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アートを超える「アーホ!」のパワー 倉本美津留×長谷川依与

アートを超える「アーホ!」のパワー 倉本美津留×長谷川依与

インタビュー・テキスト
坂口千秋
撮影:豊島望

現代アートやデザインって、調べた人にしか意味がわからない作品が多いじゃないですか。それってちょっとさみしいなと。(長谷川)

倉本:『アーホ!』に出演してくれるアーティストには、必ず「○○アーティスト」とキャッチコピーをつけるんですが、長谷川さんは「綿棒アーティスト」として紹介させてもらいました(笑)。長谷川さんはこのネーミングをすぐにOKしてくれましたよね。

長谷川:私はむしろ「綿棒」というキーワードが、作品を知るきっかけになればいいと思っていましたから。現代アートやデザインって、興味を持って調べた人にしか意味がわからない作品が多いじゃないですか。それってちょっとさみしいなと。

倉本:ええこと言うねえ!

『bristle』installation 2014.4
『bristle』installation 2014.4

長谷川:というのも、今92歳の祖母と同居しているんですが、彼女に私の作品のことを伝えるのはすごく難しいんです。でも綿棒だと「何これ? あんた何考えてるの?」って興味を持ってもらえる。だから、最初は「綿棒アーティスト」として覚えてもらって、全然構わないです。

倉本:そう、まず興味持ってもらうことが大切なんじゃないかなって。『アーホ!』でやっていることはまさにそれ。アートに興味のない人でも「綿棒アーティスト」って聞くと「ん?」って振り向く。そして気になったことをきっかけに、また次の深いところに進んでいける。何かを知るとき、「面白そう」から入るのって、大事なことだと思うんです。アートをテレビバラエティー番組にするのって、なかなか一筋縄にはいかないんですよね。アーティストと呼ばれる人たちにとっては、抵抗感があると思いますしね。

長谷川:私も初めて『アーホ!』っていうタイトルを聞いたとき、正直不安でした(苦笑)。いろんな思いを込めて作った作品が、ただ「楽しい」「面白い」だけで紹介されてしまったらどうしよう? とか、今働いている美大の人たちに、ただの目立ちたがり屋だと思われるのも嫌だな、とかいろいろ考えてしまって、出演することもあまり誰にも言わなかったんです。

倉本:じゃあ、もしかしたら断られていたかもしれないね。実際断られることも多いんですよ。もちろん諦めず、時間をかけて説得するんですけど(笑)。

長谷川:でも、これまで放送された『アーホ!』を見せてもらって、この番組がやろうとしていることは、「知るきっかけ作り」なんだって気付いたんです。それは、自分の作品を祖母にわかってほしいと思う気持ちと同じだった。

長谷川依与

―放送後の反応はいかがでしたか?

長谷川:実際に出てみてわかったんですが、じつは美大の関係者もけっこうみんな番組を見てました(笑)。でもその人たちから、「ああいう作品だったんだね」って真剣に感想を言ってもらえて、ちゃんテレビでも伝わったんだ、すごいなと思いました。いつもと違う切り口から作品を見ることもできたので、自分自身も勉強になりました。

倉本:そう言ってもらえてすごく嬉しいな。そもそも「アホ」って言葉は、大阪の人にとってはホメ言葉の成分が強いんです。「こんなこと考えるなんてすごいな! アホやな~!」という感じ。どんなにすごいアーティストでも、絶対に最初は「アホやな~!」という感動があると思うんです。美術の歴史を見ても、レオナルド・ダ・ヴィンチやフィンセント・ファン・ゴッホ、印象派の画家なんかも、もし大阪人が見て感激してたら「アホやな~!」って言ったはずなんです。それまで誰もやったことないことをやってるからね。

倉本美津留

―ダヴィンチは尋常じゃなく描き込んだ絵を描いていたり、ゴッホなんかデッサンが歪んだまま描いてますからね(笑)。

倉本:そう。世の中の大半のものは、誰かが血を流して新しく作ったものを薄めて使っていたりするんです。これはね、仕方がない。でも、誰かが血を流さないと新しい文化って生まれないと思うんですよ。だからそういう人たちをテレビという身近なメディアを使って真摯に応援していきたいんです。「アーホ!」という言葉は、世の中に新しいものを増やそうと勝負すること、誰もやったことのない挑戦をすることの重要さを表すキーワードでもあるんです。それくらいの覚悟で面白いことを生み出そうとしている人を、僕はアーティストって呼びたいんです。

長谷川:私も今では「アーホ!」と呼ばれて光栄です(笑)。

一発で面白さがわからない作品でも、少し見方を変えてみたり、ヒント1つで「わっ!」ってなる。番組で紹介するからには、そこまでの着地点を見つけたいんです。(倉本)

―『アーホ!』って、視聴者から見れば、わかりやすく面白さが伝わる入口を用意してくれるけれど、アーティストにとっては、一言で自分の作品を決めつけられたくない。じつはわりと難しいところを攻めている番組なんですね。

倉本:テレビでアートを紹介する意味と責任は、毎回慎重に考えています。『アーホ!』という番組は作品を見せるだけじゃなく、作家にも出てもらって、「こういう人がこういう発想で生み出しているんですよ」というところまで伝えることが重要なんです。そのためには出演してくれるアーティストに誠意を持って接していきたい。僕は制作過程、素材なども紹介しつつ、わかりやすく「すごい!」と感じる部分をぐっと押し出して紹介したいんだけど、アーティストの方たちってそこは前に出したがらないんですよね。

『bristle』installation 2014.4
『bristle』installation 2014.4

『bristle』 2014.8
『bristle』 2014.8

長谷川:私が個人的に心配だったのは、努力賞に見られたくないということでした。「綿棒1万本くらい使っています」って言われたら、「へえー」ってなるけど、それは誰がやっても大変だし、それで作品が面白くなかったら「時間かかって大変でしたね」で終わりじゃないですか。

倉本:面白いアイデアを思い付いたら、それを人に見せるにはかたちにするしかないから、時間がかかっても仕方ない、そうことなんやね。

長谷川:そうですね。ひと目見たかたちでわかってもらえることが、一番伝えたいことであって、その背景は最初に伝えたいことじゃない。だから、まずはストレートに作品だけを見てもらいたいっていう気持ちはあります。

倉本:それがベストですよね。スパーンと出して「なんじゃこりゃー!」って驚いて、そこから深い意味がわかっていくのも全部含めて面白いっていう。だけど、ひと目では「おもろい~!」ってところまでなかなかなりにくいタイプの作品も、中にはありますよね。でも、ちょっと見方の角度を変えてみたり、ヒント1つで、「わっ!」ってなる。番組で紹介させてもらうからには、どんなタイプの作品でもそこまでの着地点を見つけたいんです。最初は乗り気じゃなかったアーティストも、収録中の出演者の反応を感じ取って、最後には晴れやかな顔になっていたりします。少しは作品の面白さを広げるお手伝いができたのかな、と思う瞬間です。

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イベント情報

『SICF16』

A日程:2015年5月2日(土)、5月3日(日・祝)
B日程:2015年5月4日(月・祝)、5月5日(火・祝)
会場:東京都 青山 スパイラルホール
時間:11:00~19:00
審査員:
倉本美津留(放送作家)
佐藤尊彦(BEAMSプレスマネージャー)
紫牟田伸子(編集家、プロジェクトエディター)
三木あき子(キュレーター、元パレ・ド・トーキョーチーフキュレーター)
皆川明(mina perhonen デザイナー)
岡田勉(スパイラル チーフキュレーター)
料金:一般700円 学生500円

プロフィール

倉本美津留(くらもと みつる)

放送作家。「ダウンタウンDX」Eテレのこども番組「シャキーン!」などを手がける。こんなの見たことない!という感覚をもたらしてくれるアート作品を、大阪弁の褒め言葉とかけて「アーホ」と提唱。同タイトルのアート番組も企画構成している。これまでの仕事に「ダウンタウンのごっつええ感じ」「M-1グランプリ」「伊東家の食卓」「たけしの万物創世記」他。またミュージシャンとしても活動。近著に「明日のカルタ」など。

長谷川依与(はせがわ いよ)

1988年東京生まれ。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。『SICF15 浅井隆賞』受賞。インテリアデザイン、インスタレーションの分野で制作をするアーティスト。人間の目に見える要素だけでなく、不可視な部分に発想の原点を持ち、人間の内側と外側の考察を通して、人間を表現する作品を制作している。

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