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初のアニメ監督に挑んだ岩井俊二が語る、トライ&エラーの楽しさ

初のアニメ監督に挑んだ岩井俊二が語る、トライ&エラーの楽しさ

インタビュー・テキスト
小林英治
撮影:永峰拓也
2014/09/18

大人になり始めようとしている子どもたちにとって、大人社会ってなんのことだかわからないし、大人って「ただの大人」にしか見えないと思うんです。

―『TOWN WORKERS』では、「毎日のアルバイトが楽しみになる」というテーマで3つのストーリーを描かれたそうですが、アルバイトの「楽しさ」というものをどうイメージしたのでしょうか。

岩井:アルバイトにもいろんな側面があると思うんですけど、アルバイトが社会との初めての接点になる人も多いと思うんですね。僕も経験ありますが、初めての世界に飛び込んだ不安と緊張の中で、自分の居場所も見出せぬまま、たった1日がものすごく長く感じることがある。でも慣れてくるとそれが普通になって、振り返るといい思い出になっていたりする。そういう感じを出したいと思って、1話から2話、3話にかけて、だんだんバイトに慣れていく、緊張から喜びへ変わっていく成長物語のような表現ができたらと思いました。あとシチュエーションとしては、普段見慣れないバックヤードを見せていきたいと。

『TOWN WORKERS』第2話『君の夢を読む』
『TOWN WORKERS』第2話『君の夢を読む』

―たしかに全てのストーリーでバックヤードがしっかりと描かれていますね。2話のコンビニのバイトシーンは特にそうだと思いました。

岩井:お客さん側から見ることのできない部分って当然あって、それが初めてバイトするときの驚きだったりしますよね。大体こんな仕事だろ、ってナメてかかってると、逆の立場になると実はすごく大変だって気付いたり。1話のガソリンスタンドでは、撮影させてくれた本物の店長さんにいろいろ取材したんですけど、あまりにも根掘り葉掘り仕事のことを聞くので、不思議そうにされていましたね(笑)。

―バイト先でのいろんな人との出会いだったり、関係性を築くことが楽しさにつながっていくという描き方がいいなと思いました。

岩井:誰でも初めてプールに飛び込む前は戸惑うけど、飛び込んでみると、なんであのとき戸惑ったんだろう? って思ったりするじゃないですか。バイトを経験する手前にいる人から、経験してその世界を知っている人までが共感できる部分ってなんだろう? と考えたときに、「初めて経験することで、知らなかった道が開けていくこと」のような気がしたので、その瞬間と時間を描いたつもりです。全体を通してその微妙な部分が描けたら「毎日のアルバイトが楽しみになる」というテーマにつながるんじゃないかと。

『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』
『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』

―3話はバイト仲間と付き合うかもしれないっていう、人生の変化も垣間見れますね。

岩井:3話は(20代前半の頃に)スタジアムみたいな広いところで走り回っている元気さっていうか。そこからだんだん、自分の人生どうしていくんだろう? って考える段階にも入っていったりするだろうし。傍目で見ていると「あいつバイト始めたんだ」とか「3か月経ってもまだやってるんだ」くらいにしか思わないんだけど、本人からするとたぶん大冒険がそれぞれにあって、どんどん変化しているんだと思うんですよね。

―各話のエンドロールの音楽を、岩井さんも参加されているヘクとパスカルが担当していて、歌詞を岩井さんご自身で書かれていますね。アルバイトそのものというより、子どもでもない、でも大人にもなってない微妙な時期の気持ちが歌われています。

岩井:うん。大人になり始めようとしている子どもたちにとって、大人社会ってなんのことだかわからないし、大人って「ただの大人」にしか見えないと思うんです。でも、実際自分が大人になってみると「ただの大人」って1人もいないわけで(笑)。がむしゃらに生きて働いて、恋人ができて結婚して子どもができて、気が付いたら一生懸命に大人をやっているんだと思うんですね。それを子どもが見たら、退屈でつまらなそうだな、としか見えないわけですけど。でも、子ども時代に戻りたいって言う大人があまりいないように、忙しいけど楽しいから大人でいいやとたぶんみんな思ってる。それが大人の目覚めで、そうなったときに子どもたちから見ると「ただの大人」になっているんじゃないかな。そのことを歌詞に書いてみたんです。

『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』
『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』

―岩井さんご自身は、その変わり目を自覚されたタイミングってありましたか?

岩井:やっぱり大学から社会人になるときに、できるだけただの大人になりたくないって思った気がしますね。初期の井上陽水に“人生が二度あれば”(1972年)っていう歌があって、母親は今年いくつになって、自由にならない人生を生きていて、今日も漬物石を持ち上げている姿を見たみたいな。で、突然サビに入って「人生が二度あればー!」って絶叫するんですよね(笑)。

―(笑)。つまり、親の生き方を全否定するわけですね。

岩井:こんなつまらない人生になっちゃってコイツらはみたいな、ひどい内容の歌なんですけど(笑)。でも、自分も聴いたときに「だよな」って思ったし。ファミレスで親子がご飯食べていたりすると、なんとも言えない気持ちになって、絶対にああなりたくないって思っていた時期って誰にでもあるんじゃないですか? そういう環境で育ててもらって、絶対そこに行きたくないと思ってた若者が結局同じところに戻っていく。人生の不思議。「漬物ほんと旨いんだよ」っていう喜びもあるわけじゃないですか。特に井上陽水さんの時代は学生運動真っ盛りで、日米安保反対とか言ってるときに、何漬物石持ち上げてんだよ? っていう気持ちだったと思うんですけど(笑)。なかなか説得力のある歌ですよね、今聴くと。

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岩井俊二監督作品『TOWN WORKERS』

第一話「初めての潮の香り」
第二話「君の夢を読む」
第三話「この長い道程のため」

リリース情報

ヘクとパスカル<br>
『ぼくら』
ヘクとパスカル
『ぼくら』

2014年9月24日(水)から配信限定発売
REM / SPACE SHOWER MUSIC

1. ぼくら

プロフィール

岩井俊二(いわい しゅんじ)

1963 年、宮城県仙台市生まれ。1988年よりドラマやミュージックビデオ、CF等、多方面の映像世界で活動を続け、その独特な映像は「岩井美学」と称され注目を浴びる。1993年、フジテレビのオムニバスドラマ『if もしも』の一作品として放送された『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』はテレビドラマとしては異例の『日本映画監督協会新人賞』を受賞。1995年『Love Letter』で映画監督としてのキャリアをスタート後、数々の作品を発表。代表作に1996年『スワロウテイル』、2001年『リリイ・シュシュのすべて』、2004年『花とアリス』、2010年『New York, I Love You』、2012年『ヴァンパイア』など多数。同年、NHK『明日へ』復興支援ソング『花は咲く』の作詞を手がけ『岩谷時子賞特別賞』を受賞。2013年、音楽ユニット「ヘクとパスカル」(メンバー:岩井俊二 / 桑原まこ / 椎名琴音)を結成。2014年1月クールのテレビ東京ドラマ24『なぞの転校生』で脚本、プロデュースとして初の連ドラに挑戦し、「ヘクとパスカル」のデビュー曲”風が吹いてる”が起用され話題となる。

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