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東京に対する、緩やかでシリアスな危機感 羊屋白玉インタビュー

東京に対する、緩やかでシリアスな危機感 羊屋白玉インタビュー

インタビュー・テキスト
前田愛実
撮影:佐々木鋼平
2014/11/04

レヴィ=ストロースや宮本常一みたいな偉大な学者にはなれなかったけど、人類学的な課題に演劇を通して触れていきたいぞ、という野望があるんです。

―現地でリサーチして作品を作る。そういったフィールドワーク的な取り組みは、『瀬戸内国際芸術祭2013』の直島で上演した作品『あんなに愛しあったのに』でも挑戦されていましたよね。

羊屋:そうです。宮本常一さんという、生涯をかけて日本中をフィールドワークした民俗学者がいたんですけど、彼の故郷の周防大島(山口県)まで行って、宮本常一研究会のおじさんにいろんな文献を教えてもらって、そこから想像を膨らませて作った作品です。直島ではスタッフみんなで空き家に住んで、漁業協同組合、役場、海上保安庁とやり取りをしながら準備しました。直島の海に沈む夕陽を背景に上演したのですが、漁師さんから「島の自慢の夕陽を演劇の中に取り込んでくれて嬉しい」と言っていただいたのが、嬉しかったです。島の宝物を見つけることができたような気がして。

三宝港(青ヶ島)
三宝港(青ヶ島)

―そういった制作方法に興味を持たれたきっかけは何だったんですか。

羊屋:私、生まれ変わったら民族学者になりたいな、と思ってて。でもどうして現世であきらめたかというと、あのクロード・レヴィ=ストロース(フランスの社会人類学者、民族学者)でさえも後悔していると、本で読んだからです。当時の未開の地を彼が調査し、発表したことで、いろんな外部の人間が介入し、もとの文化が壊されてしまったわけです。そして、今回のプロジェクトもフィールドワーク型ですが、調査から発表における問題や影響を、現代にどう引き継いでいくのかという課題もあるし、とにかく調査のその先の先の先を考えていきたいんです。

―今年春に開催された『いちはらアート×ミックス』では、『あんなに愛しあったのに~中房総小湊鐵道篇』を上演されていました。こちらは現地を走るローカル鉄道の車内を舞台にした公演でした。拝見しましたが、実際に電車に揺られているうちに、以前読んだ小説で小湊鉄道が登場するのを急に思い出して、その小説の印象まで変わったんですよ。

羊屋:ありがとうございます。だから、レヴィ=ストロースや宮本常一みたいな偉大な学者にはなれなかったけど、人類学的な課題を、演劇を通して触れていきたいぞ、という野望があるんです。

あらためて私は東京のことを考えなきゃいけないんだなと思い始めました。今の東京は、遺跡化のスピードが速すぎて、どれもこれも死んでくような感じがしています。

―羊屋さんは『東京スープとブランケット紀行』というプロジェクトを通して、世の中のわからないことを一つひとつ解き明かしていきたいのかな、と思いました。その根本には、今の東京に対する疑いのようなものがあるのでしょうか。

羊屋:宮本常一さんが「僕は歴史の減速装置になりたい」って言っていたんですけど、私もそれを本当に身上としています。たとえば東京の演劇シーンでは、1年間公演をやらないと、すっかり忘れられてしまいますからね。海外に1年行って帰ってきただけで、「今何してるの?」って聞かれてしまう(笑)。小劇場ブームなんかでちょっと経済が廻ると、マーケティングに乗って作家はどんどん作品を書かされて、どんどん疲弊していく。そういう人たちをいっぱい見ました。この劇場でやったら次はもう少し大きな劇場、次はもっと大きな劇場。最終的に本多劇場やパルコ劇場で公演できたら、すごろくの「上がり」みたいなことになっている。そんなシステムに飲み込まれるのが嫌で、私はそういった劇場では一切やってないんですけど。

羊屋白玉

―ウェブサイトには、ディレクター羊屋さんの言葉として、私にとっての東京は「とっても長いこと、未来都市だった」「今は、遺跡の街を歩いているように思う」「追いつかないほどの加速記号でいっぱいだ」と書かれています。そういった東京に対する問題意識はずっと感じられていたんですか?

羊屋:このプロジェクトが始まって、あらためて私は東京のことを考えなきゃいけないんだなと思い始めました。今は遺跡化のスピードが速すぎて、どれもこれも死んでいくような感じがしています。たとえば1990年代頃は、六本木や西麻布、下北沢のクラブとかで演劇を上演してたんですけど、当時のクラブでは、踊っているお客さんもいれば、バンドが演奏したり、アートが展示されたりする中で、指輪ホテルもパフォーマンスをやっていて、異種格闘技みたいな面白さがあった。でもあるときからクラブがどこも同じような内装、雰囲気になってきて、調べてみたら本当に同じ内装・建築会社が入ってた。お客さんの感じも画一化されてきて、コンビニみたいに同質なものばかり。

―以前、ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さんに取材させてもらったときも、同じようなことをおっしゃられていました。1990年代にクラブが変わって、多様性がなくなったと。

羊屋:わかります。それでクラブに興味がなくなって、劇場や劇場じゃないところや、海外でも上演するようになったんですけど、そうすると、なおさら東京や日本のことを考えるようになってきた。でも、それを作品で描いてしまうと海外ではエキゾチックなものとして捉えられてしまうし、もっと普遍的なものを指輪ホテルでは作っていたので、これまでアウトプットすることはありませんでした。だから今回、東京アートポイント計画のお話が来たときに、自分で封印していたものを解いてみる気になったんだと思います。そういえば東京のことを作品にしてこなかったなと。

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インフォメーション

東京文化発信プロジェクトとは
東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が、芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施している事業です。多くの人々が文化に主体的に関わる環境を整えるとともに、フェスティバルをはじめ多彩なプログラムを通じて、新たな東京文化を創造し、世界に発信していきます。

プロフィール

羊屋白玉(ひつじや しろたま)

1967年北海道生まれ。「指輪ホテル」芸術監督。劇作家、演出家、俳優。主な作品は、2001年同時多発テロの最中、ニューヨークと東京をブロードバンドで繋ぎ同時上演した『Long Distance Love』。2006年『Candies』北米ヨーロッパツアー。2012年『洪水』ブラジル4都市ツアー。2013年『瀬戸内国際芸術祭』では海で、2014年『中房総国際芸術祭』では鐵道で上演した『あんなに愛しあったのに』。2006年『ニューズウイーク日本誌』において「世界が認めた日本人女性100人」の1人に選ばれ表紙を飾った。現在、カフカの『断食芸人』国内ツアー中。2015年夏、『越後妻有トリエンナーレ』に新作を発表。「アジア女性舞台芸術会議」設立準備中。

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