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「渋谷系」と「日本」のもの作りの共通点 信藤三雄×山口真人

「渋谷系」と「日本」のもの作りの共通点 信藤三雄×山口真人

インタビュー
佐々木鋼平
テキスト:杉原環樹, 撮影:宗村亜登武

グラフィックデザインの仕事って「アイコンを作ること」だと思うんです。アーティストのアイコン、時代のアイコンをわれわれは作っている。(信藤)

信藤:ただ、これまでの話を覆すようだけれど、1996年にラフォーレ原宿で渋谷系のアートワークをまとめた展覧会をやったころから、僕の中でどこか渋谷系は終わったんです。というのも、そのあたりから徐々にPVなどの映像を作る仕事が増えてきて、その関係者たちがやたら「今これが海外で流行っている」と言ってくるわけですね。「過去のあのシーンにこだわりがある」ということであれば、やる意義が感じられたと思うんだけど、話を聞くとそうでもない。そんな引用は僕にとって絶対に嫌だったんです。

山口:リアルタイムで同じものを持ってきたら、劣化版になってしまう。結局は元ネタのほうが質が高いことになってしまいますもんね。

山口真人『yayoi_kusama#2.sample』2013年
山口真人『yayoi_kusama#2.sample』2013年

信藤:それは、僕の考えるサンプリングや引用ではないんです。だから、とくに2000年以降はあまり元ネタを使わずに作品を作っています。

山口:近年は書を扱った作品も手がけられていますね。

信藤:ええ。書に限りませんが、アジアの美術に対する関心は強いです。とくに千利休の「わび茶」にはじまるような日本の美のあり方、作為性を嫌う態度や、そぎ落としの美学といったものは、渋谷系のアートワークとも連続していると思います。もっと言えば、デザインにおけるモダニズムには、広く東洋的な美学の影響を感じる。この間、千葉市美術館にウィーン出身の陶芸家ルーシー・リーの回顧展を観に行ったのですが、そのシャープさや軽妙さ、あるいはポップな可愛らしさに、とてもモダンで東洋的なものを見て感動しました。

山口:たしかに、一般的な西洋の焼き物は、ドイツの「マイセン」など、もっと装飾的でゴテゴテしていますが、リーの作品はミニマルかもしれませんね。ただ、そうしたそぎ落としにもかかわらず、強烈な印象を残し続けるところが、信藤さんの作品のすごいところで。

手前:山口真人、奥:信藤三雄

信藤:仕事をしながら気がついたんだけど、グラフィックデザインの仕事って「アイコンを作ること」だと思うんです。アーティストのアイコン、時代のアイコンをわれわれは作っている。CDジャケットだけではなく、ほかの表現媒体もみんなそうです。

山口:それは、信藤さんの仕事を見ているとすごくよくわかります。アーティストのイメージや時代の空気感と、アートワークが分かち難く結びついていますから。実際それができる人は稀だと思いますし、僕も全然できていないのですが……。ところで、信藤さんにとって渋谷系は終わったとのことでしたが、もっとも東京らしいアーティストを1人挙げるとすれば誰になりますか?

信藤:うーん……、やっぱり小山田圭吾くんかな。自分を前に出したがらないでしょう。シャイというのもあるかもしれないけど(笑)。それは東京独特のものだと思いますね。あとは僕の師匠である、イラストレーターの湯村輝彦さん。二人とも権力に対してヘコヘコするような、媚びへつらうところがなくて、粋な人たちです。江戸の町人文化の気質がある。予想できそうな答えで申し訳ないんだけど(笑)。

山口:なるほど、そういう考え全然ありませんでした。すごく面白い視点です。

近年の日本の状況を見ていると、過去や海外の文化とのつながりが見えなくていい時代だと感じたんです。(山口)

山口:もう一点、「時代」というお話がありましたけど、最近の日本の状況を見ていると、1990年代のころとは文化のあり方が真逆に進んでいる印象を受けます。欧米を中心とした海外文化への関心が低下して、邦楽や邦画、アニメ、漫画など、ドメスティックな文化が流行っていますよね。

信藤:内向きなんだ。映画に関しては洋画のほうが圧倒的に質は高いのに、不思議ですね。

山口真人『Dog(MADE IN TOKYO)』2015年
山口真人『Dog(MADE IN TOKYO)』2015年

山口:東京は明治維新のときから、西洋へのコンプレックスをバネに発展してきた都市だった思うんです。それが1990年代後半から収束してきた感があります。内向きな文化にも魅力はありますし、アキバ系カルチャーとかも普通に面白いとは思うんですが、「それだけが東京なの?」という疑問は結構あります。

信藤:欧米に学ぶべきものが少なくなっているという面もありますよね。

山口:ある程度、西洋に追いついてしまったから、ということですよね。歴史感覚もどんどんフラットになっている気がします。少し前にTwitterで「電気グルーヴはSEKAI NO OWARIのパクリ」という主旨の投稿が話題になったのですが、20数年前から活動しているアーティストが、近年人気のバンドを元ネタにしているという発想がすごいな、と(笑)。時間軸すらも均質化してきている。過去や海外の文化とのつながりが見えにくい、いや、見えなくていい時代なのかもしれませんね。

信藤:たしかに1990年代までは、音楽ならレコード屋のようなアナログな場所で、過去の作品を歴史的に学ぶという体験がありました。でも、今のように配信が主になったら、つながりが見えないかもしれないね。すべてが点に見えちゃうかもしれない。

左から:山口真人、信藤三雄

山口:その意味でもあらためて、多文化を積極的に取り入れてきた東京の姿勢にヒントがあるんじゃないかと思いました。受け入れる器の大きさでいったら世界最強ですよね。東京には、海外や過去のアーカイブから刺激を受けて、それを自分たちなりに再解釈して新しいものを作る精神があるんだと思います。過去の作品やムーブメントを一過性のものとするのではなく、それを「今ここ」に接続する。それって日本人がすごく得意なことだと思うんですね。

信藤:うん。音楽にせよビジュアルにせよ、「あらゆるものは出尽くした」と言われることもあるけれど、そんなことはないでしょう。サンプリングのネタとなる良い音楽、良いグラフィックは、まだまだいろんなところに眠っている。それを探る試みは、変わらず重要です。

山口:今回の展示が、信藤さんをはじめとして、渋谷系の作品から学んだそういった感覚を現代アートとして伝えられるものになったら、とても嬉しいです。

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イベント情報

山口真人新作個展
『MADE IN TOKYO』

2015年8月21日(金)~9月2日(水)
会場:東京都 代官山 GALLERY SPEAK FOR
時間:11:00~19:00(9月2日は18:00まで)
休廊日:8月27日
アーティスト在廊日:8月25日、8月30日、9月2日の15:00~18:00

ギャラリートーク
2015年8月21日(金)18:30~19:00

プロフィール

信藤三雄(しんどう みつお)

アートディレクター、映像ディレクター、フォトグラファー、書道家、演出家、空間プロデューサー。松任谷由実、ピチカート・ファイヴ、Mr.Children、MISIA、宇多田ヒカルなど、これまで手掛けたレコード&CDジャケット数は約1000枚。その活躍はグラフィックデザインにとどまらず、数多くのアーティストのプロモーションビデオも手掛け、桑田佳祐『東京』では、2003年度の『スペースシャワーMVA BEST OF THE YEAR』を受賞。近作に、KEITA MARUYAMAブランドロゴデザイン、LAPLUME(Samantha Thavasa)広告デザイン、「洋服の青山」TV-CF“坂本龍一篇”、三上博史WEBサイトディレクション、等々。

山口真人(やまぐち まさと)

アーティスト / アートディレクター。1980年東京生まれ。法政大学を卒業後、2008年アイデアスケッチを設立。企業のVI、CI、アートディレクション、グラフィックデザイン、WEB、映像制作を手がける。APOGEE、椎名林檎、Rocketmanなど、音楽関係のアートワークやPV制作も多い。2011年より自身のアートワークとして「Plastic Painting」シリーズの制作を開始。『Affordable Art Fair NYC』(2012年)、『Scope Miami Beach』(2013年)など、海外のアートフェアに参加。2014年にGALLERY SPEAK FORにて個展『Plastic Painting』を開催。

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