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畠山直哉のゆっくり考えるススメ「写真家は過去と付き合う仕事」

畠山直哉のゆっくり考えるススメ「写真家は過去と付き合う仕事」

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:高見知香
2015/08/10

最近は大量の情報が本当にスピーディーに行き交っていますけど、言葉のスピードを落とさないと表れない意味って絶対にあるんですよ。

―映画の中で畠山さんは、「過去について考える」ということをしきりに発言していますね。この映画を見返すことも過去の自分を振り返る経験だと思うのですが、ご覧になってどのような感想を持たれましたか?

畠山:自分を見るのは耐えられないよね。醜い男だな~って思います(笑)。

―いや、でも畠山さんおしゃれじゃないですか。

畠山:ちょっと可愛い服を着たりしてますかね(笑)。僕は普段は対人的な羞恥心や恐怖心をあんまり抱かないほうなんですけど、ああいうふうにカメラに撮られている自分を見ているとさ、「ああ、俺ってこんなふうに見えるんだなあ」って思いますよね。映像になれば、海外で見ることも可能になりますよね。そのときに、海外の観客の視点を想像することも可能になるわけで「極東の島の、東の沿岸でこういう目にあった奴がいるんだなあ」という、遠い話にも見えてきます。僕自身は震災のことを遠い話になったとはまったく思わないけれど、映像になるとすごく遠い出来事みたいな感じもしてくる。

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より
『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』より

―それは映画の中でも言及している、当事者性の問題に関わってくることですね。月並みな言い方ですが、畠山さんが写真をまとめ、文章を書き、映画でインタビューに答えるということの一つひとつが、過去に触れることで当事者性を獲得することとも言えるかもしれません。

畠山:自分一人でモヤモヤと考えを巡らしているだけじゃ不十分で、気持ちを文章に書いてみたり、人と話してみたりすることにはポジティブな部分がありますよね。最近はSNSなんかで大量の情報が本当にスピーディーに行き交っていますけど、ゆっくり喋ってみることで生まれる言葉や意味が絶対にあるんですよ。そうすることで窮屈な概念と概念の間に少し隙間が生じてきて、空気が流れ始める。そうやって頭の熱が少し取れるんです。

―「熱」というのはなんでしょうか?

畠山:震災後に特に強く感じている「じゃあ私はどうしたらいいんだろう?」という強迫的な感じです。今、国会周辺で起こっている動きを見ても、僕たちの国が良くない方向に引っ張られていってしまうんじゃないか? という不安や焦りを感じます。自分たちも行動しなくちゃいけない。そのためにはゆっくりしていられない、というような。安保法制に関しては確かにそうなんですけど、でも、僕にとっての陸前高田のように、時間をかけて考えて、風景を眺めているとね、まずモヤモヤした感情があることに自分で気がつけるし、そこから進むと、切羽詰っていたはずの現実に少し隙間ができて風が流れ始める感覚がある。『気仙川』を出した頃は、未来の風景を思い描くことなどまったくできなかったけれど、時間をかけて風景を眺め、そうやって獲得した自分の言葉が、今になって気持ちを少し楽にしてくれている感じがします。

畠山直哉

―畠山さんは、震災後約4年をかけて撮り続けた写真をまとめた新刊『陸前高田2011-2014』のあとがきで、切実に手に入れたいと願っているのは、昔のような晴れがましい「新しさ」ではないと書いています。「新しくなどなくともよい。ただ『明日』を感じさせるものでありさえすれば」とも書かれていて、それが畠山さんの持っている「未来」の実感のように感じられました。先ほどおっしゃっていた、陸前高田の写真に施した「死化粧」というのは、場所や人のことをゆっくり考えるための時間を、写真に含ませるということではないでしょうか? だからこそ、震災前は絶対に発表しなかったプライベートな写真を使って、昔の陸前高田の風景を見せようとした。

畠山:『陸前高田2011-2014』以前、僕が一か所の撮影だけに4年間集中するなんてことは、なかったんですよね。陸前高田は、自分の生まれ育った場所だから、こうやって時間をかけているんです。これは個人的な事情に立脚した仕事ですから、もう写真がどうのというよりもっと言葉、歴史的なものなんですよ。震災以降、僕の作風が変わったという人がいるけれど、けっして作風なんかの問題じゃないんです。美術史がどうとかアートがどうとか、そういうお話と少し次元が違う、そこからはみ出してるような出来事なんですよね。撮影者がテーマを探して撮りに行けるようなものではない。世間で信じられているアーティストの首尾一貫性とか、そんなことはまあ、置いといていいんですよ。だって、何の気なしに撮っていた写真が、母の遺影になってしまうことがあるんですよ。それが写真というものの1つの側面なんです。それを「作風」として語ることは無意味でしょう? 写真という場所は、一枚岩じゃありません。言葉のスピードを落として、ボキャブラリーを増やして、慎重に話さないとうまく議論ができないことが世の中にはあると思うんです。

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作品情報

『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』

2015年8月15日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・撮影・編集:畠山容平
出演:畠山直哉
配給:CINEMACTION 豊劇 -豊岡劇場-

書籍情報

『ヴァガボンズ・スタンダート04 畠山直哉』
『ヴァガボンズ・スタンダート04 畠山直哉』

2015年3月7日(土)発売
著者:畠山直哉
価格:1,620円(税込)
発行:平凡社

『気仙川』
『気仙川』

2012年9月4日(月)発売
著者:畠山直哉
価格:3,456円(税込)
発行:河出書房新社

プロフィール

畠山直哉(はたけやま なおや)

岩手県陸前高田市出身。大辻清司の影響で写真をはじめ、大学卒業後は東京に移り活動を続ける。出版には1983年の『等高線』、1996年の『ライム・ワークス』『Citta in negativo』など。1997年に写真集『ライム・ワークス』、写真展『都市のマケット』により第22回木村伊兵衛賞受賞。2001年には世界最大の国際美術展である『ヴェネツィア・ビエンナーレ』に日本代表の一人に選ばれている。同年、写真集『アンダーグラウンド』により第42回毎日芸術賞を受賞。2012年、個展『Natural Stories』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2012年『気仙川』、2015年『陸前高田2011-2014』を刊行。

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