中で、私たちが登山について知る機会の多くは、登頂成功か遭難という悲しいニュースですが、山を目指す人々の気持ちまでは伝わってきません。山に登らない人間からしたら、「なぜそんな危険なところに行くの?」「なにが楽しいの?」と思ってしまいますが、この映画を観て、命の危険を冒してまで、最高峰を目指すモチベーションがどこにあるのか、その謎に少し触れられた気がします。

たかのてるこ
たかのてるこ


一人旅で、生きている実感を味わう

山岳ロケを敢行し、当時を振り返りながらイナキと仲間たちの命がけの奮闘を追ったこの映画は、単なる登山映画に留まらず、人が生きる意味と深遠な精神性について語りかける叙事詩でもある。劇中の登山家の証言には、重く響く言葉がいくつも登場するが、特に印象的なのは「登山などバカげていると人は言う。山で誰かが命を落とすとその声は大きくなる。だが山に登るのは死ぬためじゃない。今こうして生きていくことを噛みしめるためだ」という言葉。たかのは「私は旅、彼らは登山ですが……」と前置きしながらも、自身の旅の中で同じことを感じるのだと言う。

たかの:映画の中で登山家のみなさんがおっしゃっている通り、私が旅を続ける中で感じるのも、「全てのものへの感謝」と「生きている実感」です。日常では、家を出て、仕事から帰ってくるのは当たり前のこと。でも、言葉も通じないような土地を旅すると、屋台で食べたいものを注文できただけで感動するし、電車やバスを乗りこなせるようになっただけでも達成感があるんですよね。一人旅をしていると、そんな小さな、ふだんは何気なくやっている一つひとつのことにも達成感があるんです。でも、だからこそ、旅を終えて、無事家に帰り着いたときに「東京で暮らしているときの日常は幸せ。旅に出ていられることも幸せ」と思えるんです。こうやって、毎日生きていることは当たり前のことじゃないと思えるからこそ、「生きている実感」が湧くんですよね。

『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』 ©2012 Arena Comunicacion SL
『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』 ©2012 Arena Comunicacion SL

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作品情報

『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』

2014年9月27日(土)からヒューマントラスト有楽町ほかでロードショー
監督・脚本:パブロ・イラブ、ミゲルチョ・モリナ
出演:
イナキ・オチョア・デ・オルツァ
ウーリー・ステック
ホリア・コリバサヌ
デニス・ウルブコ
アレクセイ・ボロトフ
セルゲイ・ボゴモロフ
ドン・ボウイ
ニマ・ヌル・シェルパ
ミングマ・ドルジ・シェルパ
ナンシー・モリン
ロベルト・シムチャク
ミフネア・ラドゥレスク
アレックス・ガヴァン
配給:ドマ

書籍情報

『ど・スピリチュアル日本旅』
『ど・スピリチュアル日本旅』

2014年8月7日(木)発売
著者:たかのてるこ
価格:1,512円(税込)
発行:幻冬舎

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著者:たかのてるこ
価格:1,512円(税込)
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『ジプシーにようこそ! 旅バカOL、会社卒業を決めた旅』
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2013年7月5日(金)発売
著者:たかのてるこ
価格:741円(税込)
発行:幻冬舎

『モロッコで断食』
『モロッコで断食』

2004年2月発売
著者:たかのてるこ
価格:576円(税込)
発行:幻冬舎

プロフィール

たかのてるこ

映画会社・東映で18年間、テレビプロデューサーを務めた後、2011年に独立。世界の人々の魅力を伝える、ラブ&ピースな“地球の広報”として、紀行エッセイの出版、テレビ、ラジオ、講演、大学講師など、幅広く活動中。代表作『ガンジス河でバタフライ』は、主演・長澤まさみ、脚本・宮藤官九郎で、スペシャルドラマ化もされ話題に。著書は他に、イスラムの摩訶不思議なイベント、ラマダーンの体当たり体験記『モロッコで断食』、憧れのダライ・ラマに出会うまでの道中、神秘的なチベット体験を綴った『ダライ・ラマに恋して』(全て幻冬舎文庫)等、多数。最新作は、初の日本旅エッセイ『ど・スピリチュアル日本旅』(幻冬舎)。

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