
「食えるか、食えないか」で悩むクリエイターへ、OxTからの答え
OxT『STRIDER'S HIGH』- インタビュー・テキスト
- 天野史彬
- 撮影:永峰拓也
2001年に3ピースバンド、Sound Scheduleのギターボーカルとしてメジャーデビューした大石昌良。2000年代後半から『けいおん!』などのアニメ作品において楽曲制作を担当し、頭角を現した作曲家、Tom-H@ck。キャリアも、出発点も、歩き方も違ったはずの二人の音楽家が、いつの間にかとんでもなく有機的な化学反応を起こしていたユニット、それがOxT(オクト)だ。
2013年に放送されたアニメ『ダイヤのA』の主題歌“Go EXCEED!!”を「Tom-H@ck featuring 大石昌良」名義で担当してから3年。OxTとしては4枚目、二人の共同制作としては6枚目のシングル『STRIDER'S HIGH』のリリースを機に、二人に話を聞きに行ったのだが、特にオーイシに聞きたいことがたくさんあった。OxTの活動だけでなく、Sound Scheduleとソロの弾き語り活動も並行して行っている彼に対して感じていた疑問――「彼はなぜ、変われたのか?」を問いたかったのだ。アニソンを歌う活動を「オーイシマサヨシ」名義で始動させて以降、彼の作る音楽は、明らかに、抜けがいい。だが、Tom-H@ckと繋がり、アニソンという新境地へ足を踏み入れることが決して生半可な覚悟ではできないことくらい、彼の10年以上のキャリアを考えれば理解できる。
結果として、オーイシは記事から溢れ出してしまうくらいたくさんのことを教えてくれた。そこには、プロの音楽家として、ひとりの人間として、「誰かを幸せにしたい」と願い続けてきた男の素顔があった。
バンドの解散だったり、ソロデビューだったり、事務所を離れたり……ひと通り経験してきたんですよ。その中には、二度と戻りたくない場面もたくさんあるんです。(オーイシ)
―まず、今のお二人にとってOxTはどのような位置付けのアウトプットなのか、それぞれに語っていただきたいのですが。
オーイシ:そうですねぇ……娯楽ですね(笑)。
Tom:ははは(笑)。でも、わかる。俺も娯楽かなぁ。
―このまま記事にすると誤解を招く気がするので、説明をお願いします(笑)。
Tom:はい(笑)。OxTはおそらく、関係者の方々も「この二人を自由に泳がせて、いいものを作ろう」というスタンスでいるんですよ。だから、決して僕らがわがままにやっているわけではなく、周りとの関係性もWin-Winでできているし、息苦しさもまったくないんです。
オーイシ:そうそう。手を抜いているとか、遊び倒しているということではなくて、「ストレスがなく、こんなに楽しい現場はないぞ」という意味で「娯楽」。特に僕には、大石昌良(ソロの弾き語り活動は漢字名義で行っている)としての活動もあれば、Sound Scheduleというバンドもある。それぞれの現場にストレスがあるわけではないんだけど、ただ、自分のクリエイティビティーや音楽家としての活動をうまく回していくためには、今、OxTが必要不可欠になってきている実感があるんです。
―なるほど。オーイシさんがSound Scheduleでデビューされた2000年代の前半って、「バンドはバンドでなければいけない」という、言い方は悪いかもしれないけど、固定観念が強い時代でしたよね?
オーイシ:そう! もう、本当にその通り!
―なので、今、オーイシさんがこうやってTomさんとアニソンの世界でも活動されていることに、驚いている人も多いと思うんですよ。
オーイシ:そうですよね……2000年代初頭は、「バンドはバンドらしい活動じゃないと」という縛りというか、ある種のプライドがとても先行していた時代でしたよね。僕もSound Scheduleの活動だけに真剣に集中していて、それはそれでよかったと思うんですけど、今はあの頃から想像もつかないくらいフレキシブルに活動をしているなって自分でも思います。
―そのフレキシブルさって、元々ご自身にあったものだと思いますか? それとも必要として手に入れたものだと思いますか?
オーイシ:性格的には、現状維持したがる人間ではあるんです。ただ、時代がそうさせてくれなかったというか(笑)。
Tom:すげえ苦しい話が始まるのかな……(笑)。
オーイシ:苦労人だから(笑)。……でも本当に、もう16年くらい音楽活動をしているんですけど、いろんなことがあったわけです。バンドの解散だったり、ソロデビューだったり、事務所を離れたり……ひと通り経験してきたんですよ。その中には、二度と戻りたくない場面もたくさんあるんです。バンドが解散したときのお葬式みたいな雰囲気とか、事務所を離れるときの喧々としたムードとかね。そこにもう一回自分が足を踏み込まないためにはどうしたらいいか、防衛本能みたいなものが自分の中に刷り込まれているのかもしれない。
Tom:でも、そこをコントロールできるのは相当すごいと思いますよ。それはやっぱり、経験のなせる業だと思う。
オーイシ:そうだね。空っぽのポジティブってあるじゃないですか。無理やり「アゲていこうぜ!」みたいな……それではダメなんですよ。そうじゃなくて、自分や現場をちゃんとポジティブな状態に持っていくためのプロデュース能力は、やっぱりある程度の経験則や計算があってのことだと思います。16年間、いろんなことがあったけど、その経験を無駄にしないためにも、今は極力「自分の現場は楽しかったらいいな」と思うんです。
バンド・Sound Scheduleのライブ映像 ソロ弾き語り・大石昌良としての楽曲“ファイヤー”
―なるほど。それを成せるプロジェクトが、OxTであると。
オーイシ:そう。でも、最初にTomくんとレコーディングしたときは、こんなふうに何年も一緒にやるなんて思わなかったですよ。だって元々は、『ダイヤのA』の主題歌をTomくんが作曲することになったとき、男性ボーカルを探しているっていう、そのオーディションに当時の僕のマネージャーが勝手に応募したところから始まっていますからね(笑)。
Tom:お見合いみたいな感じだったよね(笑)。僕も、あの1回だけの仕事だと思っていました。……まぁでも、今思うと運命だったんですよ(笑)。
リリース情報

- OxT
『STRIDER'S HIGH』(CD) -
2016年2月3日(水)発売
価格:1,296円(税込)
KADOKAWA / ZMCZ-104431. STRIDER'S HIGH
2. Welcome Spring!
3. STRIDER'S HIGH (instrumental)
4. Welcome Srping! (instrumental)}

- OxT
『ACE OF DIAMOND』(CD) -
2016年3月2日(水)発売
価格:3,240円(税込)
PCCG-015101. Go EXCEED!!
2. Perfect HERO
3. B.L.T.
4. 静かなる一秒
5. KIMERO!!
6. Go EXCEED!! -OxT ver.-
7. Perfect HERO -OxT ver.-
8. BLOOM OF YOUTH
9. 5 Soul MATE"S" (new mix)
10. Grateful Story (new mix)
11. BRAND NEW BLUE -OxT ver.-
イベント情報
- 『OxT-1stワンマンライブツアー~Hello!! New World!!~』
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2016年4月1日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 新宿 ReNY2016年4月16日(土)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:大阪府 心斎橋 JANUS料金:各公演3,800円
プロフィール

- OxT(おくと)
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オーイシマサヨシ(Vo)とTom-H@ck(サウンドプロデュース)による二人組デジタルロックユニット。2013年にTom-H@ck featuring大石昌良として『Go EXCEED!!』『Perfect HERO』の2枚のシングルを発表した後、2015年にはユニット「OxT」として発展的にリスタート。OxTとしてのデビューシングル『KIMERO!!』を皮切りに、『Clattanoia』『STRIDER'S HIGH』と矢継ぎ早のタイアップ攻勢を展開中。Tom-H@ckが創りだす刺激的なサウンドプロデュースワークに、オーイシマサヨシの清涼感漂うボーカルが印象的で、さいたまスーパーアリーナや横浜アリーナでの大箱イベントでのパフォーマンスでも集まったオーディエンスに抜群のインパクトを与えるなど、注目度は加速度的に増している。