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手塚るみ子が語る、手塚治虫と冨田勲。本人亡き後に成すべきこと

手塚るみ子が語る、手塚治虫と冨田勲。本人亡き後に成すべきこと

冨田勲『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:豊島望 編集:山元翔一

あらすじは忘れてしまっても、音楽を聴くと様々なシーンがありありと蘇ってくる。音楽の力って、本当に大きいなと改めて思いました。

―さてもう一つ、手塚治虫さんの初期作品における、冨田勲さんのスコアを音源化した5枚組のCD-BOX『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』がリリースされます。冨田さんがシンセサイザーを大々的に導入し、電子音楽へと傾倒していく前の作品ですが、改めてバックボーンの大きさ、引き出しの多さに驚かされます。

冨田勲『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』ジャケット ©手塚プロ
冨田勲『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』ジャケット ©手塚プロ(Amazonで見る

手塚:やはりテレビアニメの場合、父の手がけたストーリーより音楽の印象の方が強いと思うんです。あらすじは忘れてしまっても、音楽を聴くと様々なシーンがありありと蘇ってくる。音楽の力って、本当に大きいなと改めて思いました。特に今回は、主題歌だけでなく、本編で流れていた音楽まで網羅しているので、自分の中の記憶がサウンドトラックで蘇るという楽しさがあると思います。

―この頃の手塚作品で、特に思い入れが深いのは?

手塚:『千夜一夜物語』ですね。この作品のサントラが入っているのは個人的にとても嬉しい。手塚ファンの方にとっては名作として有名ですが、今の若い方はご存じない方も多いと思うんですよね。いわゆる子ども向けの30分1話形式ではなく、大人向けの劇場作品として作ったものなのですが、音楽的にも素晴らしい仕上がりなんですよ。

―確かに、サウンドトラックで演奏しているロックバンド、ザ・ヘルプフル・ソウルの楽曲はサイケデリックでかっこいい。

手塚:そうなんですよ! ベース&ボーカルのチャールズ・チェー(チャーリー・コーセイ)は、のちにテレビアニメ『ルパン三世』(1971年放映)の主題歌を歌っています。

―そういえば、『ルパン三世』のサントラでおなじみの大野雄二さんも、手塚作品に参加しているんですよね。『ふしぎなメルモ』や『W3(ワンダースリー)』を手がけた宇野誠一郎さんもそうですが、のちに日本の音楽シーンを牽引する重要人物になっていきます。そのあたりの手塚先生の先見の明は、すごいものがありましたね。

手塚るみ子

手塚:とにかく、かっこいいですよね。今聴いても決して古びていないし、時代にかかわらず聴けるものになっている。先ほども言ったように、アニメーションのテクニックに関しては、現代のアニメを見慣れている今の子どもたちからすると、やっぱりアナクロだしチープに見える部分はあると思うんです。

当時、テレビ放映のアニメーションは限られた予算と時間の中、少人数で制作するため、「リミテッドアニメーション」(従来のフルアニメーションのリアルな動作を追求した表現手法に対し、簡略化された抽象的な動作を表現するために、動きを簡略化しセル画の枚数を減らす表現手法として考案されたもの)という手法を用いていたのですが、その簡易化された動きを、冨田さんの楽曲が補ってくれているんですよね。音楽が、見る人の想像力を補完し、なめらかに動いているようにさえ感じられます。

「手塚イズム」は、「好きなものに対しては、徹底的に好きになる」ということ。中途半端ではなく、本気で好きになり、それを追求する好奇心と意欲そのものなのかなと。

―紙芝居やトーキー映画も、音楽や弁士(無声映画に語りを添える人)の力で画面が活き活きと動き出すという体験は、確かにありました。冨田さんのサントラは、効果音などもオーケストラで演奏したり、心理描写を音で表現したり、おっしゃるようにアニメーションをより雄弁に動かしてくれていますね。

手塚:音楽を抜いて映像だけ見ると、ちょっと物足りなさを感じるし、同じ感動は得られないと思うんですよね。そういう意味では、楽曲の力ってすごく大きかったと思います。冨田先生の音楽を聴いているだけで、目の前にキャラクターが現れ、動き出すような錯覚がありますから。

―時間的、予算的な制限があったからこそ、様々なアイデアが生まれたとも言えますよね。

手塚:今はパソコンさえあれば一人でもアニメーションが作れる時代ですからね。ある程度のクオリティーが確保されるのは当然で、その先の「感動」をいかに作り出せるかが大切になっているというか。小手先のことではない個性というか、オリジナリティーが突出していないと、人の心には届かない。ある意味では、今の方が大変なのかもしれません。逆に、あえてストップモーションアニメなどを用いた方が印象に残ったりして(笑)。

―クレイアニメなどがまた注目されているのも、そういう流れはあるのかもしれないですね。映画でもあえてフルCGではなく特撮の手法を取り入れたり、音楽でもアナログレコーディングが流行ったりしていますし。制限があるからこそ湧き出る想像力を、人は無意識に求めているのかもしれません。

手塚:そうですね。そういう意味では、ハンドメイドのぬくもりというものも、今の時代だからこそ求められる部分はあるのかもしれませんね。

手塚るみ子

―今回の取材にあたって、手塚治虫さんの作品世界の懐の大きさに改めて圧倒されました。シリアスな人間ドラマからSF、少女漫画、ギャグ漫画と、様々なジャンルを手がけ、そのどれもが他の追従を許さぬクオリティーを誇っていたのは途轍もないことだと思います。そんな無尽蔵なアイデアは、一体どのようにして生み出されてきたのでしょうか。

手塚:父がよく言っていたのは、漫画ばかり読んでいては、自分の引き出しが限られたものになってしまうということ。音楽や映画、演劇、ミュージカル、落語、読書……とにかくあらゆるものを吸収して、自分の引き出しにしてきたことが、様々な作品世界を生み出す原動力になったのではないかと思います。

父は、子どもの頃から好奇心が強かったんですよ。昆虫採集が趣味で、動物や植物が大好きで、それを模写してすごい絵を描いていたらしいです。体が弱く、わんぱくグループに入れなかったからこそ、人一倍好奇心が強くなったところもあったのでしょう。父の両親も音楽や映画、演劇などが大好きな人たちだったので、文化的な意味で家庭環境も恵まれていたのでしょうね。

―「手塚プロダクション」について、今後どういった展望を考えていらっしゃいますか?

手塚:「手塚プロ」としては、2018年がちょうど生誕90周年で、来年11月3日からプロジェクトが始まります。様々な形で手塚治虫の「発展形」を見せていきたいと考えています。その一番の目的は手塚治虫のオリジナル作品を読んでもらいたいということ。「手塚イズム」を世に広げていくために、これらも様々な仕掛けをしていくことになると思います。

手塚るみ子

―るみ子さんのおっしゃる、「手塚イズム」とは何でしょうか。

手塚:「好きなものに対しては、徹底的に好きになる」ということでしょうか。中途半端ではなく、本気で好きになり、それを追求する好奇心と意欲そのものなのかなと。はたから見たら、「この人、おかしいんじゃない?」っていうくらい徹底して追求していけば、きっと人は認めると思うんです。その先には大きな結果が待っているような気がしますね。

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リリース情報

冨田勲『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』
冨田勲
『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』(5CD)

2016年11月9日(水)発売
価格:10,800円(税込)
COCX-35885~9

イベント情報

『冨田勲 追悼特別公演 冨田勲×初音ミク「ドクター・コッペリウス」』

2016年11月11日(金)、11月12日(土)全3公演
会場:東京都 渋谷 Bunkamura オーチャードホール
料金:S席10,000円 A席8,500円

プロフィール

手塚るみ子(てづか るみこ)

プランニングプロデューサー。手塚プロダクション取締役。漫画家・手塚治虫の長女として生まれる。大学を卒業後、広告代理店に入社し、セールスプロモーションなどの企画・制作に携わる。父親の死をきっかけに独立し、手塚作品をもとにした企画のプロデュース活動を始める。原宿ラフォーレミュージアムにおける展覧会「私のアトム展」をはじめ、劇場アニメ「ジャングル大帝」の宣伝プロデューサー、また手塚治虫生誕70周年記念トリビュートCD「ATOM KIDS」(ワーナーミュージック)や、朝日放送創立50周年キャンペーン「ガラスの地球を救え」年間イメージソングのプロデュース、最近では『手塚治虫文化祭~キチムシ』を開催するなど、様々なジャンルで幅広い企画制作をプロデュースする。「オサムシに伝えて」(太田出版)「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」(文藝春秋)などの著書がある。また音楽レーベル「MUSIC ROBITA」を設立し、2003年の「鉄腕アトム」生誕にあわせたトリビュートCD「Electric-Brain feat. ASTROBOY」はじめ、手塚作品の音楽企画も制作する。

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