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生きることの居心地の悪さを振り切りたい 川内理香子インタビュー

生きることの居心地の悪さを振り切りたい 川内理香子インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:佐々木鋼平

人間って、内と外とか、肉体と精神とか、2つの物事の狭間に立たされている気がしませんか?

―学校の給食って大変じゃなかったですか? 先生から「残さず食べなさい!」と言われて、食べられない子は掃除の時間もずっと食事を強いられて。

川内:小学校のときは大変でしたね。給食も本当に食べられないので、家からお弁当を持って通っていました。あと、中学校のときは特例的にお昼ごはんだけ食べに自宅に帰るという、アメリカンスタイルを許されていました(笑)。

『The rise and fall of the tide』(部分) 撮影:豊島望
『The rise and fall of the tide』(部分) 撮影:豊島望

―食べられるものと食べられないものがあるんですか?

川内:人の手が複雑に入った料理が苦手だったんです。好物はジャムトーストみたいな、すごくシンプルなもの。でも給食って、ミートソーススパゲッティーみたいに食材を細かく切って炒めて煮込むじゃないですか。誰が作ったかもわからない、どこから来たかもわからない食べ物がイヤで。料理って、いろんな素材を組み合わせて、美味しそうに盛りつけるけれど、食べた瞬間からまず口の中で咀嚼されて、胃でかたちがドロドロに溶けていきますよね。でも自分の身体の内側は見えないから、どんなことが起こっているのかよくわからない。そういう恐怖があったんです。

―だとすると、過度に加工された料理よりも、食パンとかのほうが消化されていくイメージが持ちやすいですね。

川内:だからサラダやフルーツも好きですね。ごちゃまぜのものが胃の中でさらにごじゃまぜになっていくのを考えると、想像に歯止めがきかなくなってしまいます。

『バターはもちろん何から何まで溶けて流れていってしまうのよ』(部分) 撮影:豊島望
『バターはもちろん何から何まで溶けて流れていってしまうのよ』(部分) 撮影:豊島望

―自分の意思でコントロールできないものに対する拒否感があるんですね。少し内面的な話に振ってしまいますが、川内さんは自己と他者の境界線に興味があるんじゃないですか?

川内:それはあると思います。人間って、内と外とか、肉体と精神とか、2つの物事の狭間に立たされている気がしませんか? 宙ぶらりんの状態の逃げ場のなさ、居心地の悪さ……どっちにも振り切れない状態に駄々をこねているのかなと思います。

―どちらかに振り切れたほうがラクですか?

川内:ラクですね。ちょっと意味は違うんですけど、絵を描いていると、ある意味で振り切れる瞬間があります。描く前って「こういう感じで描きたい」というイメージが頭の中にあるんです。でも、それをアウトプットしても完全に同じにはならない。

『第9回 shiseido art egg 川内理香子展』展示風景 撮影:豊島望
『第9回 shiseido art egg 川内理香子展』展示風景 撮影:豊島望

―それは「コントロールできない」ってことですよね。

川内:でも、イメージを絵に描くという行為はもの(手)ともの(紙やカンバスなど)のぶつかり、なおかつ自分の思考ともののぶつかりでもあるので、自分の思考と身体をいっぺんに感じられるんです。普段の生活だと、自分が今どの位置に立っているのかわからなくなる。特に食事はそうで、別のことに思考を巡らせていても、胃の重たさを感じた瞬間に生々しい身体を自覚せずにはいられない。身体によって意識がはじき飛ばされるというか。でも絵を描くと、それが1箇所に集まってくるみたいな感じがあって。

―描くことが、川内さんにとって助けになっている?

川内:そうですね。

―ドローイングだけではなくて、ペインティングや本物のサンドイッチを使った作品もありますね。

川内:以前にいろんな表現方法を試していたことがあって、サンドイッチはそのときの作品ですね。でも、自分にとって一番突き詰めて表現できるのは、やっぱりドローイングです。

『Sandwich』2012
『Sandwich』2012

―ペインティングでもなく?

川内:ドローイングが自分の身体性を一番強く感じられるんです。ペインティングだと、キャンバスや油絵具の物質としての強さを感じます。それに油絵具は乾くまでの時間が長いから、自分の意思から離れて、絵が勝手にできあがっていく感じがします。ドローイングのほうがダイレクトにぽんぽんって返ってくるんです。

―川内さんが、絵で1番大事にしていることってなんでしょうか?

川内:たぶん瞬発力、瞬間だと思います。そのときに1番したいことをすぐに実現できる、そういう瞬間が大事。ペインティングは描くまでに準備も必要だから、あまり瞬間的ではないですよね。それもまた楽しいとは思うんですけど。ドローイングのほうが、自分の気持ちの高まり、思考の高まりをそのまますぐに出せるのがいいですね。

―好きな画家で言うと?

川内:いっぱいいるんですけど、モネとかルノワールといった印象派の画家たちは好きです。作品を観たときにすっと倒錯できる絵のクオリティーもいいですし、絵画に対しての考え方もしっかりしていて、素晴らしいなと思います。その両方を最大限に持っている作品ってあまりないと思うので。

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イベント情報

『第9回 shiseido art egg 川内理香子展』

2015年1月9日(金)~2月1日(日)
会場:東京都 銀座 資生堂ギャラリー
時間:火~土曜11:00~19:00、日曜・祝日11:00~18:00
休館日:月曜(祝日が月曜にあたる場合も休館)
料金:無料

『第9回 shiseido art egg 飯嶋桃代展』

2015年2月6日(金)~3月1日(日)
会場:東京都 銀座 資生堂ギャラリー
時間:火~土曜11:00~19:00、日曜・祝日11:00~18:00
休館日:月曜
料金:無料

ギャラリートーク
2015年2月7日(土)14:00~14:30
出演:飯嶋桃代

『第9回 shiseido art egg 狩野哲郎展』

2015年3月6日(金)~3月29日(日)
会場:東京都 銀座 資生堂ギャラリー
時間:火~土曜11:00~19:00、日曜・祝日11:00~18:00
休館日:月曜
料金:無料

ギャラリートーク
2015年3月7日(土)14:00~14:30
出演:狩野哲郎

プロフィール

川内 理香子(かわうち りかこ)

1990年生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻在籍中。『第1回CAF ART AWARD 2014 保坂健二朗賞』(2014年)、『Art in the office 2014』(2014年)受賞。これまで参加した展覧会に『ドーナツのない穴』展(2012年、多摩美術大学芸術祭)、『other painting XI』展(2012年、pepper's gallery)、『凸展』(2013年、tkpシアター / 柏アートライン)、『Home Made Family』展(2013年、cashi)、『Sleep No More』展(2013年、多摩美術大学芸術祭内)などがある。

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