
歴史に残るデザインとは?吉岡徳仁が辿り着いた、みえないかたち
- インタビュー・テキスト
- 内田伸一
- 撮影:西田香織
厚さわずか1cmに積層された紙をアコーディオンのように広げ、蜂の巣状の造形に人が座ることで完成する椅子『Honey-pop』。特殊なガラスによる透明なベンチとして風景に溶け込み、その場の光をかたちにする『Water Block』。吉岡徳仁は、一見するとシンプルな造形の中に、ラディカルな創造力と自然への深い洞察を宿らせる。世界有数企業の店舗プロジェクトから国際家具見本市『ミラノサローネ』、美術館まで多様な空間で彼が追い求める「みえないかたち」とは? 佐賀県立美術館のリニューアル記念として開催中の最新個展『吉岡徳仁展―トルネード』を機に、本人に話を聞いた。
いわゆる目に見える「かたち」には興味がなかった。存在感やオーラのようなものがある「人間の感覚についてのもの作り」が重要だと考えています。
―今回は九州で初となる個展『吉岡徳仁展―トルネード』(佐賀県立美術館)の実現を機に、お話を伺います。まず、吉岡さんの創作のキーワードについて。著書名にもある「みえないかたち」とは、近年いわゆるデザイン領域のみならず、美術館などの舞台でも表現をするうえで、どんな意味を持っていますか?
吉岡:デザインを学び始めた学生時代(桑沢デザイン研究所)から、いわゆる目に見える「かたち」には興味がありませんでした。存在感やオーラのようなものがある「人間の感覚についてのもの作り」が重要だという考えが、以降も自分の中で大きくなっていきました。「人間の感覚についてのもの作り」について、まだ答えは見つけられていませんが、人はどんなときにどのような感情が動くのか、また何に感動するのか、といったことに関心があります。
―ファッション、プロダクト、空間デザインなど領域をまたぐ活動の中で、あるときから自然の構造を表現に取り入れることが多くなっていきますね。代表作の1つに、蜂の巣のハニカム構造をヒントにした椅子『Honey-pop』があります。
吉岡:今お話したようなところから始まり、自分の中で「新しいもの作り」を考える上で、パズルを1つずつはめ込んでいくような思考作業がありました。最新の技術や素材に強い関心を抱いた時期もありましたが、それらは時代と共に変化し、仕組みがわかった途端に新しさの価値も後退していきます。このように考え始めた時期から、紙やガラス、結晶、ストローといった身近な素材を使って、新しい価値を探ることが多くなったのかもしれません。
『Honey-pop』(2001) / 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
―『Honey-pop』は板状に積層された120枚の紙を開いて、そこに人が座ることで紙が変形し、椅子が完成するものですね。
吉岡:僕が最初に作った椅子です。椅子を作るのはすごく難しくて、機能は座ることだけ。これまでにほとんど表現され尽くしているとも言えます。その中で新しいものを作ろうというとき、歴史に残る上で何が必要かという視点を持つようになりました。そして一番重要なのは、見た目のデザインを越えたストラクチャー(構造)だと考え、自分はそこで「自然」を切り口に選んだと言えそうです。
『Honey-pop』(2001) / 佐賀県立美術館『吉岡徳仁展―トルネード』展示風景
―この作品では、蜂の巣のようなハニカム構造がそれですね。完成品に「座らせられる」のではなく、座る人々が作品を決定づける、そんな特異さもあります。ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵されています。
吉岡:この作品については、まず平面から立体になるという、漫画の変身ロボット的な楽しさがあります。これは小さい頃の経験の反映かもしれません。同時に一種の「タブー破り」もあり、紙は普通、クシャクシャにしてしまうと価値を失うと思われがちです。それを逆に、美しいのではないか? と問えないかという気持ちもありました。
イベント情報
- 『吉岡徳仁展―トルネード』
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2015年7月2日(木)~8月2日(日)
会場:佐賀県 佐賀県立美術館 2号展示室、3号展示室、4号展示室
時間:9:30~18:00
休館日:月曜(7月20日は開館、7月21日は休館)
料金:無料
プロフィール
- 吉岡徳仁(よしおか とくじん)
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1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。アート、デザイン、建築など幅広い領域において自由な着想と実験的なクリエイションから生まれる作品は、国内外で高く評価され、数々の作品が、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ポンピドゥー センター、ビクトリア アンド アルバート ミュージアム、クーパー ヒューイット国立デザイン博物館、ヴィトラ デザイン ミュージアムなどの世界の主要美術館で永久所蔵されている。また、ISSEY MIYAKEのショップデザインやインスタレーションを20年近くにわたり手がける他、Hermès、BMW、MOROSO、TOYOTA、LEXUSといった世界有数の企業とコラボレート、SWAROVSKIの世界中のフラッグシップストアのコンセプトデザインも手がけている。近著に『みえないかたち』など。