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『ドローン・オブ・ウォー』に猪瀬直樹が見た未来の呪われた戦争

『ドローン・オブ・ウォー』に猪瀬直樹が見た未来の呪われた戦争

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望

多くの人が歴史を知らなさすぎるし、興味もなさすぎる。平和を訴えるのに、そこにどういう歴史があったのかを知らずにいるのは空疎ですよ。

―猪瀬さんはしばしば「戦後日本=ディズニーランド」という指摘をしています。それは紛れもない事実だと思いますが、昨今の安倍政権の強硬な政治姿勢などに状況の変化を感じている国民は少なからずいるのではないでしょうか? だからこそ、国会前にあれだけ多くの、広い世代の人々が集まってデモ運動を行っている。

猪瀬:問題になっている安全保障法案にしても集団的自衛権にしても、実際のところ世界から日本に期待されているのは、アメリカの補助ですよ。ですから、例えば『ドローン・オブ・ウォー』で描かれているような戦争状態には日本はならないと思います。

―すると、ディズニーランド的な日本はこれからも残り続ける?

猪瀬:アメリカ全体の戦略の中に日本も組み込まれていますからね。日本が単独で全てを賄えるような軍事費を捻出しようとすれば20兆円規模になってしまう。現在の日本の年間軍事費がGDPの1%にあたる5兆円で、それではとても足りないわけです。安倍さんは一連の政策をあたかも自分で考えているように言っているけれど、アメリカから要求されたので受け入れるしかなかったというのが事実だと思います。日本は戦争に負けて、軍隊を解体させられて、独自に軍隊を持っちゃいけないと言われた。けれども朝鮮戦争が勃発して、中国やソ連に対する「反共の防波堤」(共産主義国家を牽制する役割)になれと言われてやってきただけ。今回の集団的自衛権の議論も、アメリカの戦略配備のうちどのくらいを分担するかという話にすぎないと私は思います。日本は主権が制限されているんです。

猪瀬直樹

―そうですね。

猪瀬:無理して自立したところを見せようと思って、やられてしまったのが太平洋戦争。だから戦後は、アメリカにくっついていたほうがコストがかからなくていいという発想になったわけですよ。EUの場合、イギリスもフランスもイタリアも人口はだいたい6000万人くらいで日本の半分でしょ。ドイツが8000万人くらい。でもNATO(北大西洋条約機構)として結束できるから、アメリカや中国に対抗できる。でも日本は孤立しているから、やはりどこかでアメリカと同盟関係を結んでいかなれば立ち行かないです。

―その限られた選択肢の中で国の行き先を考えなければいけないことを考えると、しんどいですね……。

猪瀬:そこで問題になってくるのがやはり、70年間ディズニーランドに居続けてしまったことなんですよ。どうしても日本人が戦争を考えようとすると『宇宙戦艦ヤマト』の世界になっちゃうんだよね。

―戦争をファンタジーの中でしか描けないということでしょうか?

猪瀬:例外的に沖縄には存在しているけれど、戦争を考えるためのリアリティーがないわけです。リアルを掴めれば、国家間の諸関係の中でどのくらいまでやっていいのか、あるいはいけないのかの見極めができる。でも、国民はいわゆる「抑止力」の概念をわかってないでしょ。これだけの軍備を持っているぞと示すことで、戦争を起こさないようにするのが抑止力だから。

『ドローン・オブ・ウォー』 ©2014 CLEAR SKIES NEVADA,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

『ドローン・オブ・ウォー』 ©2014 CLEAR SKIES NEVADA,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
『ドローン・オブ・ウォー』 ©2014 CLEAR SKIES NEVADA,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

―つまり軍事力の所有を前提としている。

猪瀬:アメリカとソ連が核兵器をお互いに持っていることが抑止力となって、冷戦が成立した。今回の集団的自衛権も、「アメリカと日本が組んでいますよ」という外国へのプレゼンテーションでもあって、そうすることで中国やロシアへの牽制にもなる。見せることで国家間のバランスを保つ。そういう抑止力の存在を、日本人はディズニーランドにいるからわからないんです。

―しかしその一方で、今も国会前でデモが行われています。いささか純粋でナイーブすぎるアクションかもしれないけれど、平和を希求する気持ちは誰にでもあるものです。

猪瀬:デモ自体を否定はしません。でも、多くの人があまりにも歴史を知らなさすぎる。岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』(御前会議で降伏が決まってから玉音放送がラジオで放送されるまでの、終戦の一日を描いた作品)が8月15日にNHK-BSで放送していたでしょう。今年、そのリメイク作品が公開されたので渋谷の映画館に行ったんだけど、客席に白髪の混じった観客しか見えないんだよね。

―若い人がいない。

猪瀬:映画館の様子と、若者たちの歴史に対する無関心を直接結びつけるのは拙速だけれど、やっぱり歴史を知らなさすぎるし、興味もなさすぎる。平和を訴えるのに、そこにどういう歴史があったのかを知らずにいるのは空疎ですよ。僕だって戦後生まれだから、今まで話したようなことを本当には知り得ない。でも、例えば岡本喜八の映画を何度も見たり本を読むことで、だんだんと歴史がわかってくるわけですよ。

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作品情報

『ドローン・オブ・ウォー』

2015年10月1日(木)からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開
監督・脚本:アンドリュー・ニコル
出演:
イーサン・ホーク
ブルース・グリーンウッド
ゾーイ・クラヴィッツ
ジャニュアリー・ジョーンズ
配給:ブロードメディア・スタジオ

プロフィール

猪瀬直樹(いのせ なおき)

作家。1946年、長野県生まれ。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で96年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人等の廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路公団民営化推進委員会委員に任命される。その戦いを描いた『道路の権力』(文春文庫)に続き『道路の決着』(文春文庫)が刊行された。06年10月、東京工業大学特任教授、07年6月、東京都副知事に任命される。2012年12月、東京都知事に就任。2013年12月、辞任。

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