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東京に対する、緩やかでシリアスな危機感 羊屋白玉インタビュー

東京に対する、緩やかでシリアスな危機感 羊屋白玉インタビュー

インタビュー・テキスト
前田愛実
撮影:佐々木鋼平
2014/11/04

効率良く情報を手に入れることは難しいけれど、人と話すこと、人との繋がりがこのプロジェクト全体のやり方であり、私自身の原点でもあります。

―『東京境界線紀行』のように、参加者たちと向き合って対話するところから作品制作が始まるという手法は、今回のプロジェクトの1つ「対談紀行」にも通じているのでしょうか。

羊屋:「東京アートポイント計画」の他の企画内容を見ていると、頻繁に対談やトークイベントをしていて、「私もぜひやってみたい!」と思ったので、まずは対談したい人をリストアップしたんです。「対談紀行」は自分が興味のある人、気になっている人と話していくプロジェクトにしちゃおうと。でも、それ以外のプロジェクトもすべて人ありきです。「青ヶ島ブランケット」の青ヶ島は文献も少ないし、インターネットで検索しても、そんなに情報が出てきませんから、まずは新宿で青ヶ島出身の人がやっているというお店を見つけて、そこから情報を得ました。「江古田スープ」も、近所の八百屋のおじさんと話すようになって、江古田に興味が湧いてきたり。効率良く情報を手に入れることは難しいけれど、人と話すこと、人との繋がりがこのプロジェクト全体のやり方であり、私自身の原点でもあります。

青ヶ島のカルデラ
青ヶ島のカルデラ

―ちなみに「東京一箱」の家を買うドキュメント……って何ですか?

羊屋:それも出会いなんです(笑)。第2の人生のために、東京に家を買おうとしている人がいて、そこに私も加わって応援しながら、ドキュメントする企画です。このプロジェクトの話をいただいたときに、いろんな人に相談したんですけど、その中に「私、家を買おうと思っていて……」って、自分の話を始めちゃった人がいて(笑)。大学生になる娘さんと二人暮らしの舞台美術家さんなんですけど、住まいだけじゃなく、稽古場もほしいし、アトリエもほしい。アート系のオフィスなんかも入れる場所にして、人が集まるハブ的な場にして管理人になりたいって言うんです。東京で家を買って……というかビルになっちゃうと思うんですけど、そういう場所を作るってことをドキュメントしたい。そして私たちもそのハブの一員になっていきたいと思っています。

―4つの小さなプロジェクトは、どういう関係性で、どれから思いついたんですか?

羊屋:順番は特になくて、一気に思いつきました。「江古田スープ」は、プロジェクト全体に取り組むにあたって、活動の拠点を決めたら? と言われて。今、自分が住んでいる街なので躊躇もあったんですけど、今後再開発されて、街の風景が変わるかもしれないと商店街の八百屋さんから聞いて、これはやったほうがいいと思いました。4つもプロジェクトがあって多すぎるって言われるんですけど(笑)、1つの問題が別のプロジェクトと繋がったり、助けられたりすることもあるだろうし、相乗効果で面白くなっていくんじゃないかと思っています。今はとりあえず3年間と言われてますけど、それぞれの今後がどう変化していくのか、すごく楽しみです。

青ヶ島の神子の浦にて
青ヶ島の神子の浦にて

―全体のプロジェクト名にもある「スープ」と「ブランケット」は、何か重要な意味を含んでいるのでしょうか?

羊屋:個人的なことですが、22年間飼っていた猫が数年前に亡くなったんです。猫が倒れてからの5日間、友だちがひっきりなしに来てくれました。その猫を可愛がってくれた友だちはすごく多く、22歳ですから人間なら100歳を超えていて、尊敬する人さえいた。そうやってみんなが集まってくれたとき、これから死んでいく猫に対して、私たちはどうしたらいいのか? 自分が死んだときはどうしてほしいのか? を話し合いました。そんな機会をくれた猫にとても感謝しているんですけど、そのとき猫を病院に連れていくのに、毛布にくるんで行ったし、友だちはスープを持って駆け付けてくれた。毛布とスープを持って、いろんなところにズカズカ入り込んでいく感じは、このプロジェクトを通して江古田に入っていく、青ヶ島に行く、家を見つけるために不動産屋に行く、ということと繋がっているんです。

―毛布やスープが、衣食住や緊急事態に携えるものを象徴しているみたいにも見えます。あと、「青ヶ島ブランケット」は、伊豆諸島・青ヶ島でのプロジェクトですが、どうやって生まれたんですか?

羊屋:まずここも1つの東京だと思ったのと、青ヶ島には人の出入りが少ないからこそ守られてきた神事があるんですよ。歌いながら巫女さんが神懸かっていく神事なんですけど、何年か前に草月ホールでそれが上演されたと友だちから聞いて、それ以来ずっと気になっていました。ビデオで見たことはあるんですけど、それもあって一度青ヶ島には行ってみたいと思っていたんです。

―その神事は結局見られたんですか?

羊屋:こないだリサーチで行ったときには見られませんでした。本当は青ヶ島の人に会ったとき、すぐに聞いてみたかったんですけど、何となく渋るような気配を感じて、まだ早いかなと思いました。島の人は話したがらないかも、と事前に聞いていて、タイミングも難しかった。ズカズカと踏み込んでは行くんだけど、ストレンジャーとしての礼儀はわきまえているつもりなんです。でも本当はたどり着きたいところです。

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インフォメーション

東京文化発信プロジェクトとは
東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が、芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施している事業です。多くの人々が文化に主体的に関わる環境を整えるとともに、フェスティバルをはじめ多彩なプログラムを通じて、新たな東京文化を創造し、世界に発信していきます。

プロフィール

羊屋白玉(ひつじや しろたま)

1967年北海道生まれ。「指輪ホテル」芸術監督。劇作家、演出家、俳優。主な作品は、2001年同時多発テロの最中、ニューヨークと東京をブロードバンドで繋ぎ同時上演した『Long Distance Love』。2006年『Candies』北米ヨーロッパツアー。2012年『洪水』ブラジル4都市ツアー。2013年『瀬戸内国際芸術祭』では海で、2014年『中房総国際芸術祭』では鐵道で上演した『あんなに愛しあったのに』。2006年『ニューズウイーク日本誌』において「世界が認めた日本人女性100人」の1人に選ばれ表紙を飾った。現在、カフカの『断食芸人』国内ツアー中。2015年夏、『越後妻有トリエンナーレ』に新作を発表。「アジア女性舞台芸術会議」設立準備中。

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