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三宅洋平「選挙フェス」とは何だったのか? 密着した監督が語る

三宅洋平「選挙フェス」とは何だったのか? 密着した監督が語る

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:永峰拓也

人間を信じるために、自分を信じるという方法論

「三宅洋平も大勢の中の一人である」という意見に同調できる一方で、それでもこの映画の中に記録された三宅洋平の熱量は、一般からは大きくかけ離れたものであるようにも思う。彼が体力的にも精神的にもボロボロになりながら、それでも選挙戦を戦い抜いた、そのモチベーションは何だったのだろう? その部分を、三宅を一番近くで見続けた杉岡にはぜひ聞いてみたいと思った。

杉岡:そこは僕も不思議で……目立ちたいんですかね?(笑) もちろん、「地球や自然を守りたい」という気持ちも大きいと思うけど、どこかお祭り男的なやんちゃな部分というか、渋谷の駅前にステージを組んじゃったりするような、ワイルドでぎらついている感じがある。でも僕は、それはそれでいいと思うんですよね。あとは、周りから圧力がかかればかかるほど、その人の筆圧になっていくというか、表現の濃度が濃くなると思うんです。だからもしかしたら、選挙に出ることが、アーティストとしての自分のクオリティーを上げることにつながるという意識もあったのかもしれないですね。それって、例えばRAGE AGAINST THE MACHINE(アメリカのオルタナバンド。政治メッセージを持つ歌詞が特徴)とか、海外だと普通のことでもあるから悪いとも思わないし。

『選挙フェス!』 ©2015 mirrorball works
©2015 mirrorball works

三宅は音楽家という仕事を「どうしてもやらないと気が済まないもの」としてある種の天啓のように感じ、使命感を持って自らの活動に取り組んでいるそうだ。映画では、現在住居を構える沖縄で、海に向かって祈りを捧げるシーンも描かれている。一見、こうした言動はスピリチュアルにも映るが、杉岡はここに三宅の本質を見出していた。

杉岡:彼はすごく人間を信じているんだと思います。だから、何かがちょっとでも良い方向に動くことを期待して、選挙に出たんじゃないかな。僕は逆に、どこかで「人間なんてこんなもんでしょ」って思っているんですよね。何千年の歴史の中で、世界中が平和だった時代なんて1回もないわけで、常に自分の中にある欲望や暴力性と向き合わざるを得ない。でも、彼は人間を信じていたいから、まず自分を信じようとしているんだと思うんです。さらに言うと、信じられる自分でいるために、いろんなことを取り入れてるんだと思うんですよね。ときには「トンデモ」だと思われちゃうような言動やふるまいを見せることもあるけど、彼は「自分はまだやれる」って期待し続けるために、そういうものを必要としてるんじゃないかな。信じている対象そのものも大事かもしれないけど、なぜそれを信じようと思ったのか? 必要としたのか? ということを想像するのも同じぐらい大事だと思います。僕は彼みたいに強くなくて、心がくじけちゃうことがよくあるから、「じゃあ、自分は何で強化しよう?」とよく考えますし、そういう意味では三宅洋平を理解できるところもあるんです。いくら僕が悲観的なものの見方をしたとしても、完全に絶望して、「何も良くならない」って思っちゃったら、それこそつまんないですからね。

『選挙フェス!』 ©2015 mirrorball works
©2015 mirrorball works

ダサいは間違っていて、かっこいいは正義。理屈じゃない信頼関係

「自分を信じる」ということ。『選挙フェス!』という映画が主義や主張を超えて描き出しているのは、まさにこの一点であると言ってもいいかもしれない。杉岡は言葉を続ける。

杉岡:三宅洋平のことにしても、もうちょっと長い視点で理解したほうがいいんじゃないかと思うんですよね。彼みたいな存在をその場で潰してしまうことは、自分の行動や未来を制限することにつながると思うんですよ。自分が自由に生きるためには、他人の自由を尊重することが必要で、僕はギリギリ彼を肯定できた(笑)。そうじゃなかったら、作品にはしてないですからね。僕と三宅洋平は全然違う人間で、彼が何で僕を近くにいさせてくれるのか、未だによくわかってないんです。ただ、根っこの部分が共有できてるとは思っていて、それは実はカルチャーの部分、聴いてきた音楽が近いこととか、そこで僕は彼を信頼しているんだと思います。

杉岡太樹

―例えば、どんなところが通じているのでしょうか?

杉岡:選挙の前日に決起集会があったんですけど、僕はそこでもアウトサイダーで、「居心地悪いな」と思いながら参加してたんです。そのときお店のBGMでGOTYEの“Somebody That I Used to Know”がかかったんですよ。それを「いいね」と思っていたら、彼も「お、これ誰だっけ?」と反応していて、そこでピンときた。結局、彼が何をかっこいいと思っているのか? を僕は信頼していて、それは自分のセンスを信じたいということでもある。やっぱり、「ダサい」のは何かが間違ってるってことだと思うんです。だから、僕はダサい映画は撮りたくないし、三宅洋平も映画の中でライブをミスって「死にたい」って言うし。「それ選挙と関係なくない?」と感じる人もいると思うけど、やっぱりそこに共感するんです。ダサいのは嫌なんですよ。

『選挙フェス!』 ©2015 mirrorball works
©2015 mirrorball works

三宅は17万票を超える票数を獲得するも、選挙には落選。何の準備も確信もなく撮影を開始し、「映画として成り立つのか最後まで不安だった」という杉岡は、この結果を受けて、「結局お祭り騒ぎをしただけで、またすぐもとに戻ってしまうんじゃないか」と考えもしたそうだ。しかし、選挙後にラジオに出演した三宅の声を聴いたときに、そこで初めて「これは映画になる」と確信できたのだという。

杉岡:あの声を聴いた瞬間に、彼が選挙に出たことを「良かった」と思えたんです。決してシリアスじゃなくて、照れ隠しのような、脱力したような感じなんだけど、すごく情報量が豊かな声だった。なぜだかわからないけど、その声に安心したんです。そもそもドキュメンタリーって、いろいろ勉強して、知識を身につけて撮らないとダメだという人も多いんですけど、僕はもっと感覚的に撮っていいと思っているんですよね。理論的じゃなくても僕には僕の基準があって、それは「かっこいいは正義」だということ。政治を知らないなら知らないなりに、かっこいいやり方っていうのはきっとあって、僕はその直感みたいな何かを信じてるんです。

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作品情報

『選挙フェス!』
p>2015年7月4日(土)からユーロスペースほか全国順次公開
監督:杉岡太樹
出演:三宅洋平
配給:mirrorball works

プロフィール

杉岡太樹(すぎおか たいき)

1980年神奈川県生まれ。01年より渡米、School of Visual Arts(ニューヨーク)にて映画製作を学ぶ。第84回アカデミー賞ノミネート作品の『もしもぼくらが木を失ったら』や、日米で異例のヒットとなった『ハーブ&ドロシー』などの制作・配給に参加。2010年より拠点を東京に移し、”脱原発デモ”の萌芽を追ったドキュメンタリー『沈黙しない春』で2012年に長編映画デビュー。現在、ブラインドサッカー日本代表チームを追った次回作を制作中。

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