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究極の響きを知ってる? 音楽家・林正樹と建築家・青木淳に訊く

究極の響きを知ってる? 音楽家・林正樹と建築家・青木淳に訊く

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:中村ナリコ
2015/09/02
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楽譜上正しいものが面白いものではないんだなって考えるようになりました。音符通りに正確に弾くことと、気持ちのいい演奏は違う。(林)

青木:『Pendulum』はどこでレコーディングしたのですか?

:レコーディングに使用したピアノの持ち主でもある、狩野さんという調律師の方の工房で行いました。

―その場所を選んだ理由は?

:「いい音を録るには、どこがいいのだろう?」と考えた時、ひとつはやはり設備の整ったレコーディングスタジオだと思うんですが、そういうところで録ると意外と味気ないものになってしまうこともあるんです。音の広がりや質感などの可能性を求めていくと、レコーディングスタジオとは違う場所も面白いんじゃないかと。それで今回は工房で録ってみました。そうすると、その場ならではの要素が加わってくるんですよね。

―外の世界と完全に遮断されたレコーディングスタジオとは全く違いますね。

青木:打鍵の音やペダルを踏む音も聴こえますよね。

:そうなんです。さっきの和楽器の話にも通じますが、そういう雑音も含めた楽器の音が好きなんですよね。楽器から出た音をマイクで録る際、空気を通過する時点で、少なからずその場の音も一緒に録ることになる。そういうのも含めて、「空間の響き」を残したいなと。

―それにあわせて、弾き方なども変わってくるものですか?

:最近、楽譜上正しいものが面白いものではないんだと考えるようになりました。音符通りに正確に弾くことと、気持ちのいい演奏は違う。正確なものが気持ちいいんだったら、機械に演奏してもらうのが心地いいはずなんですけど、やっぱりそれでは味気ないですからね。あと最近は、演奏している時に、ふたつの自分を置くようにしていて。客観的な自分も常に置いておきながら、好きなように遊ぶ自分もいるというか、そういう二面性を考えるようにしているんです。


建築家によっては、「人を感動させよう」と思って設計する人もいるわけですよね。でも、それって暑苦しい(笑)。(青木)

―青木さんは、音楽ホール以外の建築を手がける時も、空間に生じる音の響きの心地よさを、意識されているのでしょうか。

青木:難しいんですけどね。というのは、視覚的な心地よさと聴覚的な心地よさはまた別のものなので。僕たち建築家は、どちらかと言えば視覚的な部分で設計しているわけですね。でも、視覚的な心地よさを求めて作った空間が、聴覚的にはすごく心地悪くなってしまうこともあって。例えば「ニュートラルな部屋」を作ろうと思うでしょう? そうすると、パッと思いつくのが堅い壁で囲まれたシンプルな正方形の部屋なんですけど、音としては響き過ぎてしまってよくない。

:なるほど。確かにそうですね。

青木:ただ、「間」と言われたことで思ったのは、例えば「空間」という言葉自体、ヨーロッパでは19世紀くらいまで使われなかったんじゃないかと思うんですね。基本的に僕たちが見ているのは、柱であったり床であったりして、「間」や「空間」というものを目で確認することはできない。物でなくて、その「間」という概念は、かなり新しいものだと思いますね。建築の中で最も大切なのは、柱でも床でも天井でもなく、空間であるということは、ある意味では大発見なんです。それによって建築を、ある意味では「抽象化」できたからです。だから、「間」とか「空間」というのは、とっても深いテーマだと思います。

左から:林正樹、青木淳

―先ほどの「中心がない」という話とも繋がってきますね。

:確かにそうですね。中心がない曲は、あえてそうしています。例えばアルバムに収録された“Teal”という曲は、決められたフレーズはあるものの、はっきりとしたメロディーはないんです。だけど、曲が持っている強さがしっかりあると思っていて。“Teal”を作曲してから、自分の曲調もだいぶ変わってきましたね。ある種、ちょっと抽象的なものを音楽にできたので、とても気に入っている作品です。

―「かなしい曲」とか「楽しい曲」とか、一方向の感情だけを想起させるのではない、様々な感情がかき立てられる音楽ということでしょうか。

:そうですね。ある時から風景とか具体的なものを曲にする恥ずかしさみたいなものがあって、もっと音そのものを志向するというか。「音楽そのものでありたい」という気持ちがあるのかな。

青木:何か強烈なメッセージがあるわけでもなく、何かを表現したものでもなく、ただ「音楽」としてそこにある。もちろん音楽だから、構成もあるでしょうし、構築もされているのでしょうけど、それを感じさせず、先ほど話した川の流れのように、様相として現れてくる音楽がありますよね。ピアノでいろんな音を出せる中から、そのタイミングにあう音を選んできて、音楽という場ができているように感じます。

―それは、建築にも通じそうですね。お二人の作品は似ているのかなと思いました。

青木:そんな気がしてきました。建築家によっては、「人を感動させよう」と思って設計する人もいるわけですよね。でも、それって暑苦しい(笑)。一度だけ足を運ぶならいいけど、毎日訪れるような場で、そんな建築を作られたら嫌でしょう? そうではなくて、その空間が持っている何らかの特徴や感覚があればいい。

左から:林正樹、青木淳

―建築物に人が訪れたり、暮らしたりすることによって更新されていく部分もありますよね。

青木:そうですね。建築の場合は、その空間が使われるということが目的ですから。使われることで変わっていく、時間の中で経年変化していく、朽ちていったりとか、季節による変化だったりとか。あるいは暮らしてみることで改良したり補修したり。固定したものではなく、その状況が建築だと思います。

:これまで僕は、コンサートホールだけじゃなく、ライブハウスやカフェ、廃校になった小学校、お寺、教会など、いろいろな空間で演奏をしているのですが、中でもカフェでピアノを弾くことがとても楽しくて。普段の使われ方から湧き出る高揚感とか、空間が持っているエネルギーみたいなものを感じるんです。

―喧騒も含めたエネルギーなのですかね?

:そういうことも関係していますよね。最近、夢のひとつとして、将来、自分で音楽を発信する場を自分で作れたらいいなと思っています。いろんな場所で演奏してきて、東京でもいい場所はたくさんあるんですけど、「ここが理想だ!」っていう場が、身近に使えるところではないんですよね。だったら、いつか自分で作りたいなって。

青木:何人くらいのキャパを想像しているんですか?

:楽器そのものの音を聴いていただくのが理想なので、50~60人くらいですかね。ぜひ青木さんに建てていただきたいので、その時は相談させてください(笑)。

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リリース情報

林正樹 『Pendulum』(CD)
林正樹
『Pendulum』(CD)

2015年9月2日(水)発売
価格:3,100円(税込)
SPIRAL RECORDS / XQAW-1108

1. Flying Leaves
2. Bluegray Road
3. Initiate
4. Kobold
5. Teal
6. Shadowgraph
7. Paisiello St.
8. Ripple
9. Thirteenth Night
10. Butt
11. Jasper
12. Pendulum

イベント情報

SPIRAL RECORDS presents
『Special Showcase Live 2015「touch to silence」』

2015年9月23日(水・祝)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:東京都 表参道 スパイラルホール
出演:
丈青(Pf)with 秋田ゴールドマン(Ba)、Fuyu(Dr)
林正樹(Pf)with Fumitake Tamura a.k.a Bun(Electronics)、Antonio Loureiro(Vib,Vo)
藤本一馬(Gt)with 林正樹(Pf)、橋爪亮督(Sax)
Lounge DJ:
柳樂光隆
山本勇樹
出店:
TOKYO FAMILY RESTAURANT
HMV
料金:前売4,800円

プロフィール

林正樹(はやし まさき)

1978年東京生まれ。少年期より独学で音楽理論を学び、その後、佐藤允彦、大徳俊幸、国府弘子らに師事。ジャズピアノや作編曲などを習得。大学在学中の1997年12月に、伊藤多喜雄&TakioBandの南米ツアーに参加。音楽家としてのキャリアをスタートさせる。現在は自作曲を中心とするソロでの演奏や、生音でのアンサンブルをコンセプトとした「間を奏でる」、田中信正とのピアノ連弾「のぶまさき」などの自己のプロジェクトの他に、「渡辺貞夫カルテット」、「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」、「Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestra」など多数のユニットに在籍。演奏家としては、長谷川きよし、小野リサ、椎名林檎、古澤巌、小松亮太、中西俊博、伊藤君子をはじめ、多方面のアーティストと共演。

青木淳(あおき じゅん)

1956年神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院修士課程(建築学)を修了後、磯崎新アトリエに勤務。「面白いことなら何でも」しようと、1991年に青木淳建築計画事務所を設立。その通り、これまでの作品は住宅、公共建築、一連のルイ・ヴィトンの店舗に代表される商業施設など多岐に渡る。プール施設「遊水館」(1993年)は、その後のプロジェクトにつながるテーマを引き出し、『日本建築学会作品賞』を受賞した「潟博物館」(1997年)、そして「青森県立美術館」(2006年)へと続く。主著には2004年10月、初の作品集として刊行された『青木淳 Jun Aoki Complete Works |1|』(INAX出版)及び文章をまとめた『原っぱと遊園地』(王国社)など。2004年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

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