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取材中も変顔連発な画家・松井えり菜が刺激されまくった海外留学

取材中も変顔連発な画家・松井えり菜が刺激されまくった海外留学

『DOMANI・明日展』
インタビュー・テキスト
野路千晶
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子

次の興味の対象を探しにいくとき、インターネットでは補完できない。

―留学時代の自画像にも、その当時の生活や変化が表れているのでしょうか?

松井:そうですね。海外への長期滞在はフィンランドのヘルシンキが初めてだったのですが、ヘルシンキは間接照明ばかりなので、顔が黄色く見えるんです。なので、そのときに描いた自画像はやけに顔が黄色いです。あとは、フリーマーケットで見つけた人形を顔の周りに描いたりしていました。

松井えり菜

―生活がかなり反映されていますね。2012年からは1年間、新進芸術家海外研修制度でドイツに滞在されています。それはフィンランドでの経験に基づく決心だったんですか?

松井:私、基本的に日本大好きなんですよ。日本の文化が大好きで、食べ物もおいしいし。それで、フィンランドに留学してちょっと海外生活にも満足したんです。「もうこのまま日本にいてもいいか」とちょっと守りに入っていて、大学院を出たあと1年ほど国内でズルズルと生活をしていたら、東日本大震災が起こって。

―2011年。ちょうど留学の1年前ですね。

松井:そう、そこで時間って無限にあるわけじゃないし、興味を持ったらすぐに動くっていうことを忘れないようにしなきゃいけないと強く思って。悔いなく生きようと決心したんです。

―ドイツを選ばれた理由はなんなのでしょうか?

松井:憧れという病の治療ですね(笑)。先ほど話に出た大原美術館の影響もあるかもしれないのですが、私は幼少期から西洋画への強い憧れがあるんです。西洋画といえばいくつかモチーフがあるわけですが、そのひとつ、「お城」のあるドイツがいいかなって。ちょうどベルリンのクンストラーハウス・ベタニエンにパーミッションをいただいたのと、ドイツ製のおもちゃも大好きなのでタイミングに恵まれていた。

ベルリンのクンストラーハウス・ベタニエンでの個展『Road Sweet Road』Photo by shinji minegishi
ベルリンのクンストラーハウス・ベタニエンでの個展『Road Sweet Road』Photo by shinji minegishi

―好きなものを追いかけてドイツを選ばれたんですね。

松井:そうですね。ドイツには私の好きなものの源流や、モチーフとなるものがたくさんありました。

―ドイツでは、実際にどういった作品を作られたのでしょうか?

『Nightmare before New Year』(2013年) ©Erina MATSUI Photo by Keizo Kioku Courtesy of YAMAMOTO GENDAI
『Nightmare before New Year』(2013年) ©Erina MATSUI Photo by Keizo Kioku Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

松井:たとえばこれは、私が実際に経験したベルリンでの年越しの様子を元に制作した作品です。ベルリンは普段は過ごしやすくアートに溢れた素敵な町なのですが、年末はがらっと雰囲気が変わるんです。みなさん日頃の鬱憤を晴らすように、見たことのないくらい大きいロケット花火を、なぜか横向きに撃ち放つんです!

町中が戦争映画のように爆発音、爆煙で包まれ、挙げ句の果てに町を象徴するブランデンブルグ門の周りも火柱で包まれて……。「怖い!!」と思った時に、私が地球になって、叫んでいるというイメージが浮かびました。びっくりしすぎて絵の中の木星も飛び出してしまいました(笑)。

―とても刺激的だったのですね。

松井:そうですね。でも、私は一所に留まって、どこにも取材に行かずに、同じ場所で毎日のように絵を描いていると、好きなものへの興味が消耗されていくんですよ。

―消耗ですか?

松井:そう。ゆるやかに興味が薄れていくので、次の対象を探しにいかなければいけない。で、それはやっぱりインターネットでは補完できないんですよね。例えばフランスのシュノンソー城は潤沢な維持費によって、常に新鮮なお花が生けてあるんですよ。その新鮮な花の香りの素晴らしさが、作品の一要素になるんです。逆に、ベルサイユ宮殿は「意外と砂利ばっかりだ!」っていうおもしろさもあったり。

―ドイツを拠点に、フランスなど近隣の国も訪れたんですね。

松井:『GEISAI#6』で金賞を受賞した翌年に、パリのカルティエ現代美術財団のグループ展に参加したのですが、そこでお世話になった方々や友人、あとは、恩師の辰野登恵子先生(画家・版画家)が使用したこともあるパリのリトグラフ工房「IDEM」に行ったりもしました。各地でフリーマーケットを訪れて、それぞれの国の違いも実感しました。

―フリーマーケットで入手した一部のおもちゃは、作品中でモチーフとして描かれていますね

松井:はい。フリーマーケットの文化は本当におもしろいですよ。バルト三国やロシアでは必ずスポンジ製の人形を発見するし、木製のおもちゃが特徴的なスイス、金属製のものが多いフィンランド、「こんなもの売るんかーい」と突っ込みたくなるようなものが売っているフランス。本当に多彩です。

―作品を制作して、お城を訪れて、フリーマーケットにも行き、すごく充実した1年だったんですね。

松井:そうですね。楽しみや好奇心を蓄積するためにドイツに留学したような気がします。私は西洋画の一方で、オタク第1世代の父の影響で『キャンディ・キャンディ』や『ベルサイユのばら』、その他マニアックなものも含めて、西洋を舞台とした1970~80年代の少女漫画も大好きなんです。好きなことや、やりたいことの集大成が私になり、芸術になると思っています。

松井えり菜

―実際、近年発表された作品は、これまでの松井さんによる自画像とは少し異なるように見えます。たとえば、2015年にギャラリー「山本現代」で開催した個展『マンガ脳夜曲(マンガノウセレナーデ)~絵画の続き~』で発表された『コマ割りの受胎告知』。これは漫画のコマ割りを思わせますが、それらは「好き」を追求した結果でもあるのでしょうか?

松井:そうです。西洋文化→少女漫画→私、その奇妙な伝言ゲームに気づいて描き始めたのが、『コマ割りの受胎告知』をはじめとした最近の西洋美術のインスパイアシリーズなんです。自分の好きなものを追求してみた結果、少女漫画自体が西洋文化、絵画の影響を強く受けていることに気づきました。

―影響とは、たとえばどういうところですか?

松井:漫画の扉絵の構図で、1枚の画面に大きい人間がいたり小さい人間がいたり、そして同時多発的に色々な出来事が起こっているっていうものがありますよね。それが古典絵画にすごく似ているように思えて。そして、その漫画の構図の影響を私自身も受けているんです。

松井えり菜

―そういった発見や自覚は、最近得たものなんですね。

松井:昔はもっと無意識に描いていたんです。でも2014年、恩師が亡くなったことをきっかけに自分のことを考えていたら「あれっ、どうやって描いたんだっけ?」「どうして私は作品を作っているんだっけ?」って一瞬見失って、描けなくなってしまって。そのときにルーツを考えたんです。

―ルーツをたどることで、新たな展開が生まれたと。

松井:はい。恩師や友人の死など、いろいろな変化が同時多発的に起きて「私は変化するべきじゃないのか?」と考えると同時に、自然とルーツに向かっていきました。今はこれまでの画風を残し、自画像の系譜も踏まえつつ、いろんな可能性を開拓している最中です。時代や時代に合わせてスタイルを変えていくことが、今を生きているペインターの役目なんじゃないかって。

―これから訪れてみたい国はありますか?

松井:アメリカですね。ドイツ留学時に発表した作品のレビューがアメリカの美術雑誌に載ったことをきっかけに、アメリカの方にたくさん興味を持っていただけた。時間は限られているから、行くなら少し急がないといけないですね。後悔のないように、生きていかないといけません。

松井えり菜

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イベント情報

『未来を担う美術家たち「19th DOMANI・明日展」文化庁新進芸術家海外研修制度の成果』

2016年12月10日(土)~2017年2月5日(日)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 企画展示室2E
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
参加作家:
池内晶子
岡田葉
南隆雄
秋吉風人
保科晶子
松井えり菜
曽谷朝絵
三原聡一郎
山内光枝
今井智己
折笠良
金子富之
平川祐樹
休館日:火曜、12月20日~1月10日
料金:一般1,000円 大学生500円
※高校生、18歳未満および障害者手帳をお持ちの方と付添者1名は無料

プロフィール

松井えり菜(まつい えりな)

画家。現代美術家。1984年、岡山県出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了。自画像やウーパールーパーをモチーフとした作品を多く制作する。2004年に自画像『エビチリ大好き』で『GEISAI#6』金賞を受賞。同作品はパリ・カルティエ現代美術館のコレクションとして収蔵される。平成24年度文化庁新進芸術家海外留学制度研修員。

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