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「悲惨な演劇の状況をぶっ飛ばしたい」中屋敷法仁インタビュー

「悲惨な演劇の状況をぶっ飛ばしたい」中屋敷法仁インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:高見知香

芸術の役割の1つは「人間は愚かで、くだらなくて、なんの意味もないヤツらだよ。でも絶望する必要はないよ、それが人間なんだ!」と伝えることだと思っている。

―『天邪鬼』では俳優たちが子どもを演じますが、一方で中屋敷さんは宮沢賢治の童話を題材にした『へんてこレストラン』のように、子ども向けの演劇も作っています。また、全国の演劇部に所属する中高生に向けて、「柿喰う客」の戯曲やDVDを無料で寄贈する「めこちゃん宅配便」という活動もしています。自分より若い世代にコミットする理由はなぜですか?

中屋敷:基本的に「人間は愚かだ」ということを学校では教えてくれないからですね。僕は、芸術の役割の1つは「人間は愚かで、くだらなくて、なんの意味もないヤツらだよ。でも絶望する必要はないんだよ。それが人間なんだ!」と伝えることだと思っているんです。0歳児からを対象にした『へんてこレストラン』は愉快に楽しく見られる演劇ですけど、正直者は報われるといった教訓劇ではなく、ただ愚かなヤツが愚かに終わる。世の中では都合の悪いものは排除されがちだけど、いろんな摩擦がないとわれわれの人生は豊かにならないですから。僕はみんながもっと演劇をやったほうがいいと思っていますし、演劇だけでなく、芸術全般が人生を必ず豊かにすると確信しているんです。

めこちゃん宅配便と柿喰う客のDVD
めこちゃん宅配便と柿喰う客のDVD

―中屋敷さんは、柴幸男さんや杉原邦生さんなど、頭角を現しつつあった若手演出家と共に『キレなかった14才♡リターンズ』(2009年)という公演に参加しています。それぞれが小作品を作るという企画で、その記録集のインタビューで「東京にいる自分は、完全に別の自分を装っている」と発言していますが、ここから、中屋敷さんにとって演劇・演技が特別なものだと推量できます。

中屋敷:小学校から演劇漬けだったとはいえ、故郷の青森なら半分くらいは「演劇をやってない中屋敷くん」でいられるんですけど、東京では演劇に触れてないと、自分が消えちゃうような気がして怖くなります。上京当初は青山学院大学に入学したんですけど、合コンで女の子と喋ったり、テニスサークルでラケットを振っていてもなんの楽しさもないし、自分がだんだん透明になっていく感覚しかなかった。慌てて演劇サークルに駆け込んで、3年次には桜美林大学の演劇科に編入しました。だから演劇をやらずに東京にいる理由がまるでないんですよね。結局、僕の人生には演劇以外存在しないんです……。じつは、お守りとしてピンクパンサーのぬいぐるみを持ち歩いているんですよ。

中屋敷法仁とピンクパンサーのぬいぐるみ
中屋敷法仁とピンクパンサーのぬいぐるみ

ピンクパンサーのぬいぐるみ

―かなり年期の入ったピンクパンサーですね。

中屋敷:本当はもっとデカいピンクパンサーもいるんです。それは高校演劇部の部室にあったもので、上京するときに勝手に持ってきちゃった。

―なぜそんなことを。

中屋敷:東京へ向かう途中で自分が消えてしまう気がして、演劇をやっている自分を忘れないために持ってきたんです。今でもこれがあると部室の風景を思い出して「ああ、俺は演劇やっているんだ」って気持ちになれます。それはシェイクスピアの戯曲本とかでもよくて、とにかく自分と演劇を結ぶものが手元にあると落ち着くんです。

―今のお話を伺うと、子どもが子どものままに生きることをテーマにした『天邪鬼』と、演劇をやり続けるために生きてきた中屋敷さんの姿はダブって感じます。

中屋敷:そうですね。本当に自分なりの大きな必然性に迫られて、ずっと演劇をやってきたんだなと思います。

演劇界の現実は悲惨です。でも「アーティストはお金がなくてかわいそう」で終わったり、業界人同士で傷を舐め合うのでもなく、閉塞した状況をぶっ飛ばすような話をしたい。

―ちょっと話を変えましょう。「柿喰う客」は今年7月、「10万人動員宣言」を立ち上げましたね。なぜ10万人だったんでしょう。

中屋敷:1万人でも100万人でも良かったんですけど、2016年1月で劇団10周年だからっていう直感が1つ。あとは、現実的な数字であるってことですね。

―10万人というと、GLAY10万人ライブみたいな途方もない規模を想像してしまいます。

中屋敷:演劇であれば「劇団☆新感線」さんが1作品で10万人以上動員するので絵空事でもないんですよ。でも「柿喰う客」だけが、同じように10万人動員できるように成長したい、という話でもないんです。もしトップアーティストではない僕らが10万人動員できたとすれば、それはすでに演劇界全体の環境が底上げされて、すごいことになっているのでは? という発想です。

―例えば、あちらこちらの劇団なら、もっとすごい動員数を実現できるかもしれない?

中屋敷:それが現実になれば、演劇がかなりヤバい存在になっている状況ですよね。みんなでそこを目指していこうぜ、ということです。以前と比べて観劇人口がどんどん減っている中で、僕らでも10万人のお客さんを集められるんだということを体感したいんですよ。「柿喰う客」の現在の動員数は、1興行あたりせいぜい5千人くらいですから道は遠いですけど、20倍すれば10万人なわけで、1%でも可能性があるなら目標は高くありたい。演劇で達成目標を示すことは珍しいですけど、最近はアイドルも出しているじゃないですか。

―ありますね。署名が集まったらCDデビューとか。

中屋敷:先に大きな会場を押さえてしまって、「このメンバーで大丈夫か? 曲数も少ないのに!」ってファンもビビっちゃうみたいな。でも、そういう挑発に付き合ったら面白いことが起こりそうじゃないですか。

中屋敷法仁

―そういった理想を掲げるのは、今の演劇には何か足りないものがあると考えているからですか?

中屋敷:演劇界の現実がだんだん明るみになりつつあるんですよね。劇団を維持するために何人動員しなければいけないかとか、俳優が食べるためにどういう仕事をしなきゃいけないかとか。まあ、世の中の人たちがうっすら想像しているとおりの、悲惨な現状です。でも「アーティストはお金がなくてかわいそうですね」で終わるんじゃなく、業界人同士で傷を舐め合うのでもなく、この閉塞した状況をぶっ飛ばすような話をしたい。

―その実感をかたちにするための「10万人動員宣言」なんですね。近年の中屋敷さんの活動は、小劇場的な場所から次第に広がっています。商業性の高いパルコプロデュース公演を行ったり、いわゆる2.5次元ミュージカル作品『ハイキュー!!』のために脚本を書いたりもしている。そういう異なる場所での体験が影響しているところもあるのではないでしょうか?

中屋敷:演劇をやっているからといってどこかのスタイルに偏るのはすごくイヤで、むしろ偏らずにいろんなものにぶつかっていくのが演劇人じゃないかと思っています。『キレなかった14才♡リターンズ』のアフタートークで「僕はパルコ劇場で演出するんだ!」って宣言して、お客さんからは笑われましたけど、3年後の2012年にパルコで演出できましたからね。

―宣言が現実になった。

中屋敷:それも天邪鬼の結果の1つかなあと思います。

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