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オリンピックも開催する架空の国「西京国」のユーモアとは何か?

オリンピックも開催する架空の国「西京国」のユーモアとは何か?

金沢21世紀美術館『西京人—西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影・編集:佐々木鋼平

ヘイトスピーチは無知の表れであり、偏見と思い込みだけでできていると思うんです。(小沢)

―小沢さんは近年、第二次世界大戦中に従軍画家が描いた「戦争画」をモチーフに作品を作られています。今回も展示されている『帰って来たペインターF』は、従軍画家の代表的存在、藤田嗣治の人生を下敷きにした作品ですが、戦争画への関心は何に由来するのでしょうか?

小沢:誰もが感じていると思うんですけど、この数年、時代がよろしくなくなってきていて、戦争ができる国になりつつある。ぼくは日本という文化の面白さをアートにしてきましたが、このような時代になって、国とどのように向き合えばいいか、あらためて考えるようになったんです。そのなかで、戦時中の画家がやってきたことを紐解いてみることを始めた。戦争画はずっとタブー視されていて、きちんと清算されてきませんでしたが、それを見直したいと思っているんです。

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景 『帰って来たペインターF』
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景 『帰って来たペインターF』

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景 『帰って来たペインターF』
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景 『帰って来たペインターF』

―醤油画などの作品は、社会環境と人の関係をユーモラスに表現していました。でも現在は、ユーモアが表現しづらくなってきたんでしょうか?

小沢:そう思います。それでもぼくは、作品にユーモアを込めたいんですけどね。『帰って来たペインターF』の場合も、戦争画をどう扱うか、はじめはなかなか突破口が見えませんでした。しかし、日本人の視点だけでなく、攻撃された国の人々と双方向的に戦争画を考え直すというアイデアが浮かんで、それなら自分にもできると思ったんです。実際、この作品はインドネシアの画家に依頼して描いてもらっているのですが、そうやって、創作を通してしか見えないものを拾い上げていきたいと思っています。

ギム:対話を通して、人々の意識を変えることの大切さには、ぼくもとても共感します。何かを変えようとしたとき、あまりにも性急な気持ちがあれば、革命が必要になってくる。実際に西洋では革命を通して社会を変えてきましたけど、ぼくはそうした急激な変化は望んでいません。他者との対峙は、一種の居心地の悪さや心安らかではない状況を生むことがあり、つい避けてしまいがちです。しかし、互いの違いを理解するためのコミュニケーションの方法を、考え続けないといけないと思います。

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景

―そのお話とも関係がありますが、「西京人」の活動を通して、お三方の家族同士の交流も盛んになったというエピソードが印象的でした。

小沢:日中韓のアーティスト三人の関係だけではなくて、プロジェクトに家族を巻き込むなかで、ぼくたちの妻や子どもたち同士がとても仲良くなったんですね。ぼくの家でも「あの子、元気かしら?」とよく話題に上がります。まるで親戚みたいな距離感になって、国籍がどんどん関係なくなっていった。

ギム:ぼくが最初に「人生プロジェクトのようなもの」と言ったのは、まさにそのことなんです。「西京人」の最初のプロジェクトは「第1章:西京を知っていますか?」という映像作品で、三人がそれぞれの母国でいろんなところに出かけ、架空の国について人々に尋ねるのですが、当時独身だったぼくが一人で制作をしているのに、他の二人は家族を連れて出演しているんです。それが悔しくて、その後、ぼくも結婚することができました(笑)。なので、もちろん鑑賞者は作品を重要視しますが、われわれや、その家族からすると、プロジェクトの過程にある交流そのものが、とても大きな意味を持っているんです。

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景

―そうやって始まった「西京人」ですが、今回初めて展示された「第5章:西京は西京ではない」のプロジェクトでは、さらに一般の人々も巻き込んで、その「国民」を増やされていますね。

小沢:国を「拡張」したというより、むしろ「拡散」というイメージに近いんです。その国が広がり、どんどん薄まっていく感じ。「西京人」のような国の考え方が、世界に浸透していって、見えなくなっていけばいい。その意味で西京は、最終的には消えるためにあるのかもしれなくて、それを展覧会名の『西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』に込めています。そして西京が見えなくなったら、ふたたび第1章に戻り、西京を探す。全体では、そんな円環的なイメージを持っているんです。

―現実的にも、国という枠組みはますます流動的になっています。たとえば日本では外国人旅行者が話題になっていますが、週末だけアジア間を旅行する人も大勢いて、そうした行き来はどんどん当たり前になっていくはずです。「西京人」のプロジェクトは、そんな他者との接触が増える時代に向けた、一つのレッスンなのかもしれませんね。

小沢:その解釈はすごく嬉しいですね。だけど、そうした接触が増えることによって、異なる背景を持った人への不寛容を示す人も目につくようになった。ヘイトスピーチはその典型ですが、あれは無知の現れであり、偏見と思い込みだけでできているとぼくは思うんです。そもそもその人たちは、批判する国の人と一度でもしっかり話したことがあるのか。まさか一人でも友達がいる国を、攻撃したいとは思わないのでは。簡単なことですが、友達を持つこと。それが、国を超えた視点を持つきっかけになると思います。

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イベント情報

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』

2016年4月29日(金・祝)~8月28日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休場日:月曜(7月18日、8月15日は開場)、7月19日
料金:一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上800円

レクチャー&ディスカッション
2016年7月2日(土)13:00~15:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 レクチャーホール
出演:
ホウ・ハンルウ
ギムホンソック
小沢剛
定員:90名
料金:無料
※当日10:00から整理券配布

ワークショップ
『ふくろの国へようこそ』

2016年7月23日(土)10:00~12:00、14:00~16:00
講師:小沢剛
定員:各回先着20名(小学生以下対象)
※未就学児はワークショップに参加できる保護者の同伴が必要です
料金:無料

プロフィール

小沢剛(おざわ つよし)

1965年東京生まれ、埼玉在住。個展『同時に答えろYesとNo!』(森美術館、2004年)、『透明ランナーは走りつづける』(広島市現代美術館、2009年)、『帰って来たペインターF』(資生堂ギャラリー、2015年)。グループ展『第50回ヴェネチア・ビエンナーレ』、『第5回アジア・パシフィック・トリエンナーレ』(クイーンズランド・アート・ギャラリー、2006年)、『プロスペクト2』(現代美術センター、ニューオリンズ、2011年)など。

ギムホンソック

1964年ソウル生まれ、在住。個展『REDCAT』(ロサンゼルス、2004年)、アート・ソンジェ・センター(ソウル、2011年)、プラトー・サムソン美術館(ソウル、2013年)。グループ展『第50回、第51回ヴェネチア・ビエンナーレ』『第10回イスタンブール・ビエンナーレ』『第4回、第6回、第9回広州ビエンナーレ』『Brave New Worlds』(ウォーカー・アート・センター、2007年)、『Laughing in Foreign Languages』(ヘイワード・ギャラリー、2008年)、『Your Bright Future』(ロサンゼルス州立美術館、2009年)など。

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