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初のアニメ監督に挑んだ岩井俊二が語る、トライ&エラーの楽しさ

初のアニメ監督に挑んだ岩井俊二が語る、トライ&エラーの楽しさ

インタビュー・テキスト
小林英治
撮影:永峰拓也
2014/09/18

ある程度上手くなると「こうすれば大体こうなるよね」ってわかって、だんだん退屈になってしまう。でも、クリエイターは、そこで退屈を感じるくらいじゃないといけない。

―作品に登場する、ガソリンスタンドとコンビニと野球場のビール売りという3つのバイトの中で、ご自身で実際に経験されたものはありますか?

岩井:いえ、ないんです。僕は街の小さな本屋で店番のバイトをしていました。あとプールの監視員もやったことがあります。すぐに辞めたのは結婚式撮影のバイト。現場がすごく怖くて、1日で(笑)。

『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』
『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』

―意外ですね。映像の現場でアルバイトされたことはなかったんですか?

岩井:だから大学を出て、プロの映像の現場に向かい合ったときに困りましたよね。学生時代に映画を作っていたので、最初に「ディレクター」って名刺を作って、助手経験とかまったくないままに活動を始めたんですけど、やっぱりナメていたというか(苦笑)。何も知らないのにディレクターを名乗っているんで、現場に出てくる機材は見たことないものばかり。でもそのときにすごく勉強しましたね。ミュージックビデオとかで少し大きな撮影現場があると、その後に安い機材を借りてきて触ってみたり。

―まず名乗ってから、必死で覚えたタイプ。

岩井:そうですね。照明の人から「これでいい?」って聞かれても、いいとしか言いようがない(苦笑)。でも、自分なりに映画をたくさん観ていて、照明感とかもあったので、「こうじゃないよな……」って思ってるんだけど、何がどうしてこうじゃないことになっているのか説明もつかないし、わかんないわけです。それが一番困りましたね。だから自分で機材借りて照明を当ててみて、「ほら、やっぱりこうなるじゃん」みたいなやり方で学習していって。それで結局撮影から照明までやれるようになったんです。

『TOWN WORKERS』第1話『初めての潮の香り』
『TOWN WORKERS』第1話『初めての潮の香り』

―今回のアニメーション作品もそうですが、岩井さんは誰かに教わるよりも、自分で試行錯誤しながら身につけていくほうが好きなんですか?

岩井:そもそも映画がそうでしたからね。誰から習ったわけでもないし、今は音楽もやっていますけど、それも独学です。でも、最初に習ってしまうところが実は一番オイシイところだったりするので、そこを人から習ってしまいたくないっていうか。むしろある程度上手くなると、それができて当たり前になってきて、「こうすれば大体こうなるよね」っていうことがわかって、だんだん退屈になってしまう。でも、クリエイターはそこで退屈を感じるくらいじゃないといけないと思うんですけどね。

まだまだ自分が気付けていない「描いていて楽しいところ」がたくさんあるはず。絵の世界は気付きの量のストックで決まるところがあると思います。

―逆に言うと、岩井さんがこれまでいろんなジャンルにチャレンジしてきたのは、退屈を感じないための工夫だったんでしょうか。

岩井:こういうクリエイションの世界は、ある種のオタクというか、マニアックな世界だと思うんですよね。誰に求められるでもなく作品を作り続けたりもするわけで。僕も学生時代にマンガを描いていたんですけど、間違いなく今のほうが格段に上手いですからね(笑)。それは常日頃のトレーニングの賜物で、今回のアニメ作品を作る、作らないにかかわらず、絵もずっと描いていけばいろんな発見があるんです。結果的に映画のストーリーボードを描く上で役に立ったりしてますし。

―クリエイターとしての「業」のようなものですね。

岩井:そうですね。『六月の勝利の歌を忘れない』のロトスコープをやったときに、髪の毛を描くのがすごく上手な人がいて、理由を聞いたら「髪の毛を描くのが好きなんですよ」って言うんです。人体を描いたりするときに、「描いていて楽しいところ」ってあるわけですけど、ということは「描いていて楽しいと感じたことのないところ」もあるわけで、その人は髪の毛を描く楽しさに気付いたっていうことですよね。そう考えると、まだまだ自分が気付いてない「楽しさ」がたくさんある。特に絵の世界は気付きの量のストックで決まるところがあると思います。

―カメラが「写してしまう」のに対して、絵を描くのは自分自身ですから、追究を始めると際限がないですよね。

岩井:僕もある1年はずっと「耳」を描く練習をしたりとか、ここ2、3年はずっと「眼」を描いていたりとか。あるときはずっと服のシワのトレーニングをしていたことがあって、歩きながらでも道を行く人の服のシワを見て、自分の指で空をなぞって描いたりしてました。常に気にかけて描いてないと、どっち側に線が入るのか、いざ描くときにわからないんですよね。それが頭にインプットされていくと、この姿勢ではこっちに入るけど、手を上げると逆になるとかがわかってくる。ズボンの裾のシワの入れ方も、こうすればグラフィック的にもきれいな形になるとか、だんだんマニアックになっていく(笑)。

岩井俊二

―たしかにオタクの世界です(笑)。

岩井:『さよなら絶望先生』を描いている、マンガ家の久米田康治さんっていう方がいるんですけど、あの方は学生服の裾をものすごくきれいに描くんですよね。漠然と描いているんじゃなくて、「ズボンって時々こういう形に折れ曲がるよね」っていうのを見つけて、気付いて、それをより洗練したグラフィックに描いている。それは知らない人からするとなんでもないんですけど、知ってる側からすると「うわー、あれに気付いたんだ!」っていう感じですよね。逆に気付いていない絵を見ると、わかっちゃうんですよね。「まだそこ気づいてないんだ」って。だから僕なんか全然見えてないところ、まだまだ無限にあるんだろうなと。

―今後、ロトスコープで長編アニメ—ション作品を作っていきたいという気持ちはありますか?

岩井:それはありますよね。実写とはまた違うところもありますけど、映画であってもアニメであっても音楽であっても、自分の伝えたいイメージは同じ。結局は伝えるメディアの違いだけなのかなと思います。今回もいわゆるアニメと言われるものを作っている気はしてなくて、「絵を動かしている」という意味でのアニメーションが自分でもやれたという感じなんです。アニメのジャンルっていろんな手法があるわけで、人形を作ってコマ撮りしてもアニメだし、本来誰でも自由にやればいいはず。実際に自分でやってみると、もちろん大変なこともありますけど、新しいことを発見したり、作品として出来上がっていく喜びは何物にも代えがたいものです。

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岩井俊二監督作品『TOWN WORKERS』

第一話「初めての潮の香り」
第二話「君の夢を読む」
第三話「この長い道程のため」

リリース情報

ヘクとパスカル<br>
『ぼくら』
ヘクとパスカル
『ぼくら』

2014年9月24日(水)から配信限定発売
REM / SPACE SHOWER MUSIC

1. ぼくら

プロフィール

岩井俊二(いわい しゅんじ)

1963 年、宮城県仙台市生まれ。1988年よりドラマやミュージックビデオ、CF等、多方面の映像世界で活動を続け、その独特な映像は「岩井美学」と称され注目を浴びる。1993年、フジテレビのオムニバスドラマ『if もしも』の一作品として放送された『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』はテレビドラマとしては異例の『日本映画監督協会新人賞』を受賞。1995年『Love Letter』で映画監督としてのキャリアをスタート後、数々の作品を発表。代表作に1996年『スワロウテイル』、2001年『リリイ・シュシュのすべて』、2004年『花とアリス』、2010年『New York, I Love You』、2012年『ヴァンパイア』など多数。同年、NHK『明日へ』復興支援ソング『花は咲く』の作詞を手がけ『岩谷時子賞特別賞』を受賞。2013年、音楽ユニット「ヘクとパスカル」(メンバー:岩井俊二 / 桑原まこ / 椎名琴音)を結成。2014年1月クールのテレビ東京ドラマ24『なぞの転校生』で脚本、プロデュースとして初の連ドラに挑戦し、「ヘクとパスカル」のデビュー曲”風が吹いてる”が起用され話題となる。

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