
『ドローン・オブ・ウォー』に猪瀬直樹が見た未来の呪われた戦争
- インタビュー・テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:豊島望
「ドローン」という言葉を頻繁に耳にするようになったのは1年前くらいからだが、その浸透の速度には目を見張るものがある。無線操作で飛行する無人機であるドローンは、安価で空撮できる撮影機材、あるいはメディアアーティストの開発した舞台美術装置の一部として、既に広く使われている。一方、その急激な浸透に法整備が追いつかず、首相官邸に民間人が操縦するドローンが着地するなど、問題も少なくない。アメリカなど主要国の軍隊では、無人戦闘機としてのドローンが積極的に使用され、敵国の偵察だけでなく、テロリストの暗殺にも使われているという。プライバシーや人権の問題にも関わるこれらのドローン使用は、特に欧米で社会問題化している。
そのような背景を踏まえた映画『ドローン・オブ・ウォー』は、イーサン・ホーク演じるアメリカ軍兵士を主役にした物語だ。戦闘機パイロットだった主人公は、アメリカ国内の基地でドローンを遠隔操作し、約1万キロも離れた異国のテロリストをモニター越しに殺害する任務を繰り返す中で精神の均衡を失い、徐々に現実と虚構が混濁した危うい境界へと踏み込んでいく。作家にして元都知事でもある猪瀬直樹は、同作をいち早く鑑賞した一人だ。これまで日本の近現代史を再検証する優れた仕事を数多く行ってきた彼には、『ドローン・オブ・ウォー』が描く新たな戦争はどのように映っただろうか。
※本記事は『ドローン・オブ・ウォー』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。
テクノロジーの発展によって戦争の風景が変化するというのは過去の歴史を見れば明らかです。その過程の一側面を『ドローン・オブ・ウォー』は描いている。
―まもなく公開される『ドローン・オブ・ウォー』は、無人戦闘機を遠隔操縦するアメリカ兵が主役の映画です。猪瀬さんは日本での公開が決まる以前からかなり期待されていたと聞きましたが、どのようなところに興味を持ったのでしょう?
猪瀬:テクノロジーの発展によって戦争の風景が変化するというのは過去の歴史を見れば明らかで、その過程の一側面を『ドローン・オブ・ウォー』は描いている。そこに興味を持ったんです。
―たしかにここ数年、無人戦闘機「ドローン」を使った偵察や暗殺というのは、海外で大きな問題になっていますよね。
猪瀬:日本でもヘリコプター型のドローンが首相官邸の屋上に着陸した事件は記憶に新しいですよね。次のシンギュラリティ(技術的特異点)は人工知能の登場であると予想されている。つまりこの映画は、戦争が無人化していく寸前の時代を描いているんです。『ターミネーター』って映画を覚えていますか?
―アーノルド・シュワルツェネッガーが未来から送り込まれたサイボーグ兵士に扮するSFですね。今年、リブート映画も公開されました。
猪瀬:あれが1984年公開だから約30年前。そう考えると、アメリカの未来への知見は鋭いですよね。人工知能とGPSの発達で、車の自動運転の実現もまもなくでしょう? 実際、追突しそうになったら自動でブレーキがかかる機能も実装されている。
―車の自動運転は次の経済的鉱脈と考えられていますね。トヨタなど自動車会社が、ロボット開発の技術を投入して研究を進めているそうです。
猪瀬:でも、その開発は必ずしも日本がリードしているわけではないでしょう。やっぱり軍事に関わる国が、そういった技術革新も一番進んでいる。9.11以前、アメリカの戦費は年間30兆円だったのが、この10年で60兆円に高騰した経緯があるのですが、インターネットが最初は軍事技術として研究されていたように、軍事に関わるテクノロジーというのは、採算を度外視して研究開発することができる。つまり軍事には、未知のものをどんどん呼び込んでいく力があるんです。
作品情報

- 『ドローン・オブ・ウォー』
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2015年10月1日(木)からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開
監督・脚本:アンドリュー・ニコル
出演:
イーサン・ホーク
ブルース・グリーンウッド
ゾーイ・クラヴィッツ
ジャニュアリー・ジョーンズ
配給:ブロードメディア・スタジオ
プロフィール
- 猪瀬直樹(いのせ なおき)
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作家。1946年、長野県生まれ。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で96年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人等の廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路公団民営化推進委員会委員に任命される。その戦いを描いた『道路の権力』(文春文庫)に続き『道路の決着』(文春文庫)が刊行された。06年10月、東京工業大学特任教授、07年6月、東京都副知事に任命される。2012年12月、東京都知事に就任。2013年12月、辞任。