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巨匠の証言バトルで振り返る日本の建築史 石山友美×妹島和世

巨匠の証言バトルで振り返る日本の建築史 石山友美×妹島和世

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望

「みんなの家」プロジェクトで、まち作り自体に触れられると気づいたんです。今までできるだけ頑張って仕事をしてきたつもりだけど、「与えられた場所でちんまり暮らしましょう」みたいなことでしかなかったのかもしれない。(妹島)

―一方で妹島さんは、伊東さんの呼びかけで、「みんなの家」(東日本大震災の被災地に住民たちが集まるための公共の場を作るというプロジェクト)にも参加されていますよね。これも、コミュニティーデザインの1つに位置づけられると思います。

妹島:従来の建築に対する危機感が、やっぱりあるんですよね。それは日本国内だけでなく海外でも起こっていることで、たとえば、性能のいい建築への偏重。オフィスも家も、空調がよく効くこととか、清潔さだとか、そういう価値観でまちがわーっと埋められていって、統一的な美意識が作られてしまう。そこでちぢこまって暮らすのって、堅苦しいですよね? 私が小学生の頃は、道が舗装されてなくて、歩くとベタベタ泥が跳ねるのが気持ち悪くっていやだなと思っていたけれど(笑)、今や全部アスファルトで、土に触れる機会すらないでしょう。そうすると暮らしを支える精神的な部分も固まってしまうじゃないかと思うし、建築もどんどん息苦しくなってしまう。本当はもっとのびのびと使ってもいいはずなのに。

金沢21世紀美術館 ©SANAA
金沢21世紀美術館 ©SANAA

Co-concepteurs : © Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa / SANAA, Tim Culbert +Celia Imrey / IMREY CULBERT, Catherine Mosbach
Co-concepteurs : © Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa / SANAA, Tim Culbert +Celia Imrey / IMREY CULBERT, Catherine Mosbach

―なるほど。

妹島:「みんなの家」で一番面白かったのは、そこの人との話し合いを通して、自分たちのまちは自分たちで考えて、作るのだと気づかされたことです。それまで「周囲の環境と合う家を作りたいです」なんて言ってきたけれど、考えてみたら、建築家としてだけじゃなく、市民としても、まちを自分たちで作るという権利があるし、義務も当然あるんですよ。今まで、自分ではできるだけ頑張って仕事をしてきたつもりだけど、それでも「与えられた場所でちんまり暮らしましょう」みたいなことでしかなかったかもしれない。

宮戸島月浜のみんなの家 ©SANAA
宮戸島月浜のみんなの家 ©SANAA

―これからの建築を考える上で、そこに1つの回路を見出したと。

妹島:回路というわけではないです。でも「みんなの家」を作る過程で、被災地の漁師の人たちが本当にドキッとするようなことを言ってくれるんですね。「自分たちの子どもたちに自慢できるようなまちを作ろう」とか。最初は、ビクビクしながら「どういう建物にしたらいいと思われますか?」なんて意見を尋ねていたんですけど、「俺たちはあんたがプロだから話を聞いているんだよ。そっちから『これがいい!』という提案をしてくれよ!」と言われたりして。みんなでやるからには自分をおさえることも必要かと思い込んでいたのですが、建築家である自分も「みんな」に入るのだから、自己主張をせずに他人のためにと一方的に考えることが正しいわけではないというのも発見でした。

左から:石山友美、妹島和世

まちや人との関わり方によって、いろいろな関係が生まれたり、膨らんだりする建築を作りたい。(妹島)

―まさに、「コミュニティーデザイン」を進める中で、「従来の建築家のあり方」が問われているんですね。

妹島:それと「みんなの家」には、頼まれた人、施工する人、使う人、という分業があまりないのも良かったです。場所ができ上がる過程を、全員が一緒に喜べるんですよね。普段はクライアントに無事に納品できるか心配で、竣工を純粋に喜ぶという瞬間がじつはあまりなかったのではと思わされました。みんなの考えの連鎖で建物が作られていくことは、建築の1つのあり方として素晴らしいと思います。

―会話のプロセスが建築を作っていく。

妹島:それはこの映画にも共通するかもしれません。ストーリーらしきものはあるけれど「こういう台詞をしゃべってください」という演出はない。かと言ってただ台詞が点在しているわけではなく、ダイナミックな関係が読み取れる。そして見る人の立ち位置、年齢や立場によっても見方が変わる自由さもある。私も、そういう建物を作りたいわけです。まちと一緒に働く建築というか、まちや人との関わり方によって、いろいろな関係が生まれたり、膨らんだりする建築。

石山:そこは私自身も一番大事にしているところです。もともと群像劇が好きで、自分でコントロールできないものに強く惹かれるんです。編集というコントロールは介入していますが、そういう気持ちで作ったつもりです。いろいろな人たちが、互いに会話し合っているような、そういう映画だと思います。

『だれも知らない建築のはなし』ポスタービジュアル
『だれも知らない建築のはなし』ポスタービジュアル

―P3会議で問われていた「建築の社会的役割」は、現代にも通ずる話ですし、建築に限らない普遍的な問題だと感じました。この映画自体が、新たな議論の場にもなっていきそうですね。石山さんはこれが監督2作目ですが、今後どんな作品を作りたいと思いますか?

石山:基本的にはフィクションを作りたいんです。自分で物語を構築することをやっていきたい。でも、今回ドキュメンタリーを作ってみて、思ったよりも楽しかったんです。作っているあいだは相当苦しいんですけど、ずっと建築を勉強してきたこともありますし、建築について考えることや、見に行って体験することが自分自身の一部のような感覚があることに気づきました。どういうかたちかわからないですけど、建築という対象には、いつの日かもう一度チャレンジしてみたいと思いますね。

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作品情報

『だれも知らない建築のはなし』

2015年5月23日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:石山友美
出演:
安藤忠雄
磯崎新
伊東豊雄
レム・コールハース
ピーター・アイゼンマン
チャールズ・ジェンクス
中村敏男
二川由夫
配給:P(h)ony Pictures

プロフィール

妹島和世(せじま かずよ)

建築家。日本女子大学大学院修了後、伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、87年に妹島和世建築設計事務所設立。95年西沢立衛とSANAA設立。主な作品に、梅林の家、犬島「家プロジェクト」、金沢21世紀美術館*、ROLEXラーニングセンター*、ルーブル・ランス*等。*印はSANAA 第12回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展総合ディレクターを努める。日本建築学会賞、プリツカー賞など受賞多数。

石山友美(いしやま ともみ)

1979年生まれ。日本女子大学家政学部住居学科卒業。磯崎新アトリエ勤務を経て、フルブライト奨学生として渡米。カリフォルニア大学バークレイ校大学院、ニューヨーク市立大学大学院で建築、芸術論、社会理論を学ぶ。ニューヨーク市立大学大学院都市デザイン学研究科修士課程修了。在米中に映画制作に興味を持つようになる。監督デビュー作『少女と夏の終わり』は第25回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門公式出品。

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