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数多の有名ロゴを生んだ永井一正。実践で培ったデザイン&ロゴ論

数多の有名ロゴを生んだ永井一正。実践で培ったデザイン&ロゴ論

富山県美術館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

自分の命を燃やせるものを描かないと、人には伝わらない。デザインの基本は、どこまで行っても人間ですから。

―数多くのロゴデザインを手がける一方、永井さんは、ポスター制作もライフワークにされています。ロゴとポスターの位置付けの違いは、どのようなものですか?

永井:僕はグラフィックデザインの2つの大きな柱が、ロゴとポスターだと思っています。ロゴはいろんな要素をできるだけシンプルに結集するもの。一方、ポスターは、用途はあるけれど、自分の思想を込めながら、要素の持つ力を増幅させるものだと思います。

永井一正

―永井さんと言えば、初期には幾何学的なデザインで知られていましたが、1987年の『JAPAN』というポスターシリーズからは、動物のモチーフを扱い始めますね。

永井:動物を扱っている根幹には、「共生」や「生きること」への関心があります。人間はひとつの種であり、そのなかの人種なんかは、大した違いではありません。でも、動物や植物というのはまったく異なる種である。

「生きること」を考えたとき、そうした別種の存在をいかにデザインで扱うか、その思想をポスターに込めているんです。つまり機能を超えた非合理的なものや、喜怒哀楽を、合理的と捉えられるデザインの世界に導入したかった。

『JAPAN』シリーズより カメ(1988年)カエル(1988年)らんちゅう(1987年)
『JAPAN』シリーズより カメ(1988年)カエル(1988年)らんちゅう(1987年)

―たしかに、つづく『LIFE』シリーズなどでは、銅版画の技法であり、非常に手間のかかる「エッチング」も使われていますね。

永井:「生きること」は、とてもプリミティブなことだと思います。だから、コンピューター無くしてはデザインはできないという時代に、あえてエッチングという、数百年間、技術的に何ら進歩していない面倒くさくて難しい技法を選んだ。今の時代に、一番不便なものに挑戦しようと。

デザインをする上では、時代性は無視できないし、それに流されることも必要かもしれない。けれど、ある瞬間には、その流れに反する行いをしたいんです。逆らうことで、その作られたデザインの価値が輝くときがあるんですね。

永井一正『LIFE』シリーズ(2002年)
永井一正『LIFE』シリーズ(2002年)

永井一正

―作り手の格闘が、受け手にも伝わる。

永井:自分の命を燃やせるものを描かないと、人には伝わらない。デザインの基本は、どこまで行っても人間ですから。デザインは「伝達」であり、そこでは自分の内面こそが問われるわけです。表面的なものにばかり気をとられていると、表面的にしか伝わらないんです。

―そんな永井さんにとって、87歳になられた現在も制作を続ける原動力とは、何でしょうか?

永井:やはり、とても虚弱体質だったことがあると思います。僕は7か月で生まれて、誰も育つとは思っていなかった。長男でしたが、僕がまだ生きているのに、母親は周りから「また男の子が生まれるから」と慰められていたくらいでした。

その虚弱体質が、コンプレクッスでもあり、原動力でもあったと思います。満腹だと動きたくないのと同じで、やはり欠陥がある方が、それを満たそうという動機が生まれるんです。そこで、年を重ねた今も、エッチングのような、あえて身体に鞭打つことをやっているわけです。

今後デザインをしていく上では、自分の足元にある、生きてきた土地を見ることが重要だと思う。

永井一正

―最後に、富山県美術館が「アート&デザイン」を冠してリニューアルするにあたって、今後、期待されていることは何でしょうか?

永井:これまであまりなかった、デザイナーとアーティストの共同制作というものを、期待したいですね。アートの見せ方をデザイナーが考えるだけではなく、同じ立場で何か新しいものを作るようなことがあると嬉しい。

そういえば、富山県立近代美術館の閉館にあたって行われた『ありがとう近代美術館 PART2 MOVING!― ミュージアムが「動く」』で、淺井裕介さんというアーティストが、僕のこれまでのポスターを展示室に飾り、足を描き足す作品を作ったんです。あれは、とても面白かった。

『ありがとう近代美術館 PART2 MOVING!― ミュージアムが「動く」』展示風景 永井一正が手掛けたポスターに淺井裕介が足を描き足した
『ありがとう近代美術館 PART2 MOVING!― ミュージアムが「動く」』展示風景 永井一正が手掛けたポスターに淺井裕介が足を描き足した

―美術館におけるデザインの位置づけも、今後、変わるかもしれないですね。

永井:そうですね。これまで日本には、デザインミュージアム自体がなかった。そんななかで、富山県立近代美術館は、今も続く『世界ポスタートリエンナーレトヤマ』という国際的なポスターのコンペを開いてきました。

前々回は4622点が集まりましたが、これは、世界最高の応募点数です。デザインは今まで、二次的な表現と思われていましたが、そんなデザインの価値向上にもつながるものがあるといいなと思います。

『世界ポスタートリエンナーレトヤマ2015』展示風景
『世界ポスタートリエンナーレトヤマ2015』展示風景

―近年は、デザインのあり方を考えさせる話題も多いですよね。この取材時期も、温泉のピクトグラムがわかりにくいから変えるべきというニュースがありました。今後、さまざまな国籍の人が訪日するなかで、デザインにとって何が大切か、問われていると感じます。

永井:僕は、温泉というのは、火山列島の日本の大事な文化だと思うんですね。あの温泉マークは、そんな伝統を刻んだ傑作だと思います。ですから、海外の人がわかりやすいものにただ変えるというだけではなくて、日本の文化を理解してもらう方法を探ることの方が重要です。

そうしないと、世界中が平坦なものになってしまうと思う。ピクトグラムもひとつの文化であり、単に情報を伝えるものではないということですね。

永井一正

―自身が培ってきた文化を、より大切にすべきだと。

永井:「グローバリズム」とさかんに言われますが、抽象的な作品を作っていた時期、よく「永井のデザインは日本的だ」と言われたものです。自分では無自覚に、日本の伝統を踏まえたデザインを作っていたけれど、それがかえって世界に通じていた。

英語を話せても、内面がないのにペラペラ喋ったら軽蔑されるのと同じで、今後、デザインをしていく上では、自分の足元にある、生きてきた土地を見ることが重要だと思う。それは、まさに今回の富山県美術館のロゴマークで表現したことですし、富山近代美術館が長期的な視野で独自のアイデンティティーを作り上げてきたこととも、つながっていると思います。

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美術館情報

富山県美術館

3月25日(土)よりアトリエ、レストラン、カフェなどが一部開館される。4月29日(土)には屋上庭園「オノマトペの屋上」が開園。8月26日(土)には全面開館し、開館記念展『LIFE-楽園を求めて』(~11月5日)がスタートする。

時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週水曜日(祝日除く)、祝日の翌日、年末年始

プロフィール

永井一正(ながい かずまさ)

1929年大阪生まれ。1951年東京藝術大学彫刻科中退。1960年日本デザインセンター創立に参加。現在、最高顧問。JAGDA特別顧問、ADC会員、AGI会員。1960年以後、日宣美会員賞、朝日広告賞グランプリ、日本宣伝賞山名賞、亀倉雄策賞、勝見勝賞、ADCグランプリ、毎日デザイン賞、毎日芸術賞、通産省デザイン功労賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小授章、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞、ブルノ、モスクワ、ヘルシンキ、ザグレブ、ウクライナ、ホンコンの国際展でグランプリを受賞。

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