インタビュー

「桑田佳祐」を徹底解剖 同時代に業界で活躍する佐藤剛が分析

「桑田佳祐」を徹底解剖 同時代に業界で活躍する佐藤剛が分析

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:関口佳代 編集:矢島由佳子、柏井万作

日本の音楽シーンは、いつも9の年に変わっていったんです。

―実際、1996年の『Act Against AIDS』(立ち上げ当初から、桑田が積極的に関わっているエイズ啓発運動イベント)で、『夷撫悶汰レイト・ショー』(イブ・モンタン=フランスで活躍したシャンソン歌手に、桑田が扮してスタンダードジャズを演奏)と称するライブをやるなど、自らのルーツを掘り下げるような試みを、定期的にやるようになりました。

佐藤:そうですね。そこから今に至るまで、ちゃんと一直線に繋がっていると思うんですよね。それまで桑田さんの音楽のルーツは、The Beatlesとかクラプトンって言われていたんだけど、実はまだ桑田さんが物心ついていないとき、知らず知らずのうちに聴いていたポップスや歌謡曲が、実は栄養となり血や肉となっていたことに、桑田さん自身が気づいたのかもしれません。

佐藤剛

―デビューから考えると、約20年後のことですね。

佐藤:その辺りから、もう一度自分のルーツを見極めて、これから自分が何を作るべきなのか、今できることをちゃんとやろうと思ったんじゃないですかね。そうすることで、日本の音楽の発展に関して、自分ができることをやり始めた。それが遠くから見ていてわかったので、さらに興味を持ち始めたんです。この人は、やっぱりすごいなと。

―現在、佐藤さんがやられている歌謡曲研究とも、ちょっとシンクロする話ですよね。

佐藤:そうですね。僕の場合は、僕たちは何を聴いて、どうして今ここにいるのかということを知りたくて。音楽の現場にいると、世間で言われていることと事実が、微妙に違うことがわかるので、それを解明してみようと。そこから音楽プロデュースの仕事を半分以下に減らして、ノンフィクション作家を目指して原稿を書き始めました。

それでまず真っ先に、“上を向いて歩こう”という曲が、なぜアメリカで63年に1位になったのか、その時代に世界では同時に何が起こっていたのかというのを調べて、『上を向いて歩こう 奇跡の歌をめぐるノンフィクション』(2011年 / 岩波書店、小学館文庫)という本を書いたんです。そして今は、どういうふうに洋楽やThe Beatlesが日本に入ってきて、どう定着して、The Beatlesのフォロワーがどのように増えていって、それが日本の音楽をどう変えたのかっていうことを書いているところです。

『上を向いて歩こう 奇跡の歌をめぐるノンフィクション』表紙
『上を向いて歩こう 奇跡の歌をめぐるノンフィクション』表紙

―非常に興味深いです。

佐藤:それは結局、50年代の終わりから70年頃までに、日本の音楽シーンで何が起こっていたのかを解明する作業なんです。そこでひとつ発見したことがあって。日本の音楽シーンって、10年ごとに転機が訪れているんですよ。

59年に『第一回レコード大賞』があって、ジャズピアニストの中村八大が作曲とプロデュースを手がけた“黒い花びら”(水原弘のデビュー曲)が大賞を獲って、歌謡曲の世界が一気に変わっていった。永六輔が作詞しましたが、当時は「あんなものは歌詞じゃない」と言われた。そして69年には、次の時代のソングライターが一斉にメインストリームで活躍し始めました。はっぴいえんどとアンドレ・カンドレ=井上陽水が出てくる。つまり70年代にニューミュージックを作る人が、69年から70年くらいに一斉に出ているんです。彼らはそれまでのポップスのスタイルを否定して、日本語の使い方も変えていった。そして、79年にはYMOが注目を集めて、サザンが“いとしのエリー”を出すわけです。

佐藤剛

佐藤:“勝手にシンドバッド”でデビューしたときは、世間的にはキワモノのように思われていたけど、次の年に“いとしのエリー”が出て、この人たちは正統派ポップスの王道を行けることがわかった。そういう意味で、過去のポップスを否定してきた70年代前半とは全然違うんです。さらに、89年はバンドブームがやってきて、そこでまたガラッと音楽シーンが変わる。だから日本の音楽シーンは、いつも9の年に変わっていったんです。

『偉大なる歌謡曲に感謝~東京の唄~』、これもすごかった。僕が考えている日本のスタンダードソングが、きれいに並んでいましたから。

―なるほど。それを言ったら、宇多田ヒカルがファーストアルバムをリリースしたのも、99年でした。

佐藤:そう、宇多田ヒカルや椎名林檎が出てきたのは、98年ですよね。で、翌年にアルバムを出して、音楽の歴史に名を残す存在になる。9の年という話で重要なのは、桑田さんが、日本の音楽史がガラッと変わった59年の音楽をリアルタイムで聴いていることなんです。当時3、4歳だと思いますが。

―69年の変革のみならず、59年の変革も体感していると。そしてそれが、実は桑田さんの血肉に変わっているわけですね。

佐藤:66年にThe Beatlesが来日した頃、つまりThe Beatlesがポップスのアイドルからロックアーティストに変わったときくらいから、おそらく桑田さんは意識的にレコードを聴くようになって、影響を受けたわけじゃないですか。でも、実はその前の、幼稚園から小学校の頃に聴いていたものが背骨になっているという。

―桑田さんの4歳上である佐藤さんも、その頃から徐々に、音楽プロデューサーから歌謡曲研究へとシフトしていったわけですよね。

佐藤:期せずして、そうなりましたね(笑)。だから、桑田さんにはすごく影響を受けていますよね。

僕は僕として、日本の良い音楽はちゃんと残していきたいし……良い音楽っていうのは、必ずしも売れたものではないんですよ。というか、そこまで売れていないのに生き残っているもののほうが、はるかに生命力があるというのは歴史が証明しています。21世紀に入ってからカバーされている歌の大半は、リリース当時は大ヒットしていなかったものも多いので。カバーした人によって、発見されているんです。

そういう意味でも、日本の歌謡曲って、まだまだ発見される余地があると思うんですけど、08年の『Act Against AIDS』で桑田さんがやった『ひとり紅白歌合戦』の選曲なんて、僕が良いと思っている楽曲とほぼ全部、一致していたんです。そして今年になって放送された『偉大なる歌謡曲に感謝~東京の唄~』、これもすごかった。僕が考えている日本のスタンダードソングが、きれいに並んでいましたから。一般的に良いとされている曲ばかりでなく、渥美清の“男はつらいよ”や、高倉健の“唐獅子牡丹”まで一緒なんで驚きました(笑)。まさにそれらが僕たちを支えている歌で、ルーツなんです。

―なるほど。

佐藤:だからやっぱり、この人は、自分と同じ時代を過ごしてきた人なんだなっていうのは、すごく感じますよね。現役の音楽家として、休むことなく活動し続けながら、今これをやっているという。それは僕にとって、非常に尊敬に値することなんです。

―お二人とも、日本の音楽の大切な歴史を、伝えようとしていらっしゃるわけですね。

佐藤:そうですね。僕が裏方の人間にしかわからない、音楽史の事実などをコツコツと記録しようと思ったときに、桑田さんが表に立って、人に見える形で、自分の身体と才能を使ってそれをアピールしてくれている。だから言ってみれば、僕にとって桑田さんは、羅針盤みたいなものなんです。すごく励みになっているんですよね。

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イベント情報

『〈文春トークライブ 第12回〉浜田真理子「昭和」をうたう。』

2016年12月20日(火)
会場:東京都 四ツ谷 紀尾井ホール
出演:
浜田真理子
佐藤剛(MC)
料金:5,400円

プロフィール

佐藤剛(さとう ごう)

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。シンコーミュージックを経て、プロデューサーとして独立。THE BOOM、宮沢和史、ヒートウェイヴ、中村一義、スーパーバタードッグ、ハナレグミ、由紀さおり、数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。日本の歌謡曲と音楽史を研究。著書にノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『「黄昏のビギン」の物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(共著・徳間書店)など。

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