歌を歌うだけじゃない、新世代アイコン「あいみょん」を知る

2015年3月にインディーズデビューを果たして以降、“どうせ死ぬなら”“おっぱい”など、センセーショナルな歌詞と迫力あるボーカル、そして歯に衣着せぬ言葉で、同世代の女性を中心に高い支持を獲得してきた、兵庫県出身の21歳・あいみょん。その彼女が、シングル『生きていたんだよな』で、いよいよメジャーデビューを果たす。

スポークンワード的な導入部から、刹那を宿したエモーショナルなボーカルへ。ある日ニュースで見た衝撃的な事件をモチーフとしながら、今を生きる若者たちの苦悩にエールを捧ぐ、鮮烈な1曲となった表題曲。

6人兄弟の2番目、すでに200を超えているというストック曲、浜田省吾とフリッパーズ・ギターを愛聴、尊敬する人物は岡本太郎など、錯綜する情報が取り結ぶ、新進気鋭の女性シンガーソングライター・あいみょんとは、果たして何者なのか? そのプロフィールから嗜好性、さらには今後の野望に至るまで、さまざまな問いを本人にぶつけてみた。

歌の中で<死ね>とか叫んでるし、「これを出して大丈夫かな?」と思っていたので、反応がいいのは意外でした。

―いつ頃から自分で曲を書いて歌うようになったのですか?

あいみょん:ギターを触り始めたのは、中学2年生くらいですね。自分で曲を作り始めたのは、高校1、2年ぐらいだと思います。でも、誰かの前で発表することはなく、今の事務所に声を掛けてもらうまでは、ライブをしたことがなかったんです。ただ、友達が「音楽系の番組を撮りたい」とか言って、そこで2回くらい演奏したことがあって……。

―音楽系の番組って?

あいみょん:同い歳の地元の友達が、音楽番組を作ってYouTubeに上げていたんですよ。その番組に出て、初めて人前で披露しました。そうしたら、それを見た事務所の方に声を掛けてもらったんです。

あいみょん
あいみょん

―その番組では、どんな曲を歌ったのですか?

あいみょん:歌ったのは、15歳のときに作った曲だったんですけど、当時河島英五さんが好きだったんですね。だから、河島英五さんを意識したようなオリジナル曲を歌っていました。

―河島英五を意識した曲?

あいみょん:もともとお父さんとお母さんの影響で、歌謡曲がめっちゃ好きなんです。お父さんが音響の仕事をやっていたので、小さい頃からお父さんのバンドを観に行ったり、自然と音楽には触れていて。テレビでやっている懐メロランキングみたいな番組を見ながら、いいなと思った曲をメモして、お父さんにCDを作ってもらったりしていましたね。お父さんの大好きな浜田省吾さんとか、あとバイト先の人に教えてもらったフリッパーズ・ギターとかをよく聴いていました。

あいみょん

―いつ頃からシンガーソングライターとしてやっていこうと思ったのですか?

あいみょん:ギターを持ち始めてから、「曲作りって楽しいな」と思っていたので、あわよくばというか、「ステージで歌ったら楽しいんかな?」みたいなことはずっと思っていて。でも、わりと現実を見ていたので、「まあ無理やろ」と思っていたんです。

音楽以外にも趣味はいっぱいあったから……カメラマンにもなりたかったし、パン屋さんにもなりたかったし、保育士さんにもなりたかったんです。正直、音楽でやっていけるとは思ってなかったというか。いちばん自信がついたのは、今の事務所さんに声を掛けてもらったことですね。最初は、めっちゃ怪しいと思いましたけど(笑)。

―(笑)。どんなふうに声を掛けられたのですか?

あいみょん:「テッペン取れるよ」って言われたんです(笑)。そんなの、めっちゃ怪しいじゃないですか?(笑) なので、お父さんとお母さんに相談して……ただ、ちょっと信頼できると思ったのは、「事務所に正式に入るまでに、50曲作ってみて」と言われたことで。それで、「ああ、信頼しても大丈夫かな」って。

―いきなり50曲も作れるものなんですか?

あいみょん:作れたんですよ(笑)。そんなことができるとは自分でも思ってなかったので、自分にとっても発見でしたね。あとはやっぱり、インディーズで最初に出したシングルの反応がよかったことが、ちゃんと自信を持って音楽をやっていこうと思ったきっかけでした。『貴方解剖純愛歌~死ね~』というシングルなんですけど。

―すごいタイトルですね。

あいみょん:ですよね(笑)。歌の中で<死ね>とか叫んでるし、「これを出して大丈夫かな?」と思っていたので、「共感しました」みたいな反応が多いのは意外でした。そうやって、出した曲に対して予想外のリアクションが返ってくることが楽しいです。

―その後も、“どうせ死ぬなら”など、鮮烈なインパクトを与える曲を発表していきます。予想外なリアクションのなかには、喜べないものもあったりしませんか?

あいみょん:そのときから、「メンヘラ」って言われることがあって。もちろん、それは聴く人のイメージなので自由だと思うんですけど、やっぱり怖がられたり、暗い子って思われるのは嫌ですね。見ての通り、全然普通なんですよ。「思っていたよりも、普通の子だね」っていうのは、しょっちゅう言われます。

もちろん、面白いことをしてやろうとか、やるからには負けたくないっていうのはあるんですけど……そう、今、シンガーソングライターの女の子とか、すっごい増えているじゃないですか?

「音楽」という括りに、またもう一個括りを作って、しかも「なんとか女子」って……ダサくないですか?

―いわゆる「ギター女子」的な?

あいみょん:そう……。

―わっ、今、ものすごく嫌そうな顔しましたね。

あいみょん:最初、すっごい言われたんですよ、「ギタ女」って。最近は言われなくなりましたけど。というか、私がTwitterで、「ギタ女とかダサい」みたいなことをつぶやいたせいもあるのかもしれないけど(笑)。

―なぜ、そこまで拒否反応を?

あいみょん:なんかダサいじゃないですか? 「音楽」という括りに、またもう一個括りを作って……しかもそれを「なんとか女子」って、ダサくないですか? もちろん私も、ギターを持って歌っている女子なので、間違ってはいないんですけど、そういう括りには入りたくないというか。

あと、やっぱり「ギタ女」って、ちょっと可愛らしいイメージがあるじゃないですか? その括りに入れてもらって、私が好き勝手に歌っていいなら、それがいちばんインパクトを与えられるのかなって思ったりはしましたけど……やっぱりそれも違うなって。

あいみょん

私、基本的に「人を助けたいから曲を書く」という感覚がないんですよ。

―メジャーデビューシングル“生きていたんだよな”も、いろいろなリアクションがありそうな曲ですよね。

あいみょん:そうですね。この曲は、スタッフから「ちょっと語り掛けるような曲とかは、どうかな?」というアドバイスをいただいて。そのときにちょうどニュースを見て、パッと歌詞が浮かんできたんです。なにかニュースを見たり、事件が起こったりすると、いろいろ考えちゃうじゃないですか、「なにがあったんだろ」って。それがきっかけとなってできた歌ですね。

―<精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ>とか、ちょっと荒井由実の“ひこうき雲”を彷彿とさせるような歌詞の世界観だなって思いました。

あいみょん:確かにそうかもしれないですね。といっても、ニュースで流れてきた女の子のことを、ただ可哀想って歌っているわけではないんです。なにがあったのか、女の子の気持ちはどうだったのか、本当のことはわからない。これが彼女なりの生き方だったのかなって……難しいところなんですけど、私が感じたままのことを素直に書いたというか。

―歌詞は、自分のなかから出てくるというより、外からなにか刺激を受けて書くことが多いですか?

あいみょん:私の場合、「自分の物語」というよりも、なにか衝撃的なニュースとかを見たときに考えたことを、ストーリー性のある歌詞として書くことが多いですね。あと、本を読んだときになにか思いついたりとか。2曲目に入っている“今日の芸術”は、岡本太郎さんの本を読んだことがきっかけで生まれた曲で……。

―岡本太郎って、芸術家の?

あいみょん:そうです。私、岡本太郎、大好きなんですよ。太陽の塔に衝撃を受けて、そこからのめりこんでいって。岡本太郎は、絵とか彫刻もすごいんですけど、常識から外れた生き方とか、その生き方から出てくる言葉が、すごく面白いんですよね。超影響を受けてます。

あいみょんフリーペーパー『東京バージン』より一部抜粋
あいみょんフリーペーパー『東京バージン』より一部抜粋

―あいみょん自身としては、今後どんな曲を歌っていきたいと思っているのですか?

あいみょん:私、基本的に「人を助けたいから曲を書く」という感覚がないんですよ。「誰かの背中を押してあげられるような曲になれば」とか、そういう感覚がまったくなくて。でも、実際に曲を出して、「勇気出ました」とかって言われるのは、すっごく嬉しいんですよね。

―それはなぜ?

あいみょん:たとえば、“生きていたんだよな”にしても、聴いてくれた人から「勇気が出ました」とか、私が思ってなかったようなリアクションがいろいろと返ってきて。これを恋愛の曲として捉えている人もいれば、友達の歌と思っている人もいる。そうやって、予想外のリアクションが返ってくると、この曲を作ってよかったなって思うんです。それが楽しくて表現しているところはありますね。

―共感してほしいというよりも、どこかで共振してほしいというか。

あいみょん:うん、そういう感じかもしれないです。なにか具体的なことを伝えたいと思って曲を書いているわけではない。逆に、作品を出してからのみんなのリアクションで、いろいろなことを知ることも多いですし。自分が昔書いた曲が、今の自分に響く場合とかもありますからね(笑)。そういうところが、表現の面白いところだなって思うんですよね。

スタッフさんやクリエイターさんとか、みんなと一緒に「あいみょん」というものを作り上げている。

―最初に多趣味だとおっしゃっていましたが、今後音楽以外の表現も追求していきたいという気持ちはありますか?

あいみょん:音楽に限らず、いろいろやりたいなと思いますね。もの作りが大好きなんです。だから、デビュー前にクラウドファンディングでフリーペーパーを作らせてもらったことも、「もう最高」って感じです(笑)。

あいみょん

―フリーペーパーは、どういう発想からスタートしたものだったんでしょう?

あいみょん:メジャーデビュー前の私が表紙を飾った雑誌が本屋さんに置いてあったら、みんな「この子誰かな?」ってなるじゃないですか(笑)。最初の発想は、シンプルにそれだけだったんです。

そこに、私のことを知ってもらう企画をいっぱい詰め込みました。私が今年に入ってから上京してきたということもあり、「東京バージン」をテーマに、東京都内でストリートライブをしたり、私のロゴやアーティスト写真などのディレクションをしてくださっている、アートディレクターのとんだ林蘭さんとの対談があったり、スタッフのみなさんやカメラマンの方々と一緒に作りあげていって。私自身が撮影したミニ写真集みたいなページもあったり、「あいみょん」の全部を詰め込んだものになっています。

―そうやって、誰かと一緒にものを作り上げていくことが好き?

あいみょん:そうですね。もともと私がギター1本と声だけで作ったデモを、アレンジャーさんに渡したら、想像してなかったアレンジで返ってきて「うわ、すっげえ!」ってなったりする瞬間が好き。自分にはできないことをやってくれる人たちと一緒にものを作ったり、みんなで力を合わせて作業することが、なによりも楽しいんですよね。その過程でいろんな新しい発見があるのが、本当に面白い。

―シンガーソングライターとしてデビューするだけではなく、この機会にいろいろとやってみたいことを全部やろうとしているわけですね。

あいみょん:はい(笑)。ただ、全部を私一人でやるのではなく、私にできないことは、その道のプロにお任せして。スタッフさんやいろんなクリエイターさんとか、みんなと一緒に「あいみょん」というものを作り上げているようなところがあるかもしれないですね。その作業が楽しいというか。

「あいみょん」という人を演じるような感覚でいたりすることも多いんです。一生「あいみょん」は謎のままでいたいというか、どこか矛盾した存在でありたいなっていうのは思っていて。なにか引っ掛かる部分というか、見たり聴いたりしていて、「ん?」って思うようなところを作っておくことは大事かなって思うんですよね。

あいみょん

―わりと珍しいタイプのシンガーソングライターのようですが、今後どうなっていくんでしょうね。

あいみょん:どうなっていくんでしょうね。私にもわからない(笑)。もちろん、音楽はしっかり頑張りたいというか、やるからにはテッペン取るくらいの意気込みでやりたいと思っていますけどね。

せっかくこんなにいろんな人がいる世界に入ってこれたんだから、いろんなことをやらないともったいないなって思うんですよね。だから、音楽が軸になっていくのは間違いないとは思うんですけど、そこから枝を生やしていきながら、いろんなことをやっていきたいと思います。

リリース情報
あいみょん
『生きていたんだよな』(CD)

2016年11月30日(水)発売
価格:1,080円(税込)
unBORDE / WPCL-12398

1. 生きていたんだよな
2. 今日の芸術
3. 君がいない夜を越えられやしない

書籍情報
『あいみょんフリーペーパー「東京バージン」』

配布店舗:
ヴィレッジヴァンガードお茶の水店
ヴィレッジヴァンガード高円寺店
ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店
ヴィレッジヴァンガード下北沢店
ヴィレッジヴァンガード自由が丘店
ヴィレッジヴァンガード三軒茶屋店
ヴィレッジヴァンガード町田路面店
ヴィレッジヴァンガード名古屋中央店
ヴィレッジヴァンガード高蔵寺店
ヴィレッジヴァンガードアメリカ村店
ヴィレッジヴァンガード新京極店
ヴィレッジヴァンガード三宮店

イベント情報
『あいみょんメジャーデビュー&フリーペーパー発行記念「あいみょんのトーク中心なイベント」』

2016年11月27日(日)
会場:東京都 ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店

2016年12月5日(月)
会場:東京都 ヴィレッジヴァンガード高円寺店

プロフィール
あいみょん
あいみょん

1995年生まれ。兵庫県西宮市出身のシンガー・ソングライター。2015年3月4日、タワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌~死ね~』をリリースし、19歳でデビュー。過激な歌詞が話題となり、各局で放送NGとなりながらもオリコンインディーズチャートでトップ10入り。2015年5月20日、初の全国流通盤となるミニアルバム『tamago』をリリースし、同年12月2日には、2ndミニアルバム『憎まれっ子世に憚る』をリリースする。2016年、スペースシャワーが近い将来にブレイクが期待されるニューカマーを紹介する新企画『SPACE SHOWER NEW FORCE』10組に選出。2016年11月30日、1stシングル『生きていたんだよな』で、ワーナーミュージック内レーベル・unBORDEよりメジャーデビュー決定。



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