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思考のスイッチがONになる、イスの概念を覆した20脚の教え

思考のスイッチがONになる、イスの概念を覆した20脚の教え

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:永峰拓也

実際にアイデアをかたちにするには、技術や科学の力が必要ですよね。この世界にあるルールの中にアイデアを落とし込んでいかないといけない。(古屋)

―アーティストの皆さんとはどんな風に共同制作を進めたのですか?

古屋:まずは47品目の「科学リスト」を初めにお見せして、そこからアイデアを膨らませていきました。

―科学リストというのは?

古屋:稲田さんにお願いして、科学でできるアイデアをリストにしていただいたんです。

稲田:「バランス編」や「見た目の違い編」「感覚編」などカテゴリーを分けてアイデアを羅列しました。さらに3週間の展示期間の中で天候の変化に耐えることができて、子どもから大人まで楽しめて……と、ガリレオ工房の滝川(洋二)先生、Rumiさんらと一緒に考えた、いろんな条件をクリアしたアイデア集ですね。

古屋:アーティストさんに対してこちらが一方的に提案するのではなくて、一緒に考えていくスタイルがいいなと思っていました。料理にたとえると、まず材料を先にお見せして、この中から好きな料理を発想してください、という風に。

稲田:関口光太郎さんの『紙の動物イス』に用いた「紙を丸める」というアイデアも、ペラペラの紙でも丸めると強度があるという科学的な出発点から始まったんですよね。

紙の動物イス
紙の動物イス

古屋:鈴木啓太さんもいろいろなアイデアを出してくださいました。実現はしませんでしたけど、振り子の動きを用いたイスとか。科学に紐づけたいというのが最初にあって、作家さんの興味が合致したら制作を進めていくという流れでした。

―古屋さんは「科学が大好き」とおしゃっていましたが、それには何か理由があるんでしょうか? もともと演劇を勉強されていたそうですが、それと関係あるのでしょうか。

古屋:中学1年生の頃から演劇をやっていて、舞台空間に想像の世界を再現することにすごく興味があったんです。イギリスの大学に進学したんですけど、そこで教わった大好きな言葉に「What if」というものがありました。「もし○○が××だったらどうなるだろう?」という考え方なんですが、舞台空間って実際の家を建てられるわけでもないし、自由に場所を移動できるわけでもない。ものすごく制限のある場所ですよね。例えばそこに「空飛ぶ人」を表現しようと思ったら、物理や重力、まさしく科学的な要素と想像力の戦いが繰り広げられる。演劇ではソフトウェア的なものと揺るぎない事実をどう融合させるかってことをずっとやっていたんです。

古屋遙

―ソフトウェア的なもの=想像力、揺るぎないもの=物理現象、ということですよね。

古屋:はい。実際にアイデアをかたちにするには、技術や科学の力が必要ですよね。この世界にあるルールの中にアイデアを落とし込んでいかないといけない。ですから科学技術を勉強するのは自分にとって絶対に必要だし、そうやって新しい知覚に触れるのが大好きなんです。

よく自分のタイプを文系と理系に分けてしまう人がいますが、本来は科学やデザインや美術の間に明確な境界はないんです。(稲田)

―一方、科学サイドとして今回関わられている稲田さんのプロフィールもちょっと異色ですよね。小学校で図工の先生をされていて、アーティストとしても活動なさっている。

稲田:よく自分のタイプを文系と理系に分けてしまう人がいますが、レオナルド・ダ・ヴィンチら歴史上の先人たちの仕事を見返すと、医術もやって、絵も描いて、ダ・ヴィンチはヘリコプターの設計図まで引いている。だから本来は科学やデザインや美術の間に明確な境界はないんです。教育制度の便宜上、図工の先生、理科の先生っていう風に境界を引いてしまっているのは私たちのほうで、世界にはなんの境界もない。僕は中学生のときは科学部に所属しつつ、美術もやりたいな、なんて思っていたんですよ。ガリレオ工房に参加することになったのも、科学工作についての本を作ろうよと声をかけられて、やってみたら面白くなって入り込んじゃったんですよね(笑)。だから『スワリの森』のお話をいただいたときも、なんの隔たりも感じず、境界もなくふわーっと入り込めました。

稲田大祐

古屋:今回は、せっかく「座る」という日常的なアクションをモチーフにしているんだから、日常の延長線上に『スワリの森』の世界が広がっていくような体験にしたかったんです。会場の芝生広場から出ても、座るという行為はいろんな場面で繰り返されますよね。その瞬間にスイッチが切り替わって、いつもとは違った世界が見えるきっかけになればいいなと思っています。それから、展示の横に情報を置くのをやめることにしました。

―情報?

古屋:ギャラリーの展示には、パネルに作品解説が書かれていますよね。体験する前にそれを読んでしまうと、頭で理解してしまう。でも、科学ってアンサーよりクエスチョンだと思うんです。自分で答えを見つけていくのが科学だよねって。

稲田:そうそう。まずは疑問を感じてほしい。鈴木康広さんの『日本列島のベンチ』も「なぜだろう?」と思ってもらえるような仕掛けがありますよ。全体が傾斜していて、イスとしてはとても座りにくいんです。

日本列島のベンチ
日本列島のベンチ

古屋:地球の球面のかたちに合わせているんです。

稲田:六本木の位置が中央に来るように設定していて、北海道はけっこう傾いたところにある。逆に沖縄なんて地面スレスレにめり込むくらいの位置にあって。みんな普通に地面に立っていると思って生活しているけど、実は地球が丸くて、みんな違う傾き方で立っているということに改めて気がつくんじゃないでしょうか。

―お話を聞いていると、座るという行為を超えて「世界はこういう風にも見えるんですよ」という提案をしているように感じます。

稲田:そうですね。何かに気づいたり、深く考えてみたりするのに、秋ってぴったりの季節じゃないですか。僕らは科学のことに気づいてほしいし、古屋さんたちデザイン側は作家の想いを投げかけている。それを来場者に受け取ってもらって、いわばキャッチボールができたらいいですね。

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イベント情報

『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014』

2014年10月17日(金)~11月3日(月・祝)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン各所

プロフィール

稲田大祐(いなだ だいすけ)

NPO法人ガリレオ工房会員。相模女子大学 学芸学部 子ども教育学科 准教授。 科学工作のエキスパートとして、子ども向けの科学教室の講師や本の執筆を行う。稻田醍伊祐の名で、石版画、インスタレーションアートなど造形作家としても活躍。来年3月22日から神田 木ノ葉画廊で「トレタテハンガ」と題し、簡易木平版画作品による個展開催予定。

古屋遙(ふるや はるか)

1986年東京生まれ。ドイツ、イギリスで演劇(空間、映像、音楽、ダンス)の総合演出を経て、広告業界へ。制作会社で、映像等の演出を始め、空間・映像・テクノロジーを組み合わせた企画演出を行い、ファッションショーの演出や、新しい店頭ディスプレイのあり方など、「体験」や「文化創造」に重きを置いた仕掛け・仕組みを作る。2014年7月に独立。フリーランスの演出家としてさまざまな創作活動に携わる。

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