インタビュー

「桑田佳祐」を徹底解剖 同時代に業界で活躍する佐藤剛が分析

「桑田佳祐」を徹底解剖 同時代に業界で活躍する佐藤剛が分析

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:関口佳代 編集:矢島由佳子、柏井万作

“ヨシ子さん”という曲は、50年分の音楽が入っている。楽器もメロディーも言葉も、中近東から出発して、日本を経由しながら北米に行って、南米で終わる5分間の曲。

―そんな佐藤さんは、桑田さんが今年リリースした“ヨシ子さん”という曲を、どんなふうに聴かれたのでしょう?

佐藤:これは別の場所にも書いたことですが、あの歌は、僕の子どもの頃の体験が、そのまま歌になっているようなところがあって。つまり、『ローハイド』(1959年から1965年にかけて米CBSで制作・放送された西部劇ドラマで、日本でも放送された)や、同じ時期の“チャンチキおけさ”(1957年に発売された三波春夫のシングル)が、“ヨシ子さん”の中にある。要は、フランキー・レイン(『ローハイド』の主題歌を担当)と三波春夫がひとつになっているんですよ(笑)。

佐藤:あと“ヨシ子さん”には、シタールの音が入っていますが、シタールを使ったヒット曲といえば、66年、The Rolling Stonesの“Paint It Black”(邦題“黒くぬれ!”)なんですよね。で、その次に出した“Have You Seen Your Mother, Baby, Standing In The Shadow”(邦題“マザー・イン・ザ・シャドウ”)のAメロが、“ヨシ子さん”のCメロに通ずるところがある。

―そうなんですね。

佐藤:ひょっとしたら桑田さん自身も気づいてないかもしれないけど、なんでこれが出てきたんだろうって考えると、“Paint It Black”の次にサイケデリックの曲だったから、強烈な印象だった。きっとその時代に聴いていたと思います。あと、一番わかりやすいのは、“コンドルは飛んでいく”ですよね。“ヨシ子さん”という曲は、そうやって50年分の音楽が、いろんなところに入っているわけです。楽器もメロディーも言葉も、中近東から出発して、日本を経由しながら北米に行って、南米で終わる5分間の曲になっていて、こんなに面白い音楽はないですよね。

―今度リリースされる新曲“君への手紙”については、どうでしょう? “勝手にシンドバッド”と“いとしのエリー”ではないですが、こちらは“ヨシ子さん”に比べて、かなりスタンダード寄りの曲になったように思うのですが。

佐藤:様々な経験を経て、屈託なく本当のことを普通に日常の言葉で言えることのすごさがある曲ですよね。桑田さんって、言葉の意味の人じゃなくて、言葉が持っている訴えかける力の人だと思うんです。

たとえば、この<夢追って調子こいて>という歌詞。「調子こく」って、完全に日常会話の言葉じゃないですか。そうやって、今年60歳の人が、日常言葉で心情を歌っていることのすごさというかね。今はもう、そういうところにきている。

だからこの“君への手紙”は、“ヨシ子さん”のちょうど裏返しみたいなもので、ほとんど気持ちだけでスッと書いた、一筆書きのような曲というか……そういう良さってありますよね。桑田さんの飾らない感じが、そのまま曲に出たというか。そういうふうに感じましたね。

―なるほど。

佐藤:あと、それは桑田さんが今やっていることにも繋がっていると思うんですけど、桑田さんは、多分自分に飽きていないんですよ。自分に飽きると、人は違う方向を見たりしがちだけど、桑田さんはずっと自分の中にあるものだけを見ている。

以前は、若さもあるし、表現したいこともあるし、成功もしたいし仲間もいたから、いろんなものがいっぺんに出ていたけど、今はそういうものに整理がついて、自分の中にある音楽だけを真摯に見ているような気がするんです。

―色々な物事に惑わされない?

佐藤:そう思います。普通の人は、必要以上に自分を大きく見せようとしたり、いわゆる洋楽コンプレックスがあったりするんだけど、桑田さんの場合は、洋楽も邦楽も……物心つく前の自分の中にあった歌謡曲もすべて、全部フラットに扱えるんですよね。そこにヒエラルキーをつけたりせず、全部自分の血となり肉となっているという。

―確かに、そんな気はします。でもなぜ桑田さんは、そういったスタンスを獲得できたのでしょう?

佐藤:時代や環境が生んだものなんでしょうかね……そう、僕が印象に残っているのは、桑田さんが子どもの頃、お父さんと一緒にお風呂に入ると、お父さんがいろんな曲を歌うんだけど、それがどんどん替え歌になっていくというエピソードで。

そうやって、替え歌の楽しさを覚えたときに、子どもの桑田さんはソングライティングを覚えたわけですよね。こういうメロディーに、こういう言葉をのっけたら面白いねっていう。それを小さい頃から、お父さんに習っていたわけです。

そしてお姉さんには、「こういう音楽がかっこいいんだ」っていうのを、物心つかないうちから、The Beatlesで叩き込まれた。そこまで徹底的に音楽に育てられる環境って、普通ないんですよ(笑)。あと、そうした環境の中には歌謡曲も、ジャズもダンスミュージックも全部あるんだけど、クラシックだけがない。そこが僕からしたら、拍手ものなんですよ。

―というと?

佐藤:クラシックが入ると、どうしてもクラシックのほうが高級で立派なものだっていうコンプレックスを持ってしまう人が多いと思います。だけど桑田さんの場合、そこがあんまりないから、すべての音楽に対して平等でいられる。どこの国の言葉であろうが、どんなリズムであろうが、音楽に対してとにかく正直なんですよ。それはクラシックに対してもです。

だから桑田さんは、今年デビューした誰それの歌がいいとか、今の時代の音楽に対しても心が開けるわけです。世間的に評価されると、みんな偉くなったふりをしたがるし、あるいはさせられちゃう。だけど、桑田さんの場合は、それがまったくない。むしろ、「俺は大したもんじゃない」って言いながら、それでも大したものだっていうところを見せていく。そうやって常に、100に対して120くらいを目指してやっているところが、本当にすごいと思うんです。

佐藤剛

―では最後、今年還暦を迎えられた桑田さんに、何かひと言メッセージを。

佐藤:いやいや、僕にとっては羅針盤みたいな人なので、このまま行ってくださいって、それだけですよね(笑)。遠くから桑田さんの存在を感じられれば、それで僕は十分だから。僕は裏でアーティストを支えている側の人間だけど、桑田さんと同じようなことを感じたり体験したりしているんだなって、すごく共鳴しているし……だから、心強いんですよね。

ある時代のある音楽について楽しく話せる人はいっぱいいますけど、ありとあらゆるものについて感じ合える人は、そういないですから。しかも、それを音楽シーンのど真ん中でやっているっていう。もう、国宝だと思います(笑)。

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イベント情報

『〈文春トークライブ 第12回〉浜田真理子「昭和」をうたう。』

2016年12月20日(火)
会場:東京都 四ツ谷 紀尾井ホール
出演:
浜田真理子
佐藤剛(MC)
料金:5,400円

プロフィール

佐藤剛(さとう ごう)

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。シンコーミュージックを経て、プロデューサーとして独立。THE BOOM、宮沢和史、ヒートウェイヴ、中村一義、スーパーバタードッグ、ハナレグミ、由紀さおり、数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。日本の歌謡曲と音楽史を研究。著書にノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『「黄昏のビギン」の物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(共著・徳間書店)など。

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