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畠山直哉のゆっくり考えるススメ「写真家は過去と付き合う仕事」

畠山直哉のゆっくり考えるススメ「写真家は過去と付き合う仕事」

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:高見知香
2015/08/10

もしも芸術の本質が「クリエイティブであること」と定義するとしたら、僕の行っていることを芸術と呼べるのかどうか?

―これまできわめて理知的に写真に接してきた畠山さんが、「死化粧」という言葉を使うのはちょっと意外な気がします。

畠山:それは陸前高田が、よく知っているところだから。思い出と重なっているものだから。肉親の思い出も、親戚や友だちの思い出も含まれている。僕のまわりでいろんな人が亡くなっていますからね。悲しいですよ、それは。

―芸術には癒しや弔いの効果もあるということでしょうか?

畠山:アートセラピーなんて言葉があるように、芸術における治癒の効果ってものがある。僕がそれを自分で行ってるかどうかはともかく、芸術にはそういう議論を可能にする性質もあるってことでしょう。ただ、僕にはそもそも「僕が行っていることは芸術か?」という疑問があります。外界の出来事に対して、ただ反応しているだけではないのか? という疑問があるんですよ。それよりは建築家の伊東豊雄さんが『みんなの家』(東日本大震災の被災地に住民たちが集まるための公共の場を作ったプロジェクト。畠山も参加し、第13回『ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』で金獅子賞を獲得した)でやっているように、被災地で困っている人のために議論して、建築を作ることのほうが、もっとクリエイティブで、芸術的な行為かもしれない。もしも芸術の本質が「クリエイティブであること」と定義するとしたら、僕の行っていることを芸術と呼べるのかどうか。

畠山直哉

―自身の「レスポンス」の姿勢に疑問を持っている?

畠山:知人のキュレーターが、3.11後の日本の芸術表現について海外で講演したときに、それらのほとんどが震災へのレスポンスかアクティビズムで、コンセプチュアルな表現はないのか? と質問されたそうです。確かに僕みたいなタイプの仕事はずいぶんあると思うんですけど、カタストロフィーの核心部分を批判するような、例えばハンス・ハーケや河原温(ある1日の新聞記録などを収めた箱に、日付を描く『デイト・ペインティング』で知られるアーティスト)のような仕事をしている日本人アーティストはあまりいないですよね。ただ、写真術は伝統的にレスポンスのアートでもあるんです。過去の巨匠たちの素晴らしい作品も「外界への反応」と言えるものが多いし、その総体が写真史を作っている。だから写真の場合「レスポンス」がそれほど問題だとは思われていないところがあるのですが。

震災以降、「前を向こう」みたいなことがよく言われていたけれど、僕自身は後ろを向いて、背中を前に向けて進んでいる実感があるんですよ。

―映画の話に戻りますが、ラストカットで畠山さんが遠くにある建物を眺めていますね。あれはどういう場所なのでしょうか?

畠山:ああ、キャピタルホテル1000ですね。1980年代に「リゾート構想」というのがあって、歌手の千昌夫さんも出資して、高田松原のそばに建てたホテルがあったんです。だから「1000」。彼も陸前高田出身なんですよ。津波の時に4階部分くらいまで波が押し寄せて建物を壊さざるをえなくなっちゃったんだけど、やっぱりもう1回建て直しましょうということになったんです。そこで、市街地が一望できる岬の突端みたいな高台を造成して新築したんですよ。それを眺めていたんですね。

―真新しい建物をじっと眺めて、振り返って手前に戻ってくるカットで映画は終わります。それは監督の意向だとは思うのですが、畠山さんが震災後に出版した写真集『気仙川』のあとがきにある「『後ろを向いたまま』後ずさりするように歩いているような気がする」という記述を思い出しました。

畠山:震災以降、「前を向こう」みたいなことがよく言われていたけれど、僕自身は後ろを向いて、背中を前に向けて進んでいる実感があるんですよ。写真を撮って、暗室でプリントをするというのは過去の時間と付き合っているということですから、後ろを見ているということ。写真家は常に過去と付き合って、今の時間に過去を呼び出す毎日を過ごしています。

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より
『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より

―後ろを向いていると、どこに行くかわからないのではありませんか?

畠山:それは誰にもわからないよ(笑)。今から5分後に何が起こるかなんて、誰にもわからない。断言できない。津波もそうだった。その日の朝まで、あんなことになるなんて誰も思ってはいなかったと思いますよ。みんな会社や学校に行ったり、農作業に行ったりして。午後2時40分くらいにものすごい地震がきて、15~6メートルの波が押し寄せるなんて誰一人想像してないんです。それを言い当てることのできる人は、この世に誰一人いないのよ。

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作品情報

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』

2015年8月15日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・撮影・編集:畠山容平
出演:畠山直哉
配給:CINEMACTION 豊劇 -豊岡劇場-

書籍情報

『ヴァガボンズ・スタンダート04 畠山直哉』
『ヴァガボンズ・スタンダート04 畠山直哉』

2015年3月7日(土)発売
著者:畠山直哉
価格:1,620円(税込)
発行:平凡社

『気仙川』
『気仙川』

2012年9月4日(月)発売
著者:畠山直哉
価格:3,456円(税込)
発行:河出書房新社

プロフィール

畠山直哉(はたけやま なおや)

岩手県陸前高田市出身。大辻清司の影響で写真をはじめ、大学卒業後は東京に移り活動を続ける。出版には1983年の『等高線』、1996年の『ライム・ワークス』『Citta in negativo』など。1997年に写真集『ライム・ワークス』、写真展『都市のマケット』により第22回木村伊兵衛賞受賞。2001年には世界最大の国際美術展である『ヴェネツィア・ビエンナーレ』に日本代表の一人に選ばれている。同年、写真集『アンダーグラウンド』により第42回毎日芸術賞を受賞。2012年、個展『Natural Stories』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2012年『気仙川』、2015年『陸前高田2011-2014』を刊行。

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