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畠山直哉のゆっくり考えるススメ「写真家は過去と付き合う仕事」

畠山直哉のゆっくり考えるススメ「写真家は過去と付き合う仕事」

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:高見知香
2015/08/10

最近は「美しい」という言葉に対して、人がどのレベルで言っているのかが気になってしょうがない。美しくないものでも、美しいと言ってしまう場合がありますよね。

―畠山さんは、19世紀から20世紀のあいだに発達した欧米のモダニズムアートの文脈で、写真表現に取り組んできました。つまり、写真に個人的な感情を反映させるようなタイプではなく、主体性が強くならないよう、機械的に事物を叙述していくような写真です。

畠山:僕が師事した大辻清司さん(戦後の前衛美術運動にも関わった写真家。日本の現代写真表現に実作・理論の両面で大きな影響を与えた)は欧米の美術動向に影響を多く受けた人で、そういうセンスを、瀧口修造(戦前戦後の美術批評を牽引した美術評論家、詩人)みたいな周囲の前衛芸術家を通じて身につけていました。僕が写真に期待しているのもまさにその部分です。自分の個人的な背景を人に見せたいとか、自己実現とか、そういうことには興味がありません。

―1990年代に発表された、『LIME WORKS』は、畠山さんの手法が確立されたシリーズと言えます。いくつかは生家近くの石灰石鉱山を撮影したもので、ご自身の生まれ育った環境も多く影響しているのではないでしょうか?

シリーズ『LIME WORKS』より、LW41408(1994年)
シリーズ『LIME WORKS』より、LW41408(1994年)

畠山:自己実現から離れたいなどという以前に、物事というのはもう少しシンプルな理由から始まるものです。撮りたいとか、行ってみたいとか、そういうことですね。たとえば『LIME WORKS』の表紙の写真は、工場の中に案内してもらって、一番高いタワーの上にのぼったら、そのときちょうど日が暮れて、工場のあちこちにランプが灯り始めたんです。そのときに「素晴らしい光景だな」って思って撮りました。

―「美しい」と思った。

畠山:まあ単純に言えばそうですね。でも最近は人がその「美しい」という言葉に対して、どのレベルで言っているのかが気になってしょうがない。美しくないものでも、美しいと言ってしまう場合がありますよね。例えばメキシコにエンリケ・メティニデスという報道写真家がいました。彼が撮ったものに、ブロンドのファッションモデルみたいな人が交通事故に遭って、電柱に頭が挟まって絶命している写真があるんですね。死んでいるのに顔のメイクが完璧で、まるでバービードールが電柱に挟まっているみたいなんです。本当に目が釘付けになるんですけど、それを「美しい」と言ってしまったら何か変でしょう?

畠山直哉

―ざわっとしますね。

畠山:見事な写真なんですよ? でも悲劇の表象にスペクタキュラー(壮観)とかビューティフルという言葉を使うと、道徳的にまずい感じがする。そういう体験を、僕はここ4年間ずっとしています。

―東日本大震災以降ですね。

畠山:津波の後に撮られた、故郷の陸前高田の写真を公開して観客からよく言われるのは「あなたの写真を美しいと感じるけれど、そう感じてしまうことに居心地の悪さを感じる」ということ。それが、僕にとって非常に切実な問題として2011年以降わきあがってきているんです。他人から言われる「美しい」という言葉に対して懐疑的になりますし、画面を「美しく」仕上げてしまっている自分の写真術に対しても、いつも自問しないといけない状況が生まれてしまっている。だからといって、汚い写真を撮るという選択もできない。誰だって、自分が気になったものにしかカメラのシャッターは押せないから。僕の写真は、夕日が当たっていたり、霧が出ていたり。とろんとした色彩の写真もけっこう撮りますから、そういうものを見て「美しい」と思われるかもしれないけれど、僕はそのことで何を実現したいんだ? と今も自問しているんです。

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より
『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より

―これまでも、これからも。

畠山:僕が故郷の悲劇的な状況を「美しい」とも捉えられるような写真で表現していることのとりあえずの答えとしては、亡くなった人に、死化粧を施すじゃないですか。汚い状態でお棺に入れるんじゃなくて、着飾らせたり、青白い顔に紅をさしたり、今までの思い出ができるだけ美しくなるように努力しますよね。それに近いことをしているのかなと思っているんです。

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作品情報

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』

2015年8月15日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・撮影・編集:畠山容平
出演:畠山直哉
配給:CINEMACTION 豊劇 -豊岡劇場-

書籍情報

『ヴァガボンズ・スタンダート04 畠山直哉』
『ヴァガボンズ・スタンダート04 畠山直哉』

2015年3月7日(土)発売
著者:畠山直哉
価格:1,620円(税込)
発行:平凡社

『気仙川』
『気仙川』

2012年9月4日(月)発売
著者:畠山直哉
価格:3,456円(税込)
発行:河出書房新社

プロフィール

畠山直哉(はたけやま なおや)

岩手県陸前高田市出身。大辻清司の影響で写真をはじめ、大学卒業後は東京に移り活動を続ける。出版には1983年の『等高線』、1996年の『ライム・ワークス』『Citta in negativo』など。1997年に写真集『ライム・ワークス』、写真展『都市のマケット』により第22回木村伊兵衛賞受賞。2001年には世界最大の国際美術展である『ヴェネツィア・ビエンナーレ』に日本代表の一人に選ばれている。同年、写真集『アンダーグラウンド』により第42回毎日芸術賞を受賞。2012年、個展『Natural Stories』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2012年『気仙川』、2015年『陸前高田2011-2014』を刊行。

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