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山縣良和×奥山理子が芸術で掘り下げる、社会と生きづらさの関係

山縣良和×奥山理子が芸術で掘り下げる、社会と生きづらさの関係

『TURNフェス2』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:野村由芽、飯嶋藍子

僕らは普段、集中できていないし、できなくなっていると思った。(山縣)

―実際に関わられてみて、奥山さんから見た山縣さんの印象はいかがですか?

奥山:最初、ここのがっこうの授業風景を見させていただいたとき、山縣さんの姿勢がとても誠実だなと感じました。山縣さんはゴールを設定して逆算的に物事を見るのではなくて、そこにすでにあるものの膨らませ方を、つねに探していますよね。人生への不安を抱えた学生さんと向き合いながらも、話している内容は創造的なファッション論なのが面白いです。

左から:山縣良和、奥山理子

―現在、山縣さんは、交流プログラムのひとつとして、鹿児島県の障害者支援施設「しょうぶ学園」との交流を行なっています。これは、どのように始まったのですか?

山縣:しょうぶ学園と出会ったのはTURNと関わる前で、ここのがっこうの学生から、そこで行われている「nui project」を教えてもらったことでした。これは「針一本で縫い続ける」行為を通して、人の個性を発見するものなのですが、ぜひ現場に行ってみたいと思って。

というのも、そのころ僕は神戸ファッション美術館で行われていた『BORO(ぼろ)の美学 ―野良着と現代ファッション』という展覧会に参加していたんです。これは、青森の民俗学者である田中忠三郎が収集した東北の伝統的な衣服をテーマにした展覧会だったのですが、そこで「刺し子」が扱われていたんです。現代において、そんな刺し子のような存在を精神的に継承しているのはnui projectじゃないかと思って。

山縣良和

―刺し子とは?

山縣:布に糸で幾何学的な模様を描いていく手芸の分野です。田中さんによると、刺し子というのはお母さんが家族の寝静まった真っ暗な中でずっと刺していたもので、その行為はある種、日々の辛さを忘れさせる精神的な営みだったようです。それを知りたいと思っていたときに、ちょうどTURNから声をかけていただきました。

―しょうぶ学園では、どんな交流を行われているんでしょうか?

山縣:最初は学生と施設に行き、その空気を感じることから始めました。その後、ワークショップをやりたいと思ったのですが、なかなか何をすべきかわからなかったんです。

でも、施設にいる方たちの没頭する力を見ると、僕らは普段、こんな風に集中できていないし、できなくなっていると思った。それで、決められた時間、事前に何を作るかを決めずに、「ひたすら行為に集中する」というワークショップにしました。

―すごくシンプルですね。

山縣:この活動に限らないですが、僕はファッションの本質に触れたいんです。TURNに共感したのも、ビジュアルや作られているものが、「何かを纏うこと」や「身体との接触」のような、ファッションの本質に近い要素が多くあることでした。いまファッションは、業界全体がシュリンクしていて、悲壮感がすごいんです。

でも、それも仕方なくて、大量生産・大量消費に走り過ぎた結果、過剰供給すぎるんですよね。その土壌で話していても、ラチはあかない。もっと本質的な部分に戻るべきだし、そうじゃないと、ファッションの魅力が伝わらない。TURNやnui projectの取り組みは、業界にとってもヒントが多いはずです。

奥山:かつて、しょうぶ学園の施設長の福森伸さんが、「針と糸を持ったら、みんな何かやり始めるんだよ」とおっしゃったんです。それを聞いた後、ある日みずのきでも、ビーズに糸を通す遊びをしたとき、手の自由がきかない入所者の方が、ものすごく器用に針で通していったことがありました。

奥山理子

山縣:すごいですね。

奥山:すごいですよね。何でこんなことできるんだろうと、私もとても驚いて。でも、山縣さんがおっしゃるように、縫うことには人の本質的なものがあるのかもしれない。

しょうぶ学園さんとしても、その活動に秘められた可能性は、もっとあると感じておられると思うんです。それを山縣さんと一緒に考えられることで、施設にとっても発見があれば良いなと思います。

ファッションを、人間の生命のリズムとは違う場所で、無理やり変化させていることに違和感がある。(山縣)

山縣:福森さんは、「入所者は瞬間の連続を生きている」ともおっしゃっていました。過去や未来より、その瞬間の連続を生きていると。それはある意味、ファッションの究極だと思うんです。ファッションを突き詰めて考えると、「変化の連続性」ということがある。

もともと「流行」、つまり「流れる行方」という意味もあるし、変化を受け入れ瞬間を生きること。しょうぶ学園さんはそんなファッションクリエイションの究極をやっている。

―逆に言えば、そうした有機的な変化に、ファッション業界では出会えない?

山縣:これは僕も含めての問題ですが、変化してはいるんです。でも、大きく言えば、資本主義的に行き過ぎたものになっていて、自然的に変化しているというより、人間の生命のリズムとは違う場所で、市場原理によって無理やり変化させているんです。そこに違和感がある。

―動物的ではないというか。

山縣:数十年前までは、変化がもっとゆっくりでした。たとえば年2回のパリコレでデザイナーが発表して、半年後に一般にも影響が現れるという流れだった。でも、ファストファッションができたことで、パリコレの2週間後には、コピーブランドが類似した商品を出してしまう。

つまりコピーとオリジナルが逆転して、頑張ってクリエイションした人が損するシステムになっているんです。そこではデザイナーもサイクルを早めざるを得ず、結果、デザイナーは疲れてしまった。クリスチャン・ディオールのデザイナー、ラフ・シモンズが最近ブランドを辞めた理由もそれです。

山縣良和

奥山:福祉にも似た状況があります。システム化されて、人の有機的な部分が削ぎ落とされてしまう。たとえば、診断名や数値に個人の特徴を置き替えたり、「発達障害」という便利な分類をつけることで、サービスを当てはめやすくする。

たしかにその方が運営はしやすくなると思うのですが、福祉なのに、どうして人をすぐに数値や障害特性に当てはめるんだろうと、すごく思います。だから、TURNがやるのは施設や福祉の新しいモデルを作ることじゃなくて、あらゆる社会システムをもう一度、有機的な方にほぐし直していくこと。アートだからできるんじゃないかと思うんです。

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イベント情報

『TURNフェス2』

2017年3月3日(金)~3月5日(日)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
会場:東京都 東京都美術館1階 第1・第2公募展示室

プロフィール

山縣良和(やまがた よしかず)

1980年、鳥取県生まれ。大阪の服飾専門学校を中退、2005年にイギリスの名門セントラル・セント・マーチンズ美術大学ウィメンズウェア学科を首席卒業。2015年『LVMH Prize』に日本人初ノミネート。ジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。帰国後、2007年に自身のブランド「writtenafterwards」をスタート。自由で、本質的なファッションの教育の場として「ここのがっこう」を開催している。

奥山理子(おくやま りこ)

アーツカウンシル東京「TURN」コーディネーター、みずのき美術館キュレーター。1986年京都府生まれ。母の障害者支援施設みずのき施設長就任に伴い、12歳よりしばしば休日をみずのきで過ごす。2007年以降の法人主催のアートプロジェクトや、みずのきの農園活動にボランティアで従事した後、2012年みずのき美術館の立ち上げに携わり、現在企画運営を担う。企画、制作した主な展覧会に『ayubune 舟を作る』(2014年)、『TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)』(2014-2015年)、『共生の芸術展「DOOR」』(京都府委託事業、2014年、2015年)、『みんなのアート -それぞれのらしさ-』(岐阜市委託事業、2015年)など。

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