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増田セバスチャンが「カワイイ」で取り戻す、大人が忘却したもの

増田セバスチャンが「カワイイ」で取り戻す、大人が忘却したもの

インタビュー・テキスト
阿部美香
撮影:永峰拓也

大人になると、子どもの頃見えていた色が見えなくなるんですよ。それは、大人になった僕らが自分を窮屈に閉じこめてしまい、いろいろなものを忘れてしまったから。

―最新のデジタル映像技術によって生まれ変わった『くるみ割り人形』は、映像的な見どころも満載ですね。新規に追加されたアニメーションパートは、どのように制作されたのですか?

増田:旧作のドラマをより効果的に見せたいシーンを中心に、随所に新たに撮影して追加したシーンがあります。例えば、旧作で森下洋子さんと清水哲太郎さんのバレエシーンだったところは、蝶々が飛んでいるシーンと差し替えています。あの蝶々はCGアニメーションに見えますけど、実は実際に蝶々のオブジェを作って撮影したもの。クララの人形は、当時のものが綺麗に残っていたので、まぶたを新しく加えてリメイクして使っています。絵コンテも描き直しましたし、脚本も旧作のイメージを残しつつニュアンスを書き直しました。なので、脚色にも僕の名前が入っているんですよ。

―通常の3D映画は画面から映像が飛び出してくるような印象を受けますが、この映画は主人公クララが体験する不思議な世界に観客が吸い込まれていくような演出が随所に登場しているのも印象的でした。

増田:冒頭の時計の中に入っていくアニメーションなども、新しく作ったシーンですね。飛び出す3Dではなく内に入り込んでいく3Dというのは、まさに「カワイイ」の本質である、「自分だけの小宇宙を覗き込む感覚」の象徴です。3D監督の三田邦彦さん含め、スタッフもその3D感覚を面白がってくれて、僕のムチャな指示を素晴らしい技術で形にしてくれました。結果、ハリウッドお得意の飛び出す3Dよりも、より深みのある映像ができあがったと思います。これはぜひ、劇場で体感していただきたいですね。

増田セバスチャン

―増田さんらしい、ビビッドな色調も魅力的ですよね。色彩設計からやり直されたとか。

増田:僕が子どもの頃に旧作を見たとき、色がすごくカラフルだったんですけど、大人になって見返したら、くすんで見えたんです。大人になると、子どもの頃見えていた色が見えなくなるんですよね。それは、大人になった僕らが自分を窮屈に閉じこめてしまい、いろいろなものを忘れてしまったから。僕のアーティストとしてのメッセージの1つに、大人になって忘れてしまったものをもう一度解放することで、楽しく自由になってもらいたいというものがあります。なので、この映画でも当時の僕の目に見えていたカラフルな色合いを再現しています。でも実際に使っているのは、カラフルな色より黒のほうが多いんですよ。僕のクリエイティブにおいて、黒は空間の色であり、観客がイマジネーションを挟み込む余白。僕の映像を見る方は、自分の想像で黒を色で補っている、もしくは見ないことにしているから、カラフルだったという印象を持たれるんじゃないでしょうかね?(笑)

『くるみ割り人形』 ©1979,2014 SANRIO CO.,LTD.TOKYO,JAPAN
『くるみ割り人形』 ©1979,2014 SANRIO CO.,LTD.TOKYO,JAPAN

『くるみ割り人形』 ©1979,2014 SANRIO CO.,LTD.TOKYO,JAPAN
『くるみ割り人形』 ©1979,2014 SANRIO CO.,LTD.TOKYO,JAPAN

―ではこの映画を手がけたことで、増田さんが新たに感じられたことは何でしたか?

増田:MVでも舞台でも何でもそうなんですが、何かを作るときには自分の中で何度もシミュレーションをするので、大抵はできあがる前に飽きてしまうんですよ(笑)。でもそこに、他のスタッフの才能が入ることで違うものが生まれるから楽しい。今回も音楽の松本淳一さんとのやりとりの中で、松本さんと僕とで、結末に至る音楽のイメージが全く違っていました。それには相当ショックを受けたんですが、松本さんの発想は確かに面白いと思い、音楽に合わせて映像を編集し直したんです。実はきゃりーのライブを作るとき、中田ヤスタカさんともそういうやりとりをよくやっています。僕はそれを「モノで会話する」と呼んでいるんですが、今回の映画作りでもそれができた。実に面白い経験でした。

―音楽に合わせて映画の映像を変えるというのは、あまりないことでは?

増田:そうなんでしょうね。音楽に限らず、僕は映画制作のルールというものを全然知らなかった。だから途中で何度か、「映画ではそうしない」という言葉も聞きました。でも、ルールに従えば面白い映画になるのか? というと、おそらく違う。だったら僕のやり方でいこうと。それを許してくれたスタッフのみなさんにも、感謝したいですね。声優として参加してくれた豪華な役者さんたちも、僕の予想を超えるお芝居で作品をより魅力的にしてくれました。特に主人公役の有村架純さんは、劇中のクララと同じようにご自身も成長していった感があり、スタジオで一緒にお芝居をしながら収録していった僕も感動しましたね。

―そういった初監督経験を経て、増田さんのクリエイティブにおいて映画というメディアに何を感じられましたか?

増田:映画の魅力を再確認しましたね。こうしてお話ししているときに僕が放つメッセージは、この瞬間で終わってしまいますが、映画は一人歩きしてメッセージを発信し続ける。MVとも違う、とても飛距離の長いメディアに参加できた喜びを感じています。それに、日本の映画界はスタッフワークが素晴らしい。なので、もしそこに監督としての席を1つ空けていただけるなら、どんどんファンタジー映画を作っていきたいと思いましたね。

―増田さんの描かれるオリジナルファンタジー、楽しみにしたいです。アート、ファッション、映像と、コンセプトがブレることなく幅広くキャリアを重ねてきていますが、増田さんのように個性的なクリエイティブを体現していくためには、何が必要だと思われますか?

増田:僕は注目されるのが遅かったほうなので特に実感するのですが、クリエイターにとって20代は蓄積の時期。30代でやっと1つの仕事を任せられるようになって、40代でやっと形になるんです。なので、もしクリエイティブな仕事を目指そうという若い人は、とにかく自分がやりたいことには何でも手をつけて、失敗も蓄積として蓄えてほしい。考えるだけで何もやらないのでは、何の役にも立ちません。僕もつい最近、初めてニューヨークで個展を開きましたし、映画も初監督。40歳を過ぎてやっと、アーティストとしてスタートラインに立ったばかりです。しかもまだ何も成功していない、そう考えています。今もまだチャレンジの途中ですし、チャレンジし続けることが、僕のクリエイティブの原動力なんだと思います。

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作品情報

『くるみ割り人形』

2014年11月29日(土)から全国ロードショー
監督:増田セバスチャン
3D監督:三田邦彦
テーマ曲:きゃりーぱみゅぱみゅ“おやすみ -extended mix-”ワーナーミュージック・ジャパン(作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ(CAPSULE))
声の出演:
有村架純
松坂桃李
藤井隆
大野拓朗
安蘭けい
吉田鋼太郎
板野友美(友情出演)
由紀さおり(特別出演)
広末涼子
市村正親
配給:アスミック・エース

プロフィール

増田セバスチャン(ますだせばすちゃん)

アートディレクター/アーティスト。1970年生まれ。演劇・現代美術の世界で活動した後、1995年に"Sensational Kawaii"がコンセプトのショップ「6%DOKIDOKI」を原宿にオープン。原宿Kawaii文化をコンテクストとした活動を行っている。2009年より原宿文化を世界に発信するワールドツアー『Harajuku"Kawaii"Experience』を開催。2011年きゃりーぱみゅぱみゅ“PONPONPON”MVの美術で世界的に注目され、2013年には原宿のビル「CUTE CUBE」の屋上モニュメント『Colorful Rebellion -OCTOPUS-』製作、六本木ヒルズ『天空のクリスマス2013』のクリスマスツリー『Melty go round TREE』を手がける。2014年に初の個展『Colorful Rebellion -Seventh Nightmare-』をニューヨークで開催。

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