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新しい集団のヒントがある? いま世界の大学で進むクラブ研究とは

新しい集団のヒントがある? いま世界の大学で進むクラブ研究とは

『フェスティバル/トーキョー16』
インタビュー・テキスト
住吉智恵
撮影:高見知香 編集:佐々木鋼平

近年、世界中の大学でクラブカルチャーの研究が急速に進んでいるらしい。ドイツの若手振付家の注目株であるセバスチャン・マティアスも、ニューヨークのジュリアード学院とベルリン自由大学で舞踊学の修士号を取得し、在学中より世界中のクラブシーンでフィールドワークを重ねながら、実験的なパフォーマンス作品を制作し続けている。

そんな彼が2014年から世界各地で展開しているのが、ダンスと都市との新たな関係性を探求するプロジェクト『groove space』だ。この10月に『フェスティバル/トーキョー16』での日本公演を控える同作品。東京でリサーチと滞在制作を行うマティアスに、そのコンセプトと制作過程について聞いた。

クラブでのダンスはもちろん、そこで生まれる人と人との「距離感」や「関係性」に興味があります。

―マティアスさんは、世界中のクラブでダンスや人々についてのリサーチを行い、『groove space』というパフォーマンス作品を制作されています。そもそもこの作品はどういったものなのでしょうか?

セバスチャン:『groove space』は、ステージと客席の境目がなく、パフォーマーと観客が同じフロアで入り乱れるなかで、さまざまな演出を体験していく作品です。観客は目の前で繰り広げられるパフォーマンスを間近で眺めるだけでもいいし、自らの意思でそのパフォーマンスの一部に加わっても構いません。

タンツハウスnrw(ドイツ / デュッセルドルフ)での『 x  / groove space』、2016年6月世界初演  ©Katja Illner
タンツハウスnrw(ドイツ / デュッセルドルフ)での『 x / groove space』、2016年6月世界初演 ©Katja Illner

―映像で拝見いたしましたが、誰がパフォーマーで、誰が観客なのか、どこまでが演出で、どこまでがハプニングなのか、それがわからなくなってしまうような、ドキドキと混乱を感じさせる作品だと思いました。

セバスチャン:ええ。劇場でダンスを観るのとはまったく違った体験だと思います。でも、ぼくはこの作品で、クラブを劇場空間に再現したいわけではないんですよ。クラブでのダンスはもちろん、そこで生まれる人と人との「距離感」や「関係性」に興味があり、研究を続けるなかで『groove space』が生まれたんです。

セバスチャン・マティアス
セバスチャン・マティアス

―『groove space』のパフォーマーは、プロのダンサーなどで構成されていますが、じつは一般の人々も参加しているそうですね。

セバスチャン:アマチュアリズムというか、普通の人の身体にとても関心があるんです。欧米のダンスシーンには、バレエをルーツとした揺るぎない型、歴史的コンテクストがあります。一方、クラブのダンスには、そうした既存のダンス文脈にはない即興的な身体性、現場の人々によって生まれる「重なり」「揺らぎ」「ずらし」といった、その瞬間でしかシェアできない質感があるんです。そういった要素も『groove space』では重要だと考え、一般の人にも参加してもらっています。

―クラブのダンスは、その場で流れている音楽と密接な関係性があり、それが即興的な身体性につながっているわけですよね。

セバスチャン:そうです。そして、クラブで音楽に合わせて踊る人は、腕や脚の動き一つひとつの意味を考えたり、訊ねたりしませんよね。ぼくはそういった側面を人文科学的にリサーチし、『groove space』を通して、新たなアートのコンテクストに変換しようとしているんです。

タンツハウスnrw(ドイツ / デュッセルドルフ)での『x /groove space』、2016年6月世界初演  ©Katja Illner
タンツハウスnrw(ドイツ / デュッセルドルフ)での『x /groove space』、2016年6月世界初演 ©Katja Illner

ディスコとクラブでは、ダンスする人々の関係性や儀式の倫理に違いがあることも面白い。

―ちなみにダンスミュージックのシーンを振り返ると、1970、80年代に一世を風靡したディスコがあり、1990年代にクラブがそれに取って代わりました。さらに2000年代には、ディスコが懐古的に復権し、現在は多様な音楽ジャンルとスタイルのダンスフロアが混在しているという状況です。

セバスチャン:ディスコとクラブでは、ダンスする人々の関係性や儀式の倫理に違いがあることも面白いんですよ。ディスコは、いわゆる中世ヨーロッパの宮廷文化に起源を持つ、社交ダンスの系譜にあるもので、基本に「(二人の)コラボレーション」「ライン(整列)」「(動きの)トレース」があります。

たとえば、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)で、人々がフロアに一列に並んで、決まった振りを踊るシーンがそうですね。ただ、振付の合間に即興の動きが入るので、必ずしもそればかりではないんです。このあたりが、その後に発展したクラブのダンスとつながっていく部分だといえます。

―たしかに、同じブラックミュージックでも、ディスコのダンスと、ヒップホップのダンスでは違いますね。

セバスチャン:1990年代以降、クラブのダンスには、身体の動きに自身のアイデンティティーやアティテュードを込めようとする傾向が現われます。たとえばヒップホップでは、憧れのダンサーの動きからモチーフを読み取ったり、真似することに、リスペクトの意味が込められているんです。また、それによってスタイルの継承が生まれたり、ダンスバトルのような関係性の力学も生まれました。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー16』

2016年10月15日(土)~12月11日(日)
会場:東京都 東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、池袋西口公園、森下スタジオ ほか

『x / groove space』
2016年11月3日(木・祝)~11月6日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
振付・構成:セバスチャン・マティアス

『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』
2016年10月15日(土)15:00~20:00
2016年10月16日(日)13:00~18:30
会場:東京都 池袋西口公園
総合ディレクション:プロジェクト FUKUSHIMA! + 山岸清之進

『Woodcutters ― 伐採 ―』
2016年10月21日(金)~10月23日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 プレイハウス
翻案・美術・照明・演出:クリスチャン・ルパ
作:トーマス・ベルンハルト

イデビアン・クルー
『シカク』

2016年10月21日(金)~10月29日(土)
会場:東京都 にしすがも創造舎
振付・演出:井手茂太

パク・グニョン×南山芸術センター
『哀れ、兵士』

2016年10月27日(木)~10月30日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと
作・演出:パク・グニョン(劇団コルモッキル)

マレビトの会
『福島を上演する』

2016年11月17日(木)~11月20日(日)
会場:東京都 にしすがも創造舎
作・演出:マレビトの会

ドーレ・ホイヤーに捧ぐ
『人間の激情』『アフェクテ』『エフェクテ』
2016年12月9日(金)~12月11日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと
構成・振付:スザンネ・リンケ

アジアシリーズ vol.3 マレーシア特集
公演編
インスタントカフェ・シアターカンパニー
『NADIRAH』

2016年11月11日(金)~11月13日(日)
会場:東京都 にしすがも創造舎
作:アルフィアン・サアット
演出:ジョー・クカサス

公演編
『B.E.D. (Episode 5)』

2016年11月12日(土)~11月13日(日)
会場:東京都 江東区某所
(受付場所:SAKuRA GALLERY)
構成・演出・振付:リー・レンシン

レクチャー編
ASWARA - マレーシア国立芸術文化遺産大学
『BONDINGS』

2016年11月4日(金)~11月6日(日)
会場:東京都 森下スタジオ
コンセプト:BONDINGS クリエイティブチーム
作:スリ・リウ
講師・演出:ウォン・オイミン

レクチャー編
『POLITIKO』

2016年11月8日(火)~11月12日(土)
会場:東京都 森下スタジオ
講師・コンセプト:ムン・カオ

北京発・カルチャーから見る現代中国

FM3
『Buddha Boxing』

2016年12月2日(金)~12月3日(土)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと ホワイエ
演出:FM3

まちなかパフォーマンスシリーズ

『ふくちゃんねる』
2016年10月27日(木)~10月30日(日)
会場:東京都 南池袋公園内 Racines FARM to PARK
作・演出・出演:福田毅

『うたの木』
2016年11月10日(木)~11月13日(日)
会場:東京都 豊島区庁舎 10階 豊島の森
振付:森川弘和、村上渉
音楽:吉田省念
出演:
森川弘和
村上渉
吉田省念

ドキュントメント『となり街の知らない踊り子』
2016年12月1日(木)~12月4日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと ホワイエ
脚本・振付・演出:山本卓卓

チェルフィッチュ
『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』

2016年12月2日(金)~12月5日(月)
会場:東京都 南池袋公園内Racines FARM to PARK
作・演出:岡田利規

プロフィール

セバスチャン・マティアス

ジュリアード学院、ベルリン自由大学で舞踊学を学び、修士号を取得。彼の振付作品はモジュール化された即興システムを元にダンサーたちと創作される。カンプナーゲル、ゾフィーエンゼーレ、ルツェルン劇場、クルベルグ・バレエ等で自ら率いる制作チームとの共同作業を続けている。2012年3月からはハンブルグ大学のポストグラデュエイトプログラム「Versammlung und Teilhabe」より研究助成を受け、『groove space』シリーズのなかで参加的プロセスの拡張を実践、観客も含むメンバーから構成されるリサーチグループと共に自身のアーティスティックリサーチを継続している。2014~2016年はデュッセルドルフのタンツハウスnrwのファクトリーアーティストとして活動中。

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