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『東京オリンピック』に向けて、アートや社会学ができること

『東京オリンピック』に向けて、アートや社会学ができること

芸術公社プロデュース『レクチャーパフォーマンス・シリーズ』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:田中一人

「街おこし」のためのアートプロジェクトが各地に立ち上がり、社会問題にアーティストが進んで言及することが珍しくなくなった昨今。「アートと社会のつながり」というと聞こえはいいが、税金を投入したアートプロジェクトの乱立に比して、その内実が検証される機会は少ない。アートプロデューサー、相馬千秋が2014年に設立したNPO法人「芸術公社」は、この関係性のあり方をあらためて問うとともに、『東京オリンピック』に向けて、アートプロジェクトのオルタナティブなモデルをいくつも模索、展開してきた。

その「芸術公社」の新企画『レクチャーパフォーマンス・シリーズ』が2月より開催される。この機会に今回は、相馬に加え、アートの「社会」の扱い方に疑問を抱き、学者やアーティストが意見交換をする「社会の芸術フォーラム」を立ち上げた社会学者の北田暁大に、お互いのアートへの認識を語ってもらった。より多様な視点を社会に与えるために、アーティストやアート関係者に求められる態度とは何なのか。二人の話に耳を傾けてほしい。

「芸術と社会をつなぐ」という、フワッと語られがちな事柄を、もう一度、解像度を上げて見る必要がある。(相馬)

―国際舞台芸術祭『フェスティバル/トーキョー』(以下『F/T』)でディレクターをつとめられた相馬さんが、『F/T』を離れ、2014年に立ち上げたのが「芸術公社」です。その設立にはどんな背景があったのでしょうか?

相馬:『F/T』もそうですが、いま多くのアートイベントには、公的なお金が投入されています。その予算や開催数は、2020年の『東京オリンピック』まで、確実に増え続けるでしょう。では、本来的には個人に立脚するアートという営みを、公的資金を使って提示することにはどんな意味があるのか? そこでは当然、社会との軋轢が生まれる場合もあります。たとえば、ある現実に対して、単一的ではない複数の見方を複雑なまま提示できるのがアートなのに、社会の一番ヒリヒリした部分に触れた途端、規制が入ることは少なくない。その状況を変えるには、「芸術と社会をつなぐ」というフワッと語られがちな事柄を、もう一度解像度を上げて見る必要があると思ったんです。

左から:相馬千秋、北田暁大
左から:相馬千秋、北田暁大

―検証なきアートの過剰状態があるということですか?

相馬:ええ。いま各地で「地域おこし」に芸術文化が使われることが常態化しています。そのおかげでアーティストの発表機会が増え、アートの雇用が拡大すること自体は悪いことではありません。しかし実際には、同じようなアーティストやスタッフが、同じようなプロジェクトを各地で展開している面もあるのではないでしょうか。またその評価基準も「祝祭性」に偏っていて、動員数やメディア掲載数が中心になっている。別の指標や作品そのものの価値についての議論はあまりにもなされていない。こうした状況に対して、別のパラダイムを仕掛けていきたいというのが、芸術公社の根底にあります。

アートが社会の外側にある「特別なもの」のような発想自体をやめないと。(北田)

―一方、北田さんが共同代表をつとめる「社会の芸術フォーラム」は、同じ「アートと社会のつながり」という漠然とした問題を、社会学の立場から言葉にするための活動と言えますね。1つの問いに対して、2つのプロジェクトが別々の立場から動き出したのが興味深いです。

北田:千葉大学教授の神野真吾さん(芸術学)や、アート団体「CAMP」の井上文雄さんらと「社会の芸術フォーラム」の準備をしているときに「芸術公社」を知り、心強く感じました。われわれの動機としては、アートで語られる「社会」や「公共性」なる言葉が、社会学とはだいぶ違う文脈で使われていることへの違和感があったんです。たとえば、地域系アートイベントに参加するアーティストの「社会」への眼差しが単純だと、作品がその地域において提示される理由がわからくなるし、ときとして「問題」を生み出すこともある。そこで、アート側と社会科学側が互いの考え方を交差できる場として、フォーラムを立ち上げたんです。どっちが「上」という立場ではなく。

芸術公社メインロゴ
芸術公社メインロゴ

社会の芸術フォーラム メインロゴ
社会の芸術フォーラム メインロゴ

―「社会と芸術」ではなく「社会の芸術」フォーラムとしたのは?

北田:アートという実践、制度もひとつの社会だからです。アートが社会の外側にある「特別なもの」のような発想自体をやめないと。作品の意味を経済や法や科学に還元しないことは重要ですが、無縁ではないんですよね。その観点からすると、アートは他の社会領域との関わりに無防備な感じがする。

―社会からはみ出している「自由で特別なもの」がアートなんだ、という考えは、アート関係者にも少なからずあるような気がします。

北田:社会学者が地域研究をする際は、「地域は複雑で、容易な理解を許さない」という前提から入るんですが、一方、アートではある地域を単層的に捉え、そこにある経済や権力の構造に無頓着な場合が多いと感じます。これでは善意で介入しても、逆に、その地域の既存の権力構造に加担してしまうことにもなりかねない。

相馬:昨今の地域アートプロジェクトに感じるのは、地域のニーズに合わせるだけなら、コンサルタントや広告代理店が手がける「街おこしイベント」となにが違うのか? ということです。政治や経済、ジャーナリズムは、事前のアジェンダに沿って物事を進めるものだと思いますが、アートは着地点が見えない状態で進むもの、むしろその過程に価値を与えられる唯一と言っていい領域だと思います。実際、優れたアーティストほどリサーチや対話といった制作プロセスのなかで自分を疑い、自身や作品を変化させることができる存在だと感じます。その結果、たとえ地域のニーズを一時的には裏切ったとしても、もっと長いスパンで、未来に向けた問いを投げかけられるのがアートではないでしょうか。アーティストがインサイダーになってしまったら、批評性は生まれません。作り手がいかに対象と距離をとれるかが重要だと思います。

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イベント情報

芸術公社プロデュース『レクチャーパフォーマンス・シリーズ』

Vol.1 ロルフ・アブデルハルデン / マパ・テアトロ(コロンビア)
『廃墟の証言』
2016年2月4日(木)~2月6日(土)19:00開演(6日のみ17:00開演)
会場:東京都 芝浦 SHIBAURA HOUSE
料金:一般前売2,500円 当日3,000円 2演目セット券4,000円(枚数限定)

Vol.2 チェン・ジエレン(台湾)
レクチャーパフォーマンス版『残響世界』
2016年2月16日(火)~2月18日(木)19:00開演
会場:東京都 芝浦 SHIBAURA HOUSE
料金:一般前売2,500円 当日3,000円 2演目セット券4,000円(枚数限定)

※2公演とも、毎公演終演後にアーティストと観客の対話の場「コモンズトーク」を開催

関連企画
映像上映『残響世界』

2016年2月12日(金)~2月26日(金)
時間:11:00~、13:00~、15:00~、17:00~
会場:東京都 虎ノ門 台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
料金:無料

社会の芸術フォーラム
『シンポジウム02|都市と祝祭』(仮)

2016年3月13日(日)14:30~18:30(予定)
会場:東京都 本郷 東京大学本郷キャンパス 安田講堂
企画・コーディネート:相馬千秋

プロフィール

北田暁大(きただ あきひろ)

1971年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。社会学、メディア論。博士(社会情報学)。広告や映画館などのメディア史分析、社会学的な行為理論、責任論などを軸として研究を進めてきたが、近年は、再度「社会(学)にとって社会調査とはなにか」という社会学の基礎的問題に、理論的・実証的両側面から取り組んでいる。『意味への抗い』『責任と正義』『増補・広告都市東京』『嗤う日本の「ナショナリズム」』など。

相馬千秋(そうま ちあき)

アートプロデューサー。これまで、国際舞台芸術祭『フェスティバル/トーキョー』初代プログラム・ディレクター(『F/T09春』~『F/T13』)、横浜の舞台芸術創造拠点「急な坂スタジオ」初代ディレクター(2006-10年)、文化庁文化審議会文化政策部会委員(2012-15年)等を歴任。2014年仲間とともにNPO法人芸術公社を立ち上げ代表理事に就任。国内外で多数のプロジェクトのプロデュースやキュレーションを行うほか、アジア各地で審査員、理事、講師等を多数務める。早稲田大学、リヨン第二大学大学院卒。

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