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大阪のシンセサイザー界から見える、人間ドラマとカルチャー論

大阪のシンセサイザー界から見える、人間ドラマとカルチャー論

インタビュー・テキスト
阿部美香
撮影:豊島望
2014/10/03

シンセに限らず、ハードはものとして残るので、後世になっても歴史を辿りやすい。でも、ソフトはデジタルデータでしかないので、いつか消えてしまうんです。

―大須賀さんは、シンセサイザーやDTM書籍の執筆をされるなど以前からシンセサイザーのプロとしてご活躍していらっしゃいますし、この映画も大須賀さんのシンセ愛がなければ成り立たなかったと思います。そのシンセ愛は、どのように育まれたのでしょう。

大須賀:僕は1975年生まれなので、ファミコン世代ど真ん中なんですよね。小学生時代に「ファミリーベーシック」というファミコンにキーボードを繋ぎ、BASIC(手続き型プログラミング言語)でチープなゲームが作れる周辺機器を手に入れたんです。それを動かすためにパソコン雑誌を読んでいたら、ゲーム音楽を鳴らせるプログラムが載っていて、それを打ち込んで遊び始めているうちに、コンピュータで音楽を作ることにはまっていきました。思春期はロックバンドをやってたんですが、そこに90年代テクノのブームが来て、電気グルーヴの『VITAMIN』(1993年発売、4枚目のアルバム)を聴いて、そのサウンドにショックを受け、電子音、シンセサイザーの面白さを再確認したところから愛が大きくなっていったと思います。

大須賀淳

―ハードシンセ(楽器としてのシンセサイザー)もコレクションされていたんですか?

大須賀:最初はそうですね。でも、ソフトウェアシンセ(コンピューター上でシンセサイザー機能を操作できるソフト)も早い時期から扱っていました。それこそ、電気グルーヴもよく使っていたシンセ(ローランドのTB-303)と同じ音を鳴らせるソフトウェアを使って、音を出してましたね。『ナニワのシンセ界』は、ハードシンセばかりを扱っていますが、僕自身はけっこうソフトシンセ寄りの時期が長いんですよね。

―『ナニワのシンセ界』制作のきっかけとなったREONの荒川さんは、劇中でYMO愛を熱く語っていらしたので、大須賀さんのルーツもYMOや冨田勲などモジュラーシンセ、アナログシンセ全盛期にあるのかと思っていました。

大須賀:いえ、僕は逆に、電気グルーヴから辿ってYMOや冨田勲さんを聴き、DTMでアナログシンセサウンドを再現するようになったクチです(笑)。モジュールシンセの音を重厚に重ねる冨田勲さんの音楽を再現するなら、高いハードシンセを何台も買うより、ソフトシンセで作り上げるほうがいまは実際的です。作り手本位のツールとしては、ソフトシンセのほうが優れていると思います。

―ハードシンセ好きは、ソフトシンセやDTMを軽視、敵視する傾向があるように感じますが、大須賀さんはそうではないんですね。

大須賀:僕はどっちも必要だと思います。ハード信仰が高じると、「このサウンドが素晴らしい!」だけで終わってしまい、「そのサウンドを使って何をするか?」という音楽を作る意識が薄まってしまう傾向があると思うんです。その点、ソフトシンセは自分の発想を優先し、音楽をすぐに試行錯誤できますよね。ただ、ソフトシンセは便利なツールである分、音楽の作り手の発想力が試されます。「何でもできるが、いざやってみると新しいことはできていない」「薄っぺらい音楽しか作れない」と気づかされてしまう。そこに、豊かな彩りや新しい発見を与えるのが、ハードシンセ、アナログシンセの音なんですよ。

大須賀淳

―なるほど、便利なデジタルツールほど、使う人の発想力が試されると。それは、シンセに限った話ではないかもしれませんね。

大須賀:結局、シンセサイザーをいじることは、音楽の目的ではないんですよ。大事なのは、シンセを使う人の意図であり個性だと思います。

―ハードとソフトの両方を、操作する人の個性次第で上手く融合すると、より面白い音楽が生まれるということですね。

大須賀:そうですね。だから逆に、ソフトシンセの軽視のされ方が、僕はいま心配なくらいです。シンセに限らず、ハードはものとして残るので、後世になっても歴史を辿りやすい。でも、ソフトはデジタルデータでしかないので、いつか消えてしまうんです。実際、歴代のmoogやProphetのように個性あるサウンドを持っているのに、忘れ去られたソフトシンセは多い。『ナニワのシンセ界』を作ったいまはますます、「ソフトシンセの歴史こそ、誰かがまとめておかなくてはならない!」と思いますね。

―その考え方は、目からウロコです! たしかに、ソフトは、パソコンやOSが変わってしまうと起動できなくなってしまうし、歴史として残していくことが難しいんですね。

「大阪のシンセ界を面白くしているのは、シンセというものではなく、人のほうなんだ」ということに気づいて、ヒューマンドキュメンタリー的な映画になっていったというのが真相です。

―タイトルから本作は、シンセサイザーという「もの」についての映画だと予想しがちですが、実際はシンセを使っている「人たち」、シンセを愛する「人たち」を描いたヒューマンドキュメントだと感じました。

大須賀:そうですね。そして、その人たちの集合体が作っている「ナニワのシンセ界」という状況のいまを切り取った映画になりました。それは、撮影を始めたときの状況があまりにいきなり、フライング的に始まってしまったことにも関係しますね(苦笑)。

―いきなりですか?

大須賀:今年の2月頭ですかね、僕は別件のビデオ撮影の仕事で大阪に滞在していたんですが、引っ越しのため閉店中だったユニークなシンセサイザーショップ「implant4」が、Twitterで急に「お待たせしました、明後日から営業します」と告知を始めたんです。本当は、もっとあとで映画に取りかかるつもりだったんですが、手元に撮影機材もあるこのタイミングを逃すのはもったいないと、すぐ店にアポを取って、新規オープン日の開店30分前に乗り込んで撮影をスタートしました。さらに「implant4」自体が大阪シンセ界のサロン的な役割を果たしているので、僕が映画に出てほしいと思い、これからアポを取ろうと思っていた人たちがみんな顔見知りで、どんどん紹介され繋がっていったんです。常連客でもあるUnyo303さんが主催する『Modular Festival』や、『シンセ温泉』というイベントの撮影もできるようになったり、そこにたまたま遊びに来ていた「シンセ女子」のRisaさんに声を掛けて取材をさせてもらえることになったり……と流れのままに撮っていったら、シンセを取り巻く大阪というものが、浮き彫りになっていったんです。

―人を追い掛けていったら、そこに「ナニワのシンセ界」が浮かび上がってきたと。

大須賀:最初は、映像的なインパクトとして、面白いハードシンセを撮ることで画作りしようとも考えていたんですが、待てよと。「ナニワのシンセ界を面白くしているのは、シンセというものではなく、人のほうなんだ」ということに気づいて。それで、ヒューマンドキュメンタリー的な映画になっていったというのが真相です。

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イベント情報

『「ナニワのシンセ界」の深世界』

2014年10月5日(日)OPEN 12:00 / START 13:00
会場:大阪府 Loft PlusOne West
出演:
大須賀淳
田中雄二
上映作品:『ナニワのシンセ界』(監督:大須賀淳)
料金:前売2,000円 当日2,500円(共にドリンク別)

作品情報

『ナニワのシンセ界』

監督:大須賀淳
出演:
荒川伸(株式会社REON)
Unyo303
久次米一弥(天地雅楽)
ピノ作(J.M.T Synth)
西田彩(ゾンビ)
Risa
ほか

2014年10月4日(土)~10月24日(金)連日20:00から上映
会場:東京都 下北沢トリウッド
料金:一般1,500円 大・専門1,300円 シニア1,100円 高校生1,000円
※平日火曜日は定休、10月11日(土)は休映

2014年11月29日(土)~12月5日(金)連日19:30より上映
会場:大阪府 十三 シアターセブン
料金:一般1,500円 / 専門・大学生1,200円 / シニア1,100円 / 中・高・シアターセブン会員1,000円 / 小学生以下700円
※ その他各種割引・サービスデーなどあり

会場:京都府 立誠シネマプロジェクト
※上映期間など詳細は後日発表

プロフィール

大須賀淳(おおすが じゅん)

映像・音楽クリエイター。株式会社スタジオねこやなぎ代表。1975年生まれ。福島県出身。映像・音楽コンテンツ制作と同時に、書籍や雑誌での執筆、学校・セミナー等での講師も数多く務める。2014年、アナログシンセサイザーの復興の兆しを見越して、モジュラーシンセサイザーの情報サイト「モジュラーシンセ日本」を開設、運営を手がける。日本初のシンセサイザー・ドキュメンタリー映画『ナニワのシンセ界~The New World of synthesizer in Osaka』を完成させる。

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