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数多の有名ロゴを生んだ永井一正。実践で培ったデザイン&ロゴ論

数多の有名ロゴを生んだ永井一正。実践で培ったデザイン&ロゴ論

富山県美術館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

アートが「個」ならば、デザインは「和」。日本では「和」の精神が重んじられていたことが大きい。日本人は、デザインが得意な民族なんです。

―ロゴは関わる人間の、よりどころとなり得る。永井さんが手がけられたお仕事のなかでも、シェア率が落ち目だったアサヒビールが、ロゴをはじめとしたデザインを一新することで、ふたたびビール業界で躍進したことは、デザインの力を示す成功例としてよく語られています。

永井:それまでアサヒビールは、レイモンド・ローウィ(日用品から工業機械まで様々な分野を手がけた20世紀を代表するデザイナー)が作った、日章旗のような真っ赤なロゴを使っていました。しかし、どんどんシェアが落ちて、ついに10%を切ってしまったんですね。

そこで、色を赤から青に、シンボルも特徴的な書体のデザインに一新しようということになった。さらに大きいのは、アサヒビールはもともと技術力には定評があったんですが、そこにマーケティングを加えて、消費者の好みを徹底的に分析したことです。そして、「スーパードライ」という大ヒット商品を生み出しました。

アサヒビール株式会社 ロゴ(1986年)
アサヒビール株式会社 ロゴ(1986年)

―その相乗効果で、シェアを回復したわけですね。ビールのような成熟産業で、これだけの逆転劇を果たすというのは、非常に珍しいことのように思います。

永井:デザインが一新されたことで、従業員の意識も変わったんです。先ほどの話とも重なりますが、僕がよく言うのは、いくらロゴが良くても、商品が悪いと逆効果になる。ロゴの良さによって、商品の悪さが際立ってしまうわけで、これは絶対に両立しないとダメなんですね。アサヒはまさに社運をかけた賭けだったけど、うまくいきました。

―そして多くの人が見ない日は無いくらい、生活に入り込んでいった。

永井:それがロゴデザインの面白さのひとつです。JAや三菱東京UFJ銀行のロゴも僕のデザインなのですが、全国津々浦々にありますね。「永井さんはどんなお仕事をされているんですか?」と聞かれると、周囲を見回して「あれです」と言っています(笑)。

永井一正

―それができる方は、多くはいないですね(笑)。アサヒビールの事例もそうですが、広い意味でシンボルというものには、集団の結束力を高める働きがあるんでしょうか。

永井:ええ。シンボルというのは、そういうものですね。たとえば、オリンピックで国旗があがると、日本人であることをことさら意識していなくても、何か心が動くものがあると思います。国家でも企業でも、シンボルはそういう役割を果たすことがある。

じつは日本というのは、そうしたシンボルが早くから使われていた国だったんです。たとえば家紋もそうで、あれは平安時代に出てきたものですが、まもなく武将の時代になると、戦場での旗印にした。あるいは商家でも、暖簾にシンボルを掲げますよね。

永井一正

―たしかにそうですね。

永井:西洋の紋章は、貴族から受け継いだものが多く、ライオンが2匹いたり、鷲がいたりする複雑なものが多いですが、日本の場合は、ただの輪っかの太さを変えたりするだけの、すごくシンプルなものが多いのが特徴です。日本では百姓まで、シンボルを持っていたんですね。

西洋の「個」の精神に対して、日本では「和」の精神が重んじられていたことがその大きな理由だと思う。アートが「個」ならば、デザインは「和」です。日本人は、それが得意な民族なんです。琳派の作品や浮世絵も、今ではアートの文脈で語られますが、本来は日常で使われるデザイン的な要素が高いものですね。

デザインは経済のベースの上に成り立ち、時代を写す文化性も持っている。そのバランス感覚に惹かれたんです。

―ところで今回、永井さんの経歴を拝見していて、もともと彫刻科出身だったことに驚きました。そこからデザインの世界へ移られたのは、なぜだったんでしょうか?

永井:大学2年のとき、目の網膜が破れてしまう眼底出血という病気をしたんです。僕は彫塑をやっていたので、非常に体力がいるんですね。そして、病院からあまり体力を使うと再発すると言われ、郷里の大阪に帰りました。

戦後というのはモノがない時代ですから、作れば何でも売れる。しかし僕の父親が以前、勤めていた大和紡績でも、1950年代になるとワイシャツのような二次的なものも作るようになり、それを売るために、パッケージやパンフレットを作る必要が出てきたんです。

永井一正

―そこでデザインが必要になった。

永井:そうなんです。大和紡績のひとたちが「永井の息子が東京藝術大学に行っていたけど、身体を壊して帰郷している。そいつにやらせよう」となったらしい。当時は藝大に行っていたら何でもできると思われていたんですね(笑)。でも、大和紡績にデザイナーは僕一人だけで、デザインの基礎も、頼れる先輩もいないわけです。

―はじめは苦労もありましたか?

永井:幸い、僕はデザインに向いていたみたいです。面白かったんですよ。彫刻は、制作に苦労していたけど、デザインはわりとすぐ浮かぶ。「こんなことでお金をもらって良いのかな」なんて思っていましたね(笑)。

その後、まもなくして『プレスアルト』という大阪の雑誌に取り上げられるようになり、同じ雑誌に掲載されていた1歳下の田中一光(戦後日本を代表するデザイナー。1930~2002)とも知り合い、親友になりました。

左から:当時の田中一光と永井一正
左から:当時の田中一光と永井一正

―デザインのどんな点に惹かれたのでしょうか?

永井:ファインアートは展覧会に行かないと観られませんが、ポスターなどは街貼りされていて、多くの人から反響がある。社会に密着しているところが面白かった。アートは内面を掘り下げていくわけですが、デザインは「経済」「社会」「文化」の三角形の上に成り立っていると思うんです。

ですから、主観と客観のバランスが大切です。アートは経済なんか関係なく、むしろ売ろうとして描く絵は軽蔑されるくらいですけど、デザインというのは経済のベースの上に成り立つ。そして後から見れば、その時代を写した鏡としての文化性も、持っているわけです。そのバランス感覚に、惹かれたんですね。

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美術館情報

富山県美術館

3月25日(土)よりアトリエ、レストラン、カフェなどが一部開館される。4月29日(土)には屋上庭園「オノマトペの屋上」が開園。8月26日(土)には全面開館し、開館記念展『LIFE-楽園を求めて』(~11月5日)がスタートする。

時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週水曜日(祝日除く)、祝日の翌日、年末年始

プロフィール

永井一正(ながい かずまさ)

1929年大阪生まれ。1951年東京藝術大学彫刻科中退。1960年日本デザインセンター創立に参加。現在、最高顧問。JAGDA特別顧問、ADC会員、AGI会員。1960年以後、日宣美会員賞、朝日広告賞グランプリ、日本宣伝賞山名賞、亀倉雄策賞、勝見勝賞、ADCグランプリ、毎日デザイン賞、毎日芸術賞、通産省デザイン功労賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小授章、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞、ブルノ、モスクワ、ヘルシンキ、ザグレブ、ウクライナ、ホンコンの国際展でグランプリを受賞。

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