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「自分で歌う」を選んだワケ 傑作を生んだ蓮沼執太インタビュー

「自分で歌う」を選んだワケ 傑作を生んだ蓮沼執太インタビュー

蓮沼執太『メロディーズ』
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:森山将人

自分は「これエラーでしょ」と思っても、相手にとってエラーじゃないものってたくさんあるだろうから、要は視点をいくつか用意するということなんですよね。

―“起点”に関しては、デザイナーの大原大次郎さんとイルリメさんとのユニット、TypogRAPyのバージョンが先行で配信されていましたね。

蓮沼:TypogRAPyは大原さんのプロジェクトで、文字や音楽やグラフィックを、普段とは違う側面から見てみようという試みで、たとえばペンで文字を書いた音に言葉を当てはめたりとか、様々な方法を探るように楽曲を作っているんです。で、ニューヨークにイルリメさんが遊びに来てくれたときに、「俺ら普通の曲の作り方したことないね」という話になって、「じゃあ、僕がメロディーから作ってみます」って言って作ったのがこの曲でした。そこにイルリメさんが、歌詞とラップを入れてくれて完成したので、このアルバムの中では一番最初にできた曲ですね。ビルボードでやったシンプルなバンドアレンジも好きだったので、アルバムでは僕が歌ってるんですけど、せっかくだから二人をお呼びして録音したバージョンも作って配信リリースしたんです。

―TypogRAPyのインタビューを読ませていただいたんですけど、「万人に向けて標準化されたものではないけれど、上手いところも下手なところも踏まえ、自分の癖というものにも向き合った上で、意図的に強いものを出している」というお話が印象的でした。今回蓮沼さんが全編で歌っていることも、自分の癖と向き合った上で音楽にするチャレンジのようにも思えたのですが、そういった意識はありましたか?

蓮沼:最近U-zhaanと即興のパフォーマンスをやってて思うんですけど、タブラという打楽器は、強いリズムと美しい純粋な音色が共存してるんですよね。そう考えてみると、声というのもリズムの音色化なんですよ。そして自分の声にはレンジがあり、限界もあって、そもそも癖だらけなんです。僕は、いつもはコンピューターとかフィールドレコーディングから音楽制作をスタートしていることが多いので、マイクの向けた先は無限だったんですけど、今回は自分の声を起点にしているわけで、かなり癖だらけのことをやっているんですよね。その癖やエラーは面白いと思ってやっていました。

蓮沼執太

―現代の音楽はそういった癖やエラーを非音楽的なものとして排除しがちだと思うんですけど、そこにこそ豊かさがあるんだという提示になっているようにも思いました。

蓮沼:僕はどんなことをやっていても、ノイズや誤解や間違いとか、偶然に起こることも受け入れるようにしているので、癖というのはそことも似てますね。たとえばフィルの場合、大枠のヘッドアレンジを決めて、「あとは自由にやってください」みたいなこともやるんですけど、そうすることで自分が思い描いてなかったものが出てきたときも、それを自分のものとして受け入れて作るということをやってるので、免疫があるというか(笑)。シンセサイザーやコンピューターでサウンドを作っていても、僕がいいと思う音はいつもエラーや偶発でできたものですし。

―確かに、そういうノイズを受け入れる感覚というのは、蓮沼さんの作品に常に通底しているもののように思います。

蓮沼:そうですね。ノイズという考え方も時代によって変化していく概念ですけど、どんな人が作品に触れるかわからないじゃないですか? 自分は「これエラーでしょ」と思っても、相手にとってエラーじゃないものってたくさんあるだろうから、要は視点をいくつか用意するということなんですよね。何でも固定観念で考えがちですけど、「そうじゃない作品があってもいいよ」っていうのは常に意識してるので、今回の作品にもそれが表れているのかもしれないです。この意識は何も音楽に限った話ではないですが。

シンガーソングライターやラッパーのように、言葉とメロディーでメッセージを伝えるというよりは、言葉の意味や響きも含めて「作曲をしてる」という感じが強いです。

―またちょっと別の言い方をさせてもらうと、さきほど「こだわっているのは変わらず音響的な部分」というお話がありましたが、それを踏まえた上で、本作を「シンガーソングライター蓮沼執太の作品」と言うことはできますか?

蓮沼:いわゆるシンガーソングライターの方と同じ土俵に上がっても十分強度がある作品を作ってるつもりだし、作った作品に対しては自信もあるので、「僕はシンガーソングライターじゃないんで」みたいなことは言いたくないですね。ただ、音楽の作りとしては、シンガーソングライターではないんですよ。って、いきなり矛盾したこと言ってますけど(笑)。やっぱりシンガーソングライターの人っていうのは、歌で想いや思想を届ける、伝えるという部分が大きくあって、音楽と言葉が密接ですよね。むしろそれらがひとつに近い。僕にはそういう考えはなくて、曲やメロディーを作って、その上に言葉で意味を乗っけている感じなので、「思いを伝える」という点では勝てない。

―とはいえ、日本語で歌詞を書かれているわけで、そこには何らかの想いがあるんじゃないかと思うんですね。例えば、イルリメさん作詞の“RAW TOWN”には「国会議事堂」、蓮沼さん作詞の“ハミング”には「シュプレヒコール」っていう言葉が出てくるあたりに、時代性も感じました。

蓮沼:“RAW TOWN”に関しては、イルリメさんと一緒にフィールドワークをして作りました。東京駅で待ち合わせをして、移動しながら、イルリメさんは言葉を書いて、僕は写真を撮ったり、フィールドレコーディングをしたり、終着地を決めずにいろんな順番で東京を旋回して、それがそのまま歌詞になってるんです。

―ではやはり、メッセージや時代性を意識したわけではない?

蓮沼:イルリメさんは、そこまで社会的というわけではないですけど、思想やポリシーがある方なので、僕にとって影響は大きくありますね。それに、リズムと言葉の関係性を僕以上に追求される方ですし、僕はいつも尊敬の眼差しで見ています。僕の場合は、メロディーに言葉が乗っても、それは音なんですよね。シンガーソングライターやラッパーのように、言葉とメロディーでメッセージを伝えるというよりは、言葉の意味や響きも含めて「作曲をしてる」という感じが強いです。

―「伝えたいメッセージ」というのとはまたちょっと違うとは思うんですけど、蓮沼さんの歌詞のキーワードになっているのは、やはり「時間」なのかなと。

蓮沼:そうですね。やっぱり、音楽で表現をする人間は、どうしても時間に縛られますからね。ただ、それを羨ましいと思う人もいて、たとえばペインターさんは音楽に憧れるんですよ。ライブや現前性がそこにあるから。でも、音楽家はその時間と絶えず争ってもいるわけで、ゆっくり一枚の絵を仕上げるペインターさんが羨ましくも見える。まあ、隣の芝生は青く見えるという話なんですけど、やっぱり僕は時間にまつわることで音楽を作ってるので、詞を書くときも、「それってどういうことなんだろう?」っていうのが出てくるんですよね。

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リリース情報

蓮沼執太『メロディーズ』
蓮沼執太
『メロディーズ』(CD)

2016年2月3日(水)発売
価格:3,024円(税込)
B.J.L. / AWDR/LR2 / DDCB-13031

1. アコースティックス
2. 起点
3. フラッペ
4. RAW TOWN
5. ハミング
6. テレポート
7. クリーム貝塚
8. ストローク
9. ニュー
10. TIME

イベント情報

『蓮沼執太『メロディーズ』発売記念 ミニLIVE & サイン会』

2016年2月29日(月)START 20:00
会場:東京都 渋谷 タワーレコード渋谷店 8F Space HACHIKAI特設ステージ

『蓮沼執太メロディーズ・ツアー2016』

2016年3月19日(土)OPEN 11:00 CLOSE 21:00
会場:北海道 札幌 芸術の森 アートホール
出演:
青葉市子
Koji Nakamura
sleepy.ac
DJみそしるとMCごはん
蓮沼執太
MODELS
and more

2016年3月26日(土)
会場:福岡県 ROOMS

2016年4月24日(日)
[1]OPEN 15:30 / START 16:30
[2]OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京都 六本木 Billboard Live TOKYO

『森、道、市場2016』
2016年5月13日(金)~5月15日(日)
※5月13日は前夜祭
会場:愛知県 蒲郡市 大塚海浜緑地
出演:
SPECIAL OTHERS
ペトロールズ
トクマルシューゴ
水曜日のカンパネラ
蓮沼執太
MOODMAN
Yogee New Waves
水中、それは苦しい
中山うり
and more

2016年5月21日(土)
会場:大阪府 クリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)

プロフィール

蓮沼執太
蓮沼執太(はすぬま しゅうた)

1983年東京都生まれ。音楽作品のリリース、蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演、コミッションワーク、他ジャンルとのコラボレーションを多数制作する。また近年では、作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、サウンド、立体、インスタレーションなど個展形式での展覧会やプロジェクトを活発に行う。音楽祭『ミュージック・トゥデイ』を自ら企画構成を行う。2014年、蓮沼執太フィル『時が奏でる Time plays - and so do we.』を発表後、ニューヨーク滞在を経て2015年より多岐にわたる新たな活動を行っている。

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