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オリンピックも開催する架空の国「西京国」のユーモアとは何か?

オリンピックも開催する架空の国「西京国」のユーモアとは何か?

金沢21世紀美術館『西京人—西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影・編集:佐々木鋼平

自分が正しいと信じている価値観が、決して自明ではなかったりする。ある国にいるだけでは、なかなかそれに気づけません。(ギムホンソック)

―「新しい国を作る」と聞くと、いわゆるユートピアを思い描く人もいるかもしれません。しかし「西京人」のみなさんは、それぞれの活動を通して、むしろ目を背けられがちな自国の歴史や姿にメスを入れてこられた。たとえば小沢さんは、多くのアーティストが西欧の後追いをしていた1980年代から、醤油を使った「醤油画」を描くなど、日本人のある意味では垢抜けない文化の土台を率直に見直し、作品にしていましたね。

小沢:大学時代から、周囲のやっていることに違和感がありましたね。とくにぼくは油絵をやっていましたから。直接的に「西洋を真似ろ」と言われたわけではないけど、やっぱりそうした雰囲気が強かった。よく言われますけど、明治のころは、パリにとりあえず留学をして、向こうで何もやっていなくても、帰国したら「洋帰り」と言われ一人前の画家の扱いを受けていた。そういう近代日本の姿を学ぶと「バカバカしい」と思うのですが、結局それがいまも続いている。そんな日本の姿を、考え直したかったんです。

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景

―一方でギムホンソックさんは、長らく「翻訳」という問題に焦点を当てた作品の制作を続けてこられました。

ギム:韓国は1945年に独立した新しい国です。そして、新しい国にとって何が必要かを考えるなかで、とくにアメリカを参照、模倣して、その文化を翻訳することから自国のアイデンティティーを築き上げてきた。ぼくの関心は、その2つの文化の間にある可能性とオリジナリティーの問題なんです。たとえば、ある文章をハングルから英語、そして再びハングルへと翻訳したとき、その文章はもとの作家のオリジナルと言えるのかどうか? そうしたことを作品にしてきました。もちろん、その過程では誤読も起こります。ぼくにとっては、韓国人が西洋風の髪型と衣装を身にまとい、ハングルで歌うオペラは悪夢的なものでした。でもそんな雑種性を認めることも、一方では重要なわけですね。

小沢:今日来られなかったシャオションも、今回の展示で、この100年ほどの間に起きた各国の歴史的事件や、国家の暴力に立ち向かう人々の姿を描いたアニメーション作品を出品しています。また展示の入口では、笑顔を見せたり、踊ったりしないと会場に入れないという、一種の「入国審査」を設けていますが、じつはシャオションの故郷の中国では、これらの作品の展示が難しいんです。というのも、国家転覆罪にあたるかもしれないから。ぼくたちには直接話さないけど、そうした「西京人」への言い掛かりを一番経験しているのは、シャオションかもしれません。

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景 入国審査
『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』展示風景 入国審査

―そんなみなさんにとって、「国」とはどんな存在なのでしょうか?

小沢:それをモチーフにした作品も作ってきましたが、ぼくにとっての日本は、ときどきすごく否定したくなる対象ですね。とくに東日本大震災の直後は、地震も放射能もイヤだし、捨てたいくらいに思っていた。「西京国」は、いま日本に住んでいる自分にとっての、もう一つの住処という感じです。入国審査の作品も、入国には緊張感やシリアスさが付きものですけど、そもそも国境は誰が引いたのか、誰にとって都合がいいものなのか、という問題がある。そこを笑いながら通り抜ける経験は、大切だと思うんです。

ギム:自分が正しいと信じているものや、周囲で当然のように通用している価値観が、じつは決して自明ではなかったりする。韓国が経験したように、それは誰かによって選び取られた言葉なのかもしれないわけです。ある国のなかにいるだけではなかなかそれに気づけませんが、絶対化を疑う視線を常に意識しておくことが重要でしょう。

西京人『第3章:ようこそ西京に−西京オリンピック』2008
西京人『第3章:ようこそ西京に−西京オリンピック』2008

―会場では、2008年の『北京オリンピック』会期中に北京市内で開催した、「西京人」による架空のオリンピックの模様を描いた作品が展示されていました。しかもそこで行われているのは、勝ち負けのない、何をしているのかすらもわからない、珍妙な競技の数々です。また「西京人」は、2011年に現代アートの大舞台である『ヴェネチア・ビエンナーレ』の会場近くでも、それを相対化するような展示を行っていますよね。

小沢:オリンピックはもちろんですが、『ヴェネチア・ビエンナーレ』も、国ごとのパビリオンの戦いという面があって、アートを使って国同士の争いをするような考え方はいかがなものかと思っているんです。まるで代理戦争のようなものでしょう。国同士の勝負心や、その戦いから生まれる高揚感は、人間の本能にあるのかもしれないけれど、少なくともぼくは、それとは違う土俵でアートをやっていきたい。戦いとアートとは、本質的に一致し得ないと思っているんです。

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イベント情報

『西京人―西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。』

2016年4月29日(金・祝)~8月28日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休場日:月曜(7月18日、8月15日は開場)、7月19日
料金:一般1,000円 大学生800円 小中高生400円 65歳以上800円

レクチャー&ディスカッション
2016年7月2日(土)13:00~15:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 レクチャーホール
出演:
ホウ・ハンルウ
ギムホンソック
小沢剛
定員:90名
料金:無料
※当日10:00から整理券配布

ワークショップ
『ふくろの国へようこそ』

2016年7月23日(土)10:00~12:00、14:00~16:00
講師:小沢剛
定員:各回先着20名(小学生以下対象)
※未就学児はワークショップに参加できる保護者の同伴が必要です
料金:無料

プロフィール

小沢剛(おざわ つよし)

1965年東京生まれ、埼玉在住。個展『同時に答えろYesとNo!』(森美術館、2004年)、『透明ランナーは走りつづける』(広島市現代美術館、2009年)、『帰って来たペインターF』(資生堂ギャラリー、2015年)。グループ展『第50回ヴェネチア・ビエンナーレ』、『第5回アジア・パシフィック・トリエンナーレ』(クイーンズランド・アート・ギャラリー、2006年)、『プロスペクト2』(現代美術センター、ニューオリンズ、2011年)など。

ギムホンソック

1964年ソウル生まれ、在住。個展『REDCAT』(ロサンゼルス、2004年)、アート・ソンジェ・センター(ソウル、2011年)、プラトー・サムソン美術館(ソウル、2013年)。グループ展『第50回、第51回ヴェネチア・ビエンナーレ』『第10回イスタンブール・ビエンナーレ』『第4回、第6回、第9回広州ビエンナーレ』『Brave New Worlds』(ウォーカー・アート・センター、2007年)、『Laughing in Foreign Languages』(ヘイワード・ギャラリー、2008年)、『Your Bright Future』(ロサンゼルス州立美術館、2009年)など。

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